医療と介護2040でも特集している通り、現場のケアマネジャー不足が顕著なのである。
旧知の介護事業者から、「足りないのは介護職じゃなくてケアマネですよ。このままだと、ケアプランを作れなくなるんじゃないですかね」と吐露されたのが半年ほど前。ただ、地域差もあるのか、厚生労働省の資料では数値で明確に裏付けられてはいない。
厚労相の諮問機関「介護給付費分科会」に6月に出された資料では、居宅介護支援事業所におけるケアマネジャーの従事者数は2021(令和3)年に11万7000人。19年の11万8000人から1000人減っているが、20年からは変わっていない。厚労省は「ケアマネジャーの従事者数は、ここ数年は横ばい」と表記している。
もっとも、利用者の方は増えているわけだから、ケアマネも増やすか、職場の生産性を目に見えて上げることができなければ不足感は生じると思う。
数年前から気になっていたことはある。介護職の賃金が、ケアマネジャーの賃金を超えるようになっていたことだ。介護職の賃金増自体は、処遇改善加算などの「成果」である。
ただ、介護職が足りないという大合唱もあり、ケアマネ資格を持ちながら、もっぱら介護職として働いている人もいるだろう、とは思っていた。
現場のケアマネジャーに電話してケアマネ不足の理由を聞いたら、こんな回答だった。
「ほら、今、介護職の賃金の方がケアマネジャーよりも高いでしょう。以前は介護職の資格を取って、その後にケアマネジャーの資格を取って、というキャリアモデルがあったけれど、今は、それもなくなった感じがするわ」
すっかりモチベーションが下がっているのであった。
データでは介護職よりケアマネの方が高収入
賃金については、公平は期しておこう。厚労省が今年6月に公表した22年度の介護従事者処遇状況等調査結果によれば、ケアマネジャーの賃金は今も介護職よりは高い。
例えば処遇改善支援補助金を取得している事業所では、22年9月に、ケアマネジャー(月給・常勤)の賃金は36万1770円だ。これに対して、介護職(同)の平均給与額は31万7540円。ケアマネジャーが4.5万円ほど高い。
賃金のいわば“逆転”は、データで裏付けられてはいない。しかし、「介護職の賃金の方が高い」という声は施設や法人の責任者からも何度か聞いた。なぜか、みんな声を潜めて話すのである。
ひょっとすると、常勤の介護職には夜勤や泊まりなどがあり、勤務形態が違うことも影響しているのかもしれない。
勤務形態の差から賃金に高低が生じることはあると思うし、キャリアによって個々の賃金に高低が生じることもある。個々人の働き方や職能によって賃金に高低差が生じることはあると思うし、それ自体は問題はないと思う。
ただ、ケアマネのモチベーションがいたく下がっていることには何らかの対処が必要だと思う。
介護給付費分科会の会議で、「不足しているから、もっと簡単に資格を取れるようにすべきだと思う」なんて声が出てしまうようでは、本末転倒ではないかと感じてしまう。
処遇改善については、ここ数年でやっと、原資を他の介護従事者にも充てることができるようになった。全体のバランスを考えながら、介護職の賃金を引き上げられるようになったのだ。
政府が処遇改善加算をスタートした当初は、賃金引き上げの原資を介護職の賃金にしか充てることができなかった。
だから、現場を運営する真面目な施設長や法人理事長らは収益から持ち出しで、看護師やケアマネジャー、事務職らの賃金も引き上げて、全体のバランスを取りながら介護職の賃金を上げてきた。その結果、介護事業経営実態調査で事業所の収益減として表れた。
政治主導で始まった処遇改善だが、制度設計時もその後も、現場の声が十分に反映されているようには感じられない。
ヤングケアラーや引きこもりなど、新たな難しい課題が出るたびにケアマネ頼りになる割には、ケアマネの気持ちは置き去りになっていく、そんな状況はおかしいと思う。
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この夏、旅行先でホテルに泊まった。夕食は午後5時15分から15分おきに指定できて、最終が6時半だという。早くない? ちょっと病院を思い浮かべた。
指定した6時半に食堂で食事を始めた。料理が次々に出てきて、終わった皿は次々に片付けられる。せわしい。
3人の女性が20卓くらいを切り盛りしている。そうか、人手が足りないのだ。
午後8時になると、女性たちは姿を消し、サービスはフロントマンに代わった。なるほど。だから6時半が最終だったのね、と納得感があった。
午後8時半、ガランとした食堂を出ながら、人手不足はこの先さらに進んで、生活はどのように変わるのだろう、と思った。
時不知すずめ(ときふち・すずめ) 医療や介護について取材する全国紙記者