第22回 介護保険料の伸び率が低かった事情とカラクリ🆕

2024年 6月 7日

 令和6~8年度の65歳以上の高齢者が納める介護保険料(第9期)は全国平均で月に6225円になった。

整合性ある報道か
 マスコミは概ね、「こんなに高くなって大変だ」というニュアンスで報じている。あれだけ介護職の処遇改善が必要だと書きたててきたのに、保険料が上がると「高過ぎる」というのは、整合性がない気がする。

 資金は天から降ってこないので、処遇改善をするなら保険料の引き上げは致し方ない。覚悟と責任をもって記事を書いてほしいと思ってしまう。

 しかも、伸び率3.5%は過去8回の改定の中で下から3番目という低さだ。高齢者数は増えているし、6~8年度は介護職の処遇改善のために、介護報酬を1.59%も引き上げたのに、よくこの程度の保険料の伸びに収めたと思う、と社内で言ったら、「そんな記事は掲載できない」と怒られた。

涙ぐましい指導
 ここで鬱憤を晴らしたいわけではないが、保険料を低く抑えた背景には、「事情」も「カラクリ」もあると見ている。

「事情」は、少子化対策の支援金。官邸が「実質的な追加負担を求めない」と言っている以上、そうそう保険料を引き上げられなかったのだと思う。

 「カラクリ」は改定の起点だ。6年度は介護報酬の改定年だが、今年度はいくつかの改定が6月スタートになった。訪問看護や訪問リハビリ、通所リハビリのほか、目玉の介護職の処遇改善も6月からだ。

 厚生労働省が昨年末に市区町村に出した課長通知には、特に財政影響の大きい処遇改善が2カ月遅れで実施される影響を「差し引いて」1号保険料を算出するように、と念押しし、計算式も示している。

 日数の少ない2月に浮いた3日分の生活費を、他の月に均等に振り分けるようなもので涙ぐましい指導と言える。

大阪府の自治体が高額1~3位
 さて、ここからが本題だ。自治体別保険料で驚いたのは、高い方から順に1位、2位、3位をいずれも大阪府の自治体が占めたことだ。大阪市9249円、守口市8974円、門真市8749円である。

 念のために言っておくと、私は介護保険料が「高いとダメ」とは思わないし、「安いと偉い」とも思わない。

 住民が、潤沢なサービスを求めて、納得して負担するなら保険料が高くてもよいし、薄いサービスで安い保険料を選ぶなら、そういう選択もあると思う。スタート時には「地方自治の試金石」と言われたくらいで、腹を据えてやっている自治体は、高い自治体も安い自治体も魅力がある。

 ただ、住民の納得感がないまま保険料が高かったり、サービスが薄かったりするのは好ましくない。特に政令市の保険料が高いのは、国にとっても頭痛の種だと思う。人口が多い地域の高保険料は、介護保険財政へのインパクトも大きいからだ。

大阪市の介護保険料はなぜ高い
 さて、大阪市はしばらく前から介護保険料上位の常連である。なぜ保険料が高いのか。

 厚生労働省の「地域包括ケア『見える化』システム」で政令市を比較してみると、大阪市は高齢化率が高くない割に要介護認定率は飛びぬけて高い。また、介護保険事業状況報告によると、大阪府は都道府県の中で最も要介護認定率が高い。

 私自身は、この背景に、サービス付き高齢者向け住宅と住宅型有料老人ホームといった「住まい型サービス」が多いことがあるのではないかと思っている。

 これらのサービスは、訪問や通所サービスを併設して、住人に外付けで潤沢な介護サービスを提供する傾向にある。事業者は施設よりも高い介護給付を得られることもあって急増している。

「住まい型サービス」の検証を
 市区町村別の住まい型サービスの数については公的データがないが、高齢者住宅に関するコンサルティング会社から、私自身がデータをもらって分析したところ、概ね仮説に合致する結果が出た。

 サービスの多さが、本人の希望とケアマネジメントの結果なら差し支えない。厚生労働省にきちんと調べてもらいたいところである。

*****
 7月3日に新札が出る。

 切り替え時には、券売機や自動販売機の入れ替えのニュースがつきものだが、今回はどうだろう。これを機に「電子マネーのみ」に踏み切る事業者もいるに違いない。

 新紙幣が電子マネー普及に一役買い、その先には、紙幣もコインも見たことがない、という時代が来るのかもしれないと思うと、ペイペイを送って達成感を得ている場合ではないと焦るのである。

時不知すずめ氏

時不知すずめ(ときふち・すずめ) 医療や介護について取材する全国紙記者

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■訪問介護引き下げの背景
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