在宅復帰後のサービスが不足
ホスピスホームや緩和ケアホームなどでの訪問看護の請求過多がニュースになっている。過剰請求、実際には行っていないサービスの不正請求など、悪質なケースも少なくないようだ。
もっとも、こうしたことが起きる「温床」は元々あった。「温床」と言うか「環境」と言うかは難しいところだが。
厚生労働省は介護保険発足後、介護サービスから「住まい」の機能を外し、この提供を民間サービスに移行させてきた。介護のニーズが増える中で施設整備は民間にゆだね、利用者にはホテルコストを導入した。住まいの機能を切り離して、公的介護サービスのコストを下げたわけだ。
医療サイドへは在宅看取りの旗を振って、長期入院を減らしてきた。早く退院させることは医療費軽減にもなったし、「家に帰りたい」という高齢者の希望にも合っていただろう。
医療や介護の必要な人が家に帰れば、在宅サービスが必要になる。だが、介護保険は家で看取ることを想定しておらず、在宅看取りに十分なサービス量を設定していない。
考え方は変わったのに、サービス量の上限は介護保険スタート当初と変わらない。事業者から見れば、「不足分は取れるところから徴収しよう」となる。目いっぱい公的サービスを使わせて、残りは自己負担で取ろう、となる。
重度や末期の人が家で最期を迎えるのに十分なサービスが提供されないところが最大の問題だと思う。
サービス外付け型ホームが急増する理由
もちろん過剰請求や不正請求は違法行為で、厚労省に原因を求めるのは筋違いかもしれない。では、違法でなければ良いのか?
合法的な方法もある。冒頭にホスピスホームや緩和ケアホームと記したが、行政的にはこうしたカテゴリーはない。
これらのホームは一般に、「住宅型有料老人ホーム」か「サービス付き高齢者向け住宅」として登録されている。ハードである「家」と、ソフトの「医療や介護のサービス」が別建てで提供される「外付け型」だ。
「有料老人ホーム」は、以前は住まいと介護サービスがセットで提供される「内包型」を指すのが常だったが、今は様変わりして、この外付け型が急増している。
いわゆる「高齢者向け住宅」のなかでは、この住宅型とサービス付き高齢者向け住宅も加えて、「外付け型」が圧倒的に多く、厚労省はこちらを主流にするつもりなのだろうと思う。
事業者にとっても都合がいい、のだろう。内包型はいわば「施設に準じたサービス」で、全体の給付が介護報酬改定のたびに低く抑えられる。
一方、外付け型なら、実際には隣接する事業所がサービスを提供していても、一般の訪問看護や訪問介護とほぼ同等の報酬を請求できる。満額請求すれば、トータルでは内包型よりずっと高い報酬を得られる。
さらに、利用者が厚労大臣の定めた19の特定疾病に該当する場合には、サービスを介護保険の上限額に縛られずに済み、訪問看護を医療保険に請求できる。
末期がんやパーキンソン、進行性筋ジストロフィーなど、訪問看護の必要性の高い難病などがこれに充たる。そもそも介護保険の上限額ではサービス量が不足する人たちだ。
こうした人たちは介護保険スタート当初はおそらく、疾患が進行した時点で医療療養病床や介護療養病床にいわば「入院」して最期を迎えていた。
これらの医療機関や施設では、医療と介護のサービスに「住まい」の機能が含まれる。社会保障で賄われるトータルコストは安く、環境が良くないところも多かった。その結果、自己負担も安い。
それは事業者サイドから見れば、「さして利益にならない」ということだったかもしれない。患者サイドから見れば「多床室での寝かせきり」となっただろう。
環境を整えるために、自己負担を上げる医療機関が増えた。そうすると、払えないから入院・入所できない人も増える。
利用者の払える自己負担には限界があるから、事業者はどうしたら公的給付を多く取れるかに知恵を絞る。従来型の療養病床を作るより、隣にサービス事業所を併設して住宅型有料ホームを運営した方がいい、となる。
不正請求がなくなれば済む話なのか
運営する事業者の中には、19の疾患のある人を、いわば「探して」きて、入所させるところもある。家賃と医療や介護サービスの自己負担分を払えなければ生活保護を受けさせるのだという。
ある自治体の首長は、「困っている。だが、不正請求でもないし、摘発する根拠もない。対処できない」と言っていた。
事業者を儲け主義だと批判することもできる。だが、ひょっとしたら「いいことをしている」つもりかもしれない。
「患者は医療も介護も受けられて、生活の質が上がった。死ぬまで面倒を見るし、今までよりも幸せだ」と反論されたら、なんと言えばいいだろう。「本人の意向に添っているのか」と問うのがせいぜいだという気がする。
何度も言うが、もちろん過剰請求や不正請求はダメなのだ。だが、過剰請求や不正請求が淘汰すれば済む話とも思えない。介護保険の発足から25年が経つ。どこかで、何かを間違えたのだろうかと悩んでいる。
*****
選挙目前である。年々、投票先がなくなっていくので困っている。一番の理由は、負担軽減を訴える党しかないことだ。どうして、社会保険料の引き下げを訴えながら、介護職の待遇改善を公約にできるのか理解に苦しむ。
社会保険料を税収のように扱う動きにも危惧を抱く。保険料で運営する社会保障は、「権利性がある」といわれる。社会保険料を軸としたから、手厚い給付を実現できた。負担軽減が自身の将来にどう跳ね返るか、考えた方が良いと思う。

時不知すずめ(ときふち・すずめ) 医療や介護について取材する全国紙記者