■素早く地域に戻すことも重要
85歳以上の高齢者(以降は超高齢者と表記する)は、医療と介護を切り離せない。超高齢者が急性疾患で入院を余儀なくされたとき、その治療だけでなく、いかに素早く地域に戻すかも重要となる。医療だけでなく、生活を支える視点が必要になってくる。
生活の視点を欠いて医療に偏れば偏るほど、超高齢者は地域に戻れなくなる。入院が長引けば虚弱はどんどん進み、行き場所はなくなってしまう。
地域に戻すために、回復期病棟や地域包括病棟ができた。先端医療等を提供する急性期からできるだけ速やかに、地域に戻るための病院に移る。そしてしっかりリハビリを受けてもらう。しかしながら現実は、回復期リハビリテーション病院でリハビリができなくなっている。
高齢者(超高齢者も含む)の生活の質を維持するうえで、近年、三位一体の支援が重要視されている。三位一体とはリハビリ、栄養、口腔の取り組みで…
第19回 サービス提供者への感謝を込めて「ケアリンピック武蔵野」🆕
2015(平成27)年12月12日、「ケアリンピック武蔵野2015」(第1回)が開催された。武蔵野市内の介護保険サービス事業者をたたえるイベントで、笹井さんは健康福祉部長としてこれを企画した。介護・看護永年従事者表彰や事例発表・ポスターセッション、さらに有識者の講演、市民公開講座と多彩なプログラムだった。
■市長が公開の場で表彰
2015年は介護保険が始まってちょうど15年目という節目でした。市として介護保険制度施行後を振り返り、サービス提供の実態を把握すると、現場では制度スタート時の熱い思いとか、情熱、やり甲斐、といったものがだんだん薄まってきているのではないか…という感覚がありました。サービス提供がルーチン化しつつあるように思えたんです。
そこで、武蔵野市民のために介護サービスを提供し続けてくださっている方々に保険者として報いるようなイベントができないか、介護や看護に従事する方々が誇りとやりがいをもって働き続けられる“カンフル剤”のような、そして人材確保の発展に寄与することができるようなことができないか、と考えました。
イベントの柱は永年従事者表彰で、15年以上もの長きにわたって市民に介護保険サービスを提供されている介護職・看護職を、事業所や法人単位ではなく…
第23回 外国人介護職への訪問解禁を契機に🆕
厚生労働省が、「特定技能」や「技能実習」などで働く外国人介護職に、訪問介護に従事してもらう方針だという。実施は来年度の見通しだ。
日本人の介護職は「初任者研修」を終えていれば、訪問介護に携わることができる。だが、外国人介護職は今は、さらに上級の資格である「介護福祉士」を取ることが、訪問を行う事実上の要件になっている。これを変更し、日本人と同じスキルがあれば訪問介護に従事できるようにするのだという。
■介護の本質は生活の継続を支援すること
従事する要件に差を設けていた背景に、日本語によるコミュニケーションが不十分だと訪問介護はうまくいかない、という配慮があったことは理解できる。それはそうだろう。訪問介護では、利用者のニーズを汲み、個別のサービスを提供することが必要になるからだ。
だが、訪問介護のノウハウを伝えずに、いったい今までどんな介護を伝授してきたのだろう、とも思う。介護の本質は、要介護の人の生活の継続を支援することのはずだ。
自宅で利用者の生活を見て、どう暮らしたいかを聞き、日々の目的を共有し、どんなサービスで暮らしを支えるかを考える。その訓練なくしては、介護を本質的に理解できないのではないか。
技能実習は特に、外国人に介護の技術を学んで持ち帰ってもらうことが目的なのに、介護の基本である「生活の継続」を教えずに…
第18回 武蔵野市は総合事業でも要介護認定を必須とした🆕
2015(平成27)年4月に始まった新しい総合事業は、遅くとも18年3月(17年度末)までに開始することが自治体に義務付けられた。武蔵野市は15年10月のスタートとなった。
■武蔵野市の新しい総合事業へのスタンスを明確にした
お話ししたように私は新しい総合事業に対して、保険制度としての介護保険との整合性とう点で大いなる疑問がありましたが、決まった以上は進めなければなりません。
そこで、武蔵野市は総合事業の希望者であっても、最初にサービスを受けるときは必ず要介護認定を受けてください、主治医の意見書も必要です、ということにしました。
そうすれば、窓口によるバラつきも生じません。そのかわり、総合事業対象者の更新時は基本チェックリストだけでもいい、と簡素化しました。
15年4月は第6期介護保険事業計画の開始時期です。武蔵野市は「武蔵野市高齢者福祉計画・第6期介護保険事業計画」で、この中に「平成27年度介護保険制度改正への武蔵野市の対応」という章を設け、介護予防給付の見直しについて説明しました。
そこでは「国の制度見直しに伴う課題・問題点を把握したうえで、武蔵野市として地域の実情に応じた円滑な対応とサービス水準の維持向上を目指す」と、私たちのスタンスを明らかにしています。
そして国のガイドラインを参考に15年3月、「新総合事業対応方針」を整理しました。主な内容は…
第22回 10月から先発薬に「特別の料金」が導入された
診療報酬が改定されて数カ月過ぎ、算定できなくなったもの、新しく算定できたものなどのデータが見えてきました。それは、大筋で「無駄を省き経費を削減する、社用車・設備の清掃点検をこまめにして大切に扱う、整理整頓して誰にでも使えやすい、快適な職場」を目指すものと読んでいます。これはミスや事故を無くすことにもつながります。
■ついに薬でも「選定療養」が実施
新たな取り組みとして2024年10月から薬局における選定療養がはじまりました。選定療養とは、後発医薬品がある薬剤で先発医薬品を希望する場合、料金が上乗せされるという仕組みです。
選定療養は医科や歯科では従前からありました。大病院の紹介状のない初診、入院時の差額ベッド代、白内障の多焦点レンズ、歯科の金合金、入れ歯のセラミックなど多くのものが対象です。「保険外併用療養費」とも言われます。
今回、ここに医薬品が初めて加わりました。対象となる医薬品や患者様は一部に限られますが、先発品にこだわりのある、いままで後発品を拒否していた方々の薬剤が主な対象となります。後発医薬品(ジェネリック)の使用促進が頭打ちになり、医療費の削減の一環として…
第50回 医師の働き方改革にあえて言いたい
■多くを学んだ研修医時代
2024年4月から、医師の働き方改革の新制度が始まっている。医療法が改正され、医師に対する時間外労働の上限規制が設けられた。労働基準法に設けられている労働時間の上限規制が原則的に医師にも適用される。ただし、救急や研修といった医療機関の類型により、一般労働者とは異なる水準が設定されている。
ワーク・ライフ・バランスを重視する時代、医師もその流れには逆らえない、ということなのだろう。それは理解できるのだが、「愚直在宅医療保存会」「愚直かかりつけ医保存会」(連載42・43回参照)の私としては、あえて疑問を呈したくなる。
私はいわゆる旧研修制度を経験した。2004年に始まった現行の研修制度の前の制度である。旧研修制度の問題点はいろいろ指摘されたが、なかでも批判が集中したのは…
第49回 ケベックの家庭医はゲートキーパーではなかった
■かかりつけ医のイメージ
かかりつけ医の役割をめぐる議論で、「かかりつけ医とはゲートキーパーである」という意見をしばしば耳にする。かかりつけ医の役割はプライマリな医療を提供し、必要に応じて専門医や専門医療機関を紹介すること、というものだ。
この意見からは、「かかりつけ医は初歩的・基礎的な医療を提供すればよく、手に余るなら専門医に渡せばよい」といった考えが透けて見える。これは、かかりつけ医がいつもどんな仕事をしているか全く知らない人が、勝手に抱く “かかりつけ医のイメージ”に基づいて考えているに過ぎない。かかりつけ医のそういうイメージは、間違いだ。
どうして日本では「かかりつけ医は初歩的・基礎的な医療を提供すればよいゲートキーパー」のイメージなのか。先日、カナダ・ケベック州を訪れ、家庭医の位置づけや養成システムについて聞く機会を得た。多くの点で日本とは異なり…
第17回 「新しい総合事業」は介護保険の根幹を揺るがす制度変更
■国は医療系サービスまで移行させようとしていた
2015年4月、介護保険法が改正され、市町村事業である地域支援事業に「介護予防・日常生活支援総合事業」(新しい総合事業)が創設された。介護予防サービスのうち訪問介護と通所介護は廃止され、これらは新しい総合事業に移行することになった。
もともと厚労省は、予防の訪問と通所だけじゃなく、もっと多くのサービスを新しい総合事業に移行させる、という考えでした。介護予防訪問看護とか介護予防通所リハも移すと。法改正前の厚労省担当者と学識経験者、市町村代表との非公式な検討段階の議論で、私はそれに猛反対しました。
その理由は、訪問看護や通所リハは医療系サービスなので医師会の影響下にあり、基本的に市町村独自では単価の設定や需給調整などをコントロールできないからです。
そもそも総合事業の目的は何だったのか。厚生労働省が2015年6月に示したガイドラインでは、①住民主体の多様なサービスを充実することで要支援者の選択肢を広げる、②多様な担い手による多様な単価、住民主体による低廉な単価の設定、③高齢者の社会参加の促進や効果的な介護予防ケアマネジメントを通じて費用の効率化を図る、といった狙いが示されていました。
つまり、総合事業は市町村が住民主体の多様なサービスを創設し育成してコントロールするのが原則じゃないですか。でも、訪問看護や通所リハといった医療系のサービスが、果たして市町村のコントロールで受給調整できるのか。医師会など医療関係者と市町村には、連携しつつもどうしても緊張関係があって…
第16回 制度改革を訴える提言
■フォーラムや実態調査をもとに
フォーラムから2年後の2003年12月、武蔵野市は「介護保険施行5年後の見直しに向けて~武蔵野市からの提言~」を公表する。
介護保険法の附則第5条には、政府は見直しの検討にあたって、「地方公共団体その他の関係者から当該検討に関わる事項に関する意見の提出があったときは、当該意見を十分に考慮しなければならない」と明記されています。
武蔵野市は介護保険法が成立する前、法案に対して批判的なブックレットを発行したような(第3回参照)“もの言う自治体”です。5年後の見直しについて意見や要望をしっかり表明するのも、自然な成り行きと言えます。
そこで、庁内に「介護保険施行5年後の制度見直しワーキングチーム」を設置しました。05年度(平成17年度)に予定されている見直しが検討されるのは04年度まででしょうから、01年のフォーラムで出された意見などに基づいてワーキングチームで検討し…
第48回 病院で生まれた緩和ケアと地域での看取り
■状態が悪化して帰れなくなった
70代前半の独居男性が希少なタイプの胃がんと診断された。病院ではできることがないと言われ、新田クリニックの外来で経過を診ていた。次第に動けなくなってきて、看多機を利用することになった。娘さんは父親を心配しながら、最期はどうするか、家に帰らせていいものかどうかと思い悩んでいる。
ある金曜、私が看多機に立ち寄ると、彼から話があると言われた。娘さんと一緒に翌日行くと、家に帰りたい、と言う。つねづね、いつでも帰っていいですよ、自由に決めてください、と言っていたくらいだから、もちろん異論はない。
これまで本人は、帰ったあと一人で暮らせるか心配で、踏み切れなかった。最期を意識するようになって、やっぱり帰りたい、という気持ちになったようだ。
その週末で訪問看護などのめどがついて、週明けの月曜に娘さんと一緒に帰宅するはずだった。ところが、その月曜、状態像が急激に落ち…
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