医療用医薬品の供給不足の発端となったのは、2020年12月に発覚した、ジェネリック医薬品のメーカーの品質不正問題です。
製造工程を守っていないなどの製造上の不正が次々と明るみになり、業務停止などの行政処分は20件以上に上りました。薬の製造が止まって供給が不安定になったことに加えて、新型コロナの流行で、医薬品が手に入りにくい状態が続いています。
日本製薬団体連合会によると、すべての注文に対応できていない「限定出荷」や「供給停止」となっているのは、2025年7月6日時点で2917品目もあります。特に困っているのが、感冒に使用する解熱鎮痛薬や咳止め、血管拡張剤、糖尿病薬など。処方薬の品目の2割以上です。
少しずつ入ってきているものもありますが、抗生剤などはなかなか流通していません。以前ほど使用量は多くありませんが、やはり無いと困る商品です。どうにかしてください。
供給不足への対策が実施されているが
深刻な供給不足に対し、さまざまな策が実施されています。2025年3月7日、厚生労働省保険局医療課から事務連絡「後発医薬品の出荷停止等を踏まえた診療報酬上の臨時的な取扱いについて」が出されました。
同名の事務連絡は2024年9月24日にも出されていて、その期限が25年3月末だったため、「臨時的な取扱い」は4月1日以降も引き続き継続することになります(9月30日まで)。
その内容は、供給停止品目(494品目)と成分や投与形態が同一の医薬品については、「後発医薬品使用体制加算」「外来後発医薬品使用体制加算」「後発医薬品調剤体制加算」などにおける実績要件である後発医薬品の使用(調剤)割合を算出する際に、算出対象から除外しても差し支えないこととする、というものです。
これにより、薬の変更など融通がきくようになっています。ただ、患者様や医師にこの情報が浸透していません。しっかり広報してほしいです。
基礎的医薬品などの薬価を引き上げ
安定供給問題や原材料費の急激な高騰に対応するため、医療上の必要性が特に高い品目を対象として不採算品再算定が適用されました。
不採算品再算定とは、医療上の必要性が高いのに薬価が下がりすぎて生産が減ったものを再算定する(=薬価を上げる)ことです。具体的には次のいずれかを満たす品目です。
①基礎的医薬品とされたものと組成及び剤形区分が同一である品目
②安定確保医薬品のカテゴリA及びBに位置付けられている品目
③厚生労働大臣が増産要請を行った品目
①の要件は以下のとおりです。
1. 医療上の位置付けが確立し、広く臨床現場で使用されていることが明らかである
2. 15年以上薬価基準に収載されており、かつ成分・銘柄ごとのいずれの乖離率が全品目の平均乖離率以下である
3. 過去の不採算品再算定品目、病原生物に対する医薬品、医療用麻薬、生薬、軟膏基剤、歯科用局所麻酔剤のいずれかに該当する
②の安定確保医薬品とは、国民の生命を守ることを目的とし、安定確保について特に配慮が必要とされる医薬品を指します。③はインフルエンザや新型コロナウイルス感染症などの拡大に伴い需給が切迫している鎮咳薬や去痰薬などです。
不採算品再算定によって供給安定化が図られましたが、現場の感覚ではいまだに入荷しないものも多くあり、改善されないのが現状です。
最低薬価も引き上げ
賃金上昇や物価高騰などを踏まえ、最低薬価は3%程度引き上げられました。薬価改定では、引き下げの対象範囲がカテゴリごとに分類されました。最低薬価引き上げのほか、既収載品の改定時加算、累積額の控除なども実施されています。
この程度でメーカーの生産意欲が上向くかどうか、注視したいと思います。メーカーには、生産を中止しないようお願いします。
先発医薬品(長期収載品)の選定療養化
選定療養とは、後発医薬品のある先発医薬品(以下「長期収載品」)を医療上特段の理由なく希望する場合、料金が上乗せされるという仕組みです。上乗せされる料金は、最高価格帯の後発品と長期収載品の差額の4分の1です。
後発医薬品の使用を推進するための施策で、2024年10月に導入されました(連載第22回「10月から先発薬に『特別の料金』が導入された」参照)。
当然、多くの方が後発品に変更されました。処方薬を長期服用される方には年金生活の高齢者が多いのですが、昨今のコメなどの物価高騰から負担の少ない後発品を選ぶ傾向で、選定医療はそのきっかけとなっているようです。
先発品が体質に合うなどの理由で後発品を選べない方もいます。医薬品の流通不足で、こういう方が必要とする医薬品を十分に供給できないことがあります。
同じ成分の医薬品の使用量は後発品が全体の9割程度を占めるようになっていて、先発品の製造量が激減しているのです。先発品の出荷を一時停止し、製造ラインを他の商品に振り向けていることも考えられます。
出荷停止により急な増産ができなくなり、他社にしわ寄せがいきます。市場から医薬品が少なくなって、薬局やクリニックが量の確保に動きます。すると、奪い合いになってますます市場から少なくなります。こうした負のスパイラルが現在も続いています。
コメ問題では、国が大ナタを振るいました。医薬品の領域も同じようにできないものでしょうか。設備増設や配送に強力な指導力を発揮してもらいたいと思います。
選定療養の影響も出始める
2025年4月1日からの薬価改定で、長期収載品の処方等又は調剤に係る選定療養の対象医薬品に変更がありました。新規に43品目が追加された一方、133品目が対象外となり、つごう1006品目となりました。
私たちはこのことを「先月までは選定療養で今月からはそうじゃなくなりました」などと患者様にお伝えします。そう説明するしかないですが、この説明で患者様が理解できるか、納得してもらえるか、不安です。
また医療用医薬品のうちOTCとしても発売されている薬剤の保険適用を除外するという話も出ています。これも大きな問題です。次回お伝えしたいと思います。
来年の診療報酬改定の議論も始まっています。「ものから人へ」がますます進む中、人件費も上がっています。それでも薬局での業務が若い人に魅力あるものであるよう、心から願っています。

高橋眞生(たかはし・まなぶ) ㈱カネマタ代表取締役
在宅医療薬剤師。千葉・船橋で保険調剤薬局を展開。訪問薬剤管理を長年実践し、在宅患者からの信頼も篤く地域医療に貢献している。