診療報酬が改定されて数カ月過ぎ、算定できなくなったもの、新しく算定できたものなどのデータが見えてきました。それは、大筋で「無駄を省き経費を削減する、社用車・設備の清掃点検をこまめにして大切に扱う、整理整頓して誰にでも使えやすい、快適な職場」を目指すものと読んでいます。これはミスや事故を無くすことにもつながります。
ついに薬でも「選定療養」が実施
新たな取り組みとして2024年10月から薬局における選定療養がはじまりました。選定療養とは、後発医薬品がある薬剤で先発医薬品を希望する場合、料金が上乗せされるという仕組みです。
選定療養は医科や歯科では従前からありました。大病院の紹介状のない初診、入院時の差額ベッド代、白内障の多焦点レンズ、歯科の金合金、入れ歯のセラミックなど多くのものが対象です。「保険外併用療養費」とも言われます。
今回、ここに医薬品が初めて加わりました。対象となる医薬品や患者様は一部に限られますが、先発品にこだわりのある、いままで後発品を拒否していた方々の薬剤が主な対象となります。
後発医薬品(ジェネリック)の使用促進が頭打ちになり、医療費の削減の一環として後発品の保険給付の在り方の見直しが以前から検討されてきましたが、ついに実施となりました。
選定療養の対象となるのは、ジェネリック上市後5年以上経過した(または後発医薬品の置換率が50%以上)長期収載品です。選定療養の場合、ジェネリックの最高価格帯との価格差の4分の1が患者の自己負担に上乗せされます。保険診療外ですから消費税もかかります。
当薬局での事例を紹介します。
・先発薬…グリベック100mg(1日4回、30日分)
・後発薬…イマチニブ「KNP」100mg(同)
1錠あたり薬価は先発が1644.5円、後発が537.4円、差額は1107.1円。その4分の1×4×30日で3万3213円+消費税が上乗せされることになります。患者様も驚き、後発品をお選びいただきました。
ジェネリックが上市後5年未満や置換率50%未満の場合、すなわちジェネリックがまだそれほど普及していない薬品であれば、選定療養の対象になりません。
ジェネリックが普及しているのに患者が先発医薬品を希望すれば、選定療養となります。したがって対象はまだ多くはありませんが、これから範囲が広がる可能性もあります。
先発医薬品が必要と医師が判断しそれを指定した場合や、先発医薬品にしか効能がない場合、薬局にジェネリックの在庫がない場合などは選定療養にはなりません。こうした仕組みを正しく理解していないと、患者様とトラブルになることも考えられます。
後発品の供給体制は、まだまだ不十分です。実績のあるものは入荷しますが、ないものは入荷してこないなど問題はあります。
国は「後発医薬品を提供することが困難な場合(例:薬局に後発医薬品の在庫が無い場合)については、選定療養とはせず、引き続き保険給付の対象とする」と言っています。
ただ在庫しなくてよいわけではありません。在庫することも薬局の役目です。もう1つの問題はデッドストックが発生することです。上記の事例のように後発品を選んでいただくことで、先発薬は不良在庫となり薬局の負担となります。不良在庫が出ないよう、とくに高額な薬は中止してもらいたいものです。
訪問診療の薬剤に新設の管理料
2024年度診療報酬改定(医科)では、訪問診療で強心剤の持続投与を支援する「在宅強心剤持続投与指導管理料」(1500点)が新設されました。
循環血液量の補正のみでは心原性ショック(Killip 分類 class Ⅳ)からの離脱が困難な心不全の患者であって、安定した病状にある患者に対して、携帯型ディスポーザブル注入ポンプ又は輸液ポンプを用いて強心剤の持続投与を行い、当該治療に関する指導管理を行った場合に算定できます。
重度の心不全の治療には強心薬(ドブタミン、ミルリノンなど)が使用されます。薬局で取り扱いできるよう、使用できる薬剤に追加改定されました。ただし、薬局の薬学管理料の加算対象ではないので、調剤報酬や介護報酬としては算定できません。以前のTPNや麻薬持続皮下注と同様です。
相も変わらず、医科と調剤・介護が縦割り行政で、医科の改定に連携していないのです。特殊な調剤のできる事業所が損をしないよう働きかけていかないと、また厚生局とトラブルになりそうです。
医療DXで小規模事業所は淘汰されるのか
2024年度診療報酬改定では、医療DXの推進も柱の1つです。マイナ保険証や電子処方箋などの「医療DX推進体制」を評価する「医療DX推進体制整備加算」が医科、歯科、調剤に新設されました。24年10月から3段階で算定可能です。
その算定要件の1つに「マイナポータルの医療情報等に基づき、患者からの健康管理に係る相談に応じること」とあります。しかし在宅では、それを可能にするシステムが動いていないのです。
マイナンバーカードを確認するシステムが厚生労働省のホームページにアップされていますが、実際には稼働していません。
近年、国は在宅医療を推進し、訪問薬局や訪問診療所が増えています。にもかかわらず、在宅を頑張っている町の小規模薬局は算定率を上げることができない状況です。大手が優先されるのでしょうか。
DX化の意義は理解していますが、その推進には多額の設備投資が必要です。結局、これが中小規模薬局を廃業に追い込んでいくのかもしれません。
高齢の薬剤師が経営する薬局や高齢の医師が経営するクリニックでは、そのシステムへの理解が追い付かないまま、ベンダーやレセコン(レセプトコンピューター)メーカーから多額の費用が要求されています。
当社でも、生活保護の方のマイナンバーカードを読み取るための追加費用として、10万弱の改修費が請求されました。とても採算は合いません。ひとたびシステムを導入すると、その会社の言いなりにならざるを得ないようですらあります。今後を考えると心配になります。
これだけ大規模な報酬改定はいままで経験していませんが、まだスタートしたばかりです。見えてきた問題点を訴えて、次回改定に生かしてもらいたいと思います。今年度は日薬・緩和薬学・HIP研究会などに積極的に参加しましょう。
高橋眞生(たかはし・まなぶ) ㈱カネマタ代表取締役
在宅医療薬剤師。千葉・船橋で保険調剤薬局を展開。訪問薬剤管理を長年実践し、在宅患者からの信頼も篤く地域医療に貢献している。