医療関係者の間で話題になっている『透析を止めた日』(講談社、2024年11月刊)を読んだ。著者はノンフィクションライターの堀川惠子さんで、NHKの敏腕プロデューサーであった夫・林新さんの闘病や終末が活写されている。堀川さん自身も元NHKディレクターである。
林さんは若いころから多発性嚢胞腎を患い、30代で血液透析を受けていた。状態が悪くなって50歳で生体腎移植を受け、しばらくはQOLも良好であった。数年後、肝臓にも病変が見つかり、肝腎同時移植が検討されるが、実施には至らず。移植した腎臓もやがて機能が落ち、血液透析が再開された。
この段階では透析の効果がほとんどなく、悪化の一途をたどる。そして60歳で生涯を閉じる。堀川さんはそんな夫の傍らで、食生活を支え、通院を支え、末期のすさまじい苦痛を目の当たりにする。その描写は壮絶で、胸が痛くなる。
■緩和ケア病棟と血液透析の問題
堀川さんは本書で重要な問題提起をしている。その1つは、緩和ケア病棟の問題だ。堀川さんは林さんが入院している病院の医師に、緩和ケア病棟に移してほしいと頼むが、断られてしまう。緩和ケア病棟はがん患者しか入院できません、と(正確には、エイズ患者も入院できる)。
私はこのことを知らなかったので、とても驚いた。在宅緩和ケアはどんな病気であっても受けられるのが当たり前だ。ところが病院ではそうでないというのだ。それなら、在宅で腹膜透析をしながら緩和ケアを受ければよさそうなのに、そういう選択肢も示されない。林さんは日本を代表する医療機関や著名な大学病院で治療を受けていたというのに。
つまり、うがった見方かもしれないが、林さんには「腎臓の主治医」はいたけれど、「林さんのかかりつけ医」はいなかった。そう言わざるを得ない。さらに不幸なことに、「腎臓の主治医」さえも不在となってしまうのである。
2つ目の問題提起は、わが国の透析があまりにも血液透析に偏っていることだ。堀川さんは夫の状態を見かねて自ら調べ、身体的負担の少ない腹膜透析(PD)を知ることになる。堀川さんは最初…
