第20回 2024年度診療報酬改定、調剤のポイントは3つ

2024年 3月 21日

 2024年度診療報酬改定は、“短冊”(個別改定項目)が発表され、方向性が見えてきました。今回の改定は単に点数が変わっただけでなく、これからの日本の医療の行く末を示す重要な改定であると認識しています。

 それは「2040年を展望し、誰もがより長く元気に活躍できる社会の実現」に示されたものが、本気で始まってきたことです。

 高齢者人口はやがて伸びなくなり、単身世帯・夫婦のみ世帯が急増することを見据えています。現役世代が急減することも明らかです。その対策は「より少ない人手でも回る医療・福祉の現場を実現」することで、その方向性が今回の改定のキーワードではないでしょうか。。

 DX化はその切り札であると位置づけられ、そこを見据えて診療・介護報酬の改定も行われているように感じます。診療報酬は、今回6月1日実施と、2カ月後ろ倒しになります。

在宅医療の需要増に対応
 調剤では、在宅医療・服薬フォローアップ・医療DXの3点が大きなテーマです。

 トリプル改定においては「在宅医療」が重視されています。2040年に向けて在宅医療の需要が増大していくとみられており、患者が望む場所で看取りがなされるような体制を整えていくことが求められ、診療報酬上も適応していく必要があると評価されています。

 地域包括ケアシステムを構築するうえでも、住み慣れた場所で自分らしい生活を続けることは重要であり、その意味で在宅医療は不可欠の要素であると考えられています。

 薬剤師や薬局に関しては、在宅医療における薬剤管理状況を把握すること、医療機関や高齢者施設との情報共有が重要な役割とされています。

 かかりつけ医と連携し、在宅医療でも患者が安心して薬物療法を受けられる環境を作っていかなければなりません。なお、在宅患者に対しては薬剤の管理だけでなく、服薬指導を行うことも重要です。

服薬フォローアップ
 2023年7月の中医協(中央社会保険医療協議会)総会では、調剤に関する議論で、今後充実させるべき対人業務の1つとして「服薬フォローアップ」が取り上げられています。

 服薬フォローアップには「適正な使用の推進」「服薬アドヒアランスの向上」「異常が起こったときの受診勧奨」「医療機関に対するフィードバック」などの効果が期待されています。

 適切にフォローアップがなされることで薬物治療に対する患者の不安も解消され、また、服薬に対する意識も高まります。

 ただそうは言っても、実際に取り組む薬局薬剤師には高いハードルのようです。当初、電話によるフォローを実施したのですが件数は伸びませんでした。2020年9月、改正薬剤師法ならびに薬機法が施行され、服薬後フォローアップの義務化が明記されました。

 私どもでは22年8月時点は電話でのフォローアップがメインであり、月平均4件の実施でした。同年9月よりLINEと連動したフォローアップアプリを導入しました。

 アプリ導入にあたりスタッフの手間や業務量増加が懸念されてもいたため、現状の調査と積極的な服薬後フォローを行う体制およびその方法と有用であった実例の共有から始まりました。

医療DXはこんな形でも
 アプリ導入店舗2店において、導入時の22年9月から翌年10月までの服薬後フォローアップ状況について調査しました。またフォローアップを進めるにあたり、以下の3点の施策を意識的に行いました。

髙橋薬剤師20-1

 • チラシの配布
 投薬時に利用方法や友達追加のための2次元コード付きのチラシ(図1)をお渡しし、補足説明を口頭で行った。
 • 朝礼時のスタッフへの声掛け
 朝礼ノートに1日のご案内数の目標値や現時点の登録者数などを記載し、モチベーションの維持に努めた。
 • 患者様へのご案内数の集計
 毎日各々のスタッフがご案内した数を表に記載し(図2)、視覚的に推進状況が把握できるよう工夫した。

髙橋薬剤師20-2

図1

髙橋薬剤師20-3

図2

 その結果、以下のような変化が起こりました。

髙橋薬剤師20-4

 該当店舗のスタッフからは、以下のような感想も上がりました。

 • アプリを使用することでフォローアップ時の文章が残り、認識の齟齬発生を防ぐことが出来る点が有用。
 • メッセージ機能を利用した患者様の不安の軽減や処方医への連携がしやすくなるため、メンタル系クリニックの近隣薬局ではフォローアップツールの導入が有用。
 • アプリと薬歴の連動性は重要。
 • 患者様の特性によってはアプリでのフォローアップが不適切な場合もあるため、電話など口頭でのフォローアップを行う必要もある。

 以上のような方法も有用な1つと考えています。ものから人への変化にもDX化を活用することが必須になるようです。診療報酬の改定も、いろいろことがDX化という名のもと、急激に進んでいくようです。

高橋眞生氏

高橋眞生(たかはし・まなぶ) ㈱カネマタ代表取締役
在宅医療薬剤師。千葉・船橋で保険調剤薬局を展開。訪問薬剤管理を長年実践し、在宅患者からの信頼も篤く地域医療に貢献している。

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第19回 大災害と大事故を自分に引き寄せてBCPを考える

 能登半島地震により被災された皆様、ならびにそのご家族の皆様に心よりお見舞い申し上げます。2024年がスタートしてあっという間に3カ月になります。1月1日に発災した能登半島地震と、その翌日に起こった日本航空と海上保安庁機の衝突炎上事故は、辰年の大きな記録として残っていくことでしょう。
 
■薬剤師会はモバイル薬局を派遣
 能登の様子をテレビで拝見し、東日本大震災の際にお手伝いに行って目にした光景が目に浮かびました。今回も多くの薬剤師仲間が支援に行っています。介護関係者もボランティアで参加しています。
 
 大きな災害が起きるたびに、支援の様子も進化しているようです。発災直後から7日目まで・2~3週目・それ以降と、その時々に必要とされるものは何か、支援者はどう動くべきか、積み重なった経験が…

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第18回 薬品の供給不足が常態化・深刻化している

 2024(令和6)年の診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス費のトリプル改定という大きな変化を前に、保険薬局においても薬剤師業務が患者様に向かうべく、AI導入や電子処方箋など、DX化をいろいろ進めています。その一方で、いま薬剤師の業務で大きな負担になっているのが、医薬品の調達です。
 
■咳止めの在庫不足が深刻
 通常よく使われる薬の出荷が止まったり制限されたりして、薬局や医療機関への入荷が滞っています。その数について、厚生労働省は少なくとも3000品目以上に上っているとみているようですが、これは医療用医薬品全体のおよそ2割にあたります。
 
 私たちの感覚では状況は日に日に悪くなっているようです。やっとコロナが一段落して、やはりというかインフルエンザが例年より早く流行しはじめています。また通常の風邪も流行りだしています。そのような中で現場の薬剤師は…

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第17回 東日本大震災を振り返る石巻の旅

■近年多発する水害
 最近は豪雨災害の報道をよく目にするようになりました。今年の水害は沖縄に始まり、日本をほとんど縦断するようでした。10年に1回レベルとか、気象庁の記録にもない規模の災害が次から次へと起きています。
 
 線状降水帯が九州各地から四国・中国・北陸と私の記憶では大雨災害の少ない東北の秋田にまで発生して、洪水やがけ崩れ・交通遮断・断水などインフラは壊滅状態です。医療機関も洪水被害に遭い、患者が転院せざるを得ない状況になっています。
 
 男鹿半島と秋田市を結ぶ幹線道路沿いにある友人の薬局が、床上浸水してしまって大変なことになっていると連絡がありました。友人や家族の無事は確認でき…

第16回 マイナ保険証は高齢者を置き去りにしないか

■患者側のメリットは確かにある
 医療分野でも、いよいよ本格的なデジタルトランスフォーメーション(DX)化が始まりました。まずはマイナンバーカードを健康保険証として使用する、マイナ保険証の導入です。
 
 DXを取り入れることで業務を効率化し、医療費の無駄をなくして、患者に適正で質の高い医療を提供できる。市民は、より安全で安心な生活を送れるようになる。それが目標です。
 
 2023年4月には特例措置でマイナ保険証関連の医療費をさらに引き上げ、マイナ保険証を使えば患者自己負担も低くなる報酬改定を行っています。
 
 2022年10月より、マイナ保険証に対応した医療機関を受診した場合の医療費の負担について、利用した際は21円から6円に引き下げ、従来の健康保険証を利用した際は9円から12円に引き上げられました。
 
 患者側のメリットはほかにもあります。マイナンバーで情報を承認すると、「お薬手帳」に相当する処方内容や健康診断の結果などが閲覧でき、いつどこを受診されどのような処方であったか確認できます。それにより薬剤の重複や適正使用を確認できます。
 
 薬局薬剤師の役割も進化します。正しく調剤することだけでなく、得られた情報を吟味し、処方された薬剤が適切かどうかを検証し、問題があれば…

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第15回 薬剤師の課題は2023年も多い

 2023年が始まりました。今年は医療・介護業界に大きな変革が起こることが予想され、実際に始まってきています。
 コロナ感染者はこのところ減少傾向ですが、今後はどうなるでしょうか。5月に5類に引き下げられますが、その扱いはどうなるでしょう。問題は山積みです。国の朝令暮改は県・市町村まで影響していますね。
  検査の無料化事業も、3カ月おきくらいに対象者確認フローの変更や日程延長があり、そのたびに社員への周知と利用者様への案内など対応してきました。その通知も変更前日にくるというバタバタしたものです。
 このような対策も、5月には大方なくなってしまうように感じています。取り扱いはほぼインフルエンザと同様になるでしょう。
 薬局運営では、メーカーの不祥事に端を発した後発品不足問題、漢方薬の原料不足からの供給不安定、さらには国が進めるデジタル化の波、DX化による機械設備の負担、そしてインボイスに対応するためのレジ等の入れ替えなど、経費負担も含め問題は山積みです。
 コロナ感染症は発生から丸3年がたち、久々に行動制限のない正月でした。久しぶりの里帰りができて、ふだんの生活に戻った感はありますが、正月明けのコロナ感染者の数はこれまでより多くなっています。
 1月は死亡者の人数も最多となり、まだコロナが収まったとは言えません。私の薬局では通常、31日から3日までの4日間お休みをいただきます。この年末年始、31日は当番医で開局し、休みの間に緊急在宅訪問が5件ありました。全く業務がなかったのは1月1日だけです。
 在宅訪問にかかわる限り、当然のことと思っています。そのような中で正月明けまではコロナ感染をあまり意識しなくてもよかったように感じています。
 年末年始を過ぎ、コロナ関連の処方が徐々に増えてきました。人の移動と共にやはり増えてきたかと思っていましたが、私どもの薬局でも、1月10日過ぎから濃厚接触者2名、陽性者が3名と相次ぎました。
 薬局運営の人繰りがたたず、休み返上や長時間勤務をしていただかねばならない状況になってしまいました。
 感染した者に聞き取りますと、「どこで感染したかわからない…

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