「現役世代の手取りを増やす」が、流行りの言葉らしい。そのために、税と社会保険料を引き下げるのだという。その先に何が起きるか分かっているのか? と思ってしまう。
社会保険料を引き下げれば、給付は細る。保険制度は本来、負担と給付が見合うもので、制度を通して所得の高い人から低い人への再分配が行われる。だから、制度が細ったときに影響を大きく受けるのは所得の低い人だ。病気になっても医療を受けられなかったり、老後の防貧機能が薄くなったりしかねない。
税や保険料を軽減して手取りを増やすと言っている人は、いずれ立場の弱い人にダメージが生じると分かっているのだろうか、と思う。
■治療断念を誘発しかねない
象徴的なのが、今国会でもめた高額療養費の引き上げだ。医療費の自己負担に月額の上限を設けて、大病をしても、患者負担が高くなりすぎないようにする仕組みだ。「医療保険のセーフティネット」と呼ばれる。
2025年度予算案に引き上げが盛り込まれたが、がん患者らの強い反対で修正された。長期療養の自己負担は現状維持となる。ただ、全年齢、全所得層で月額上限を引き上げる方針は変わらない見通しだ。
目的は、保険料負担の軽減だという。つまり、病人の負担を上げて、日ごろの負担を減らすわけだ。本末転倒ではないか。
皆保険制度の目的は、元気な時に少しずつ保険料を出しあい、命のかかった重病や大けがのときに不安なく治療を受けられるようにすることだ。家を売ったり、子どもに進学をあきらめさせたりしなければ治療できないようでは困る。
しかも、厚生労働相の諮問機関、医療保険部会の資料によると、高額療養費の引き上げによる医療費削減効果には「長瀬効果」も見込まれている。長瀬効果とは、患者が負担を避けるために治療を断念するなどで生じる医療費の削減効果である。機械的な試算だというが、「よく、こんなこと書くなぁ」という印象だった。
財務省の資料にも、「よく、こんなこと書くなぁ」という表記があった。2025年度予算案のポイント解説だ。高額療養費の引き上げによる社会保険料負担の軽減効果を…
