第23回 マイナ保険証と電子処方箋🆕

2025年 3月 5日

 国が進めている医療分野のDX化によって、私たちを取り巻く環境はどう変化するのでしょうか。システムの合理化は必須となり、マイナ保険証も徐々に普及しています。医療制度の中で生き残っていくには、受け入れて使いこなさなければなりません。

 医療のDX化は悪いことばかりではなく、良い点もたくさんあります。医療・介護従事者が患者様や利用者様に直接対応できる時間が増えること、最新情報が手元にすぐ届くこと、それに対応して適切な指導ができること、などが挙げられます。

 デジタル化を自分のものとし、道具として使いこなす一方で、国は対人関係にも評価を付けています。機械をつかいこなし、これまで以上に直接業務の質を上げ、対人援助に成果を上げていくことが求められます。

マイナ保険証のメリットがわかりにくい
 国はマイナ保険証の普及に力を入れ、2024年12月からは紙の保険証の新規発行が中止されています。マイナ保険証を補完する資格確認書(有効期間1年)が交付されています。

 マイナ保険証について、デジタル庁が掲げるメリットは以下の通りです。

1. より良い医療を受けることができます。
2. 窓口で限度額以上の支払いが不要になります(高額療養費制度)
3. 引越しや、就職・転職の後もそのまま健康保険証として使えます 
https://www.digital.go.jp/policies/mynumber/insurance-card#merit

 厚生労働省が挙げるメリットも似ています。

1.データに基づくより良い医療が受けられる
2.手続きなしで高額療養費の限度額を超える支払いが免除される
3.マイナポータルで確定申告時に医療費控除が簡単にできる
4.医療現場で働く人の負担を軽減できる
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22682.html

 どちらも1番目は「より良い医療を受けられる」ですが、より良い医療とは具体的にどんなものか、わかりにくく、理解が進んでいないようです。メリットの理解が進まないまま、個人情報の塊であるマイナカードのセキュリティを不安に思う方が多いのではないでしょうか。

 そのため、マイナ保険証の普及は国の思惑どおりには進んでいないのが現状です。高齢者のデジタルへの理解度や親和度には個人差が大きく、スマホを使いこなしマイナカードを活用している方もいれば、そうでない方、サポートが必要な方もいます。カードの紛失や置き忘れも多くみられます。

 マイナカードには保険証以外の情報も入っているので、高齢者本人がうまく使えないからといって介助者が預かって利用を代行することには、大きなリスクが伴います。医療・介護の立場からも、問題が起きた時のことを考えると、安易に預かることはできません。

 また、健康保険(マイナ保険証)・障害福祉サービス・生活保護・特定疾病等の公費負担は別々の制度で、マイナ保険証には自動的に紐づきません。これらを利用している方にとっては、まだ便利に使える状態ではないのです。

直近1カ月以内の情報は得られない
 現在のマイナ保険証で確認できるのは約1カ月前までの診療情報と薬歴、健康診断の情報です。最新の情報は、電子処方箋が普及するまでは紙のおくすり手帳でしか得られません。これはDXに逆行しています。

 電子処方箋を使っていても、紙の処方せんも同時に発行されるのも、無駄ではないでしょうか。我々薬局にとっては、マイナ保険証は電子処方箋が普及して初めてその有効性を発揮します。電子処方箋の普及を期待しています。

 医療分野では様々な制度が混じっているので、マイナ保険証を利用しても医療事務の手間は減っていません。取り扱うすべての制度に対応していくにはベンダーに依頼し、システムをレセコン(レセプト作成コンピュータ)に組み込む必要があり、そこにも費用が掛かります。

高橋薬剤師23回

第192回社会保障審議会医療保険部会(2023年1月23日)資料1より

PCが突然つながらなくなった
 個々の薬局によって事情は異なります。専門医療を提供する診療所の処方箋をメインで受けている薬局では、適用される制度もさまざまで、システムを組み込む費用負担も増大します。

 制度改正があればそれに応じたメンテナンスも必要だし、現場の私たちにはITの専門知識がないからトラブルが起こると緊急の修理依頼をしなければなりません。

 私の薬局で先日、薬歴を保存しているパソコンが突然ネット回線につながらなくなり、患者様の過去歴や情報を確認できなくなりました。クラウドに上がっている情報を取り出せなくなってしまったのです。

 いま、薬局業務では紙の情報はほぼ皆無なので、システムが一部でも機能しなくなると全体が止まってしまいます。システムとレセコンのベンダーに復旧を依頼し、なんとか1日で解決したのですが…。

 これまで通常に稼働していたものが突然止まると、何もできなくなってしまい、恐怖です。だからといって紙に戻すこともナンセンスで、こういったことが起きると想定し、備えておく必要があります。

 保険薬局もAI導入や電子処方箋など、DX化をいろいろ進めています。これによって、薬剤師業務が患者様に向かうように、という狙いです。

 その一方で、選定医療制度の改革や新しい薬の登場と、患者負担は増加しています。社会保険料の負担も重くなる一方です。このままで国民皆保険制度が維持できるのでしょうか。

薬の流通不足で負の連鎖が続く
 薬剤師は医薬品の調達に四苦八苦しています。流通不足は続いたままで、解決の方策を示していただくことが必要です。現状は、医療用医薬品の約20%が限定出荷・供給停止です。医療用医薬品の供給不足は、特に後発医薬品を中心に数年に渡って続いています。

 薬局では「入ってこないため多めに発注→入荷しないのでまた発注→かなりの時間がたってからすべての注文がまとめて入荷→在庫過多となり他店舗では不足」が繰り返されます。購入歴のない薬品は納入順位が後回しになり、入れてもらえないなど、負の連鎖が続いています。

 現場の薬剤師は入ってこない薬剤を探すため多くの時間を割いています。肌感覚ですが、業務の1割以上を優に超える時間を費やしていると感じます。薬剤師から薬をとったら薬剤師でなくなります。

 4月から最低薬価が見直され、ほんの少し薬価が上がります。あまりにも低価格で、赤字で製造していたものが見直されたのは、良い傾向です。これで流通も改善されると良いのですが、どうにかしてほしいと切に願います。

高橋眞生氏

高橋眞生(たかはし・まなぶ) ㈱カネマタ代表取締役
在宅医療薬剤師。千葉・船橋で保険調剤薬局を展開。訪問薬剤管理を長年実践し、在宅患者からの信頼も篤く地域医療に貢献している。

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第22回 10月から先発薬に「特別の料金」が導入された

 診療報酬が改定されて数カ月過ぎ、算定できなくなったもの、新しく算定できたものなどのデータが見えてきました。それは、大筋で「無駄を省き経費を削減する、社用車・設備の清掃点検をこまめにして大切に扱う、整理整頓して誰にでも使えやすい、快適な職場」を目指すものと読んでいます。これはミスや事故を無くすことにもつながります。
 
■ついに薬でも「選定療養」が実施
 新たな取り組みとして2024年10月から薬局における選定療養がはじまりました。選定療養とは、後発医薬品がある薬剤で先発医薬品を希望する場合、料金が上乗せされるという仕組みです。
 
 選定療養は医科や歯科では従前からありました。大病院の紹介状のない初診、入院時の差額ベッド代、白内障の多焦点レンズ、歯科の金合金、入れ歯のセラミックなど多くのものが対象です。「保険外併用療養費」とも言われます。
 
 今回、ここに医薬品が初めて加わりました。対象となる医薬品や患者様は一部に限られますが、先発品にこだわりのある、いままで後発品を拒否していた方々の薬剤が主な対象となります。後発医薬品(ジェネリック)の使用促進が頭打ちになり、医療費の削減の一環として…

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第21回 医薬品と健康食品の違いを正しく知ろう

 これからの薬局のあり方を示す調剤報酬(24年度改定)が6月からスタートしました。その方向として、①OTCの充実、②選定医療の患者負担の増額、③医療用医薬品のスイッチOTC化が挙げられます。さらに、報酬の算定用件に48 薬効群の品目を取り扱うことという規定が入りました。実際にその分類の薬を店舗に置かなければなりません。
 
■医薬品は安全基準が担保されている
 薬局の大きな役割は、地域住民の健康と安全を守ることです。医療費高騰の中、軽医療であるOTC推進も大きな課題です。セルフメディケーションの根幹であるOTCは、薬剤師にとっては薬を通して保険外で患者様の健康に貢献できるツールです。
 
 薬局薬剤師が処方箋で薬剤を交付する際は、他に飲んでいる薬剤・健康食品をお聞きし、相互作用・副作用があるかないか、確認しています。相互作用のあるものは中止していただくよう指導しています。
 
 医薬品の販売に必要な資格は、医薬品の分類に応じて…

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第20回 2024年度診療報酬改定、調剤のポイントは3つ

 2024年度診療報酬改定は、“短冊”(個別改定項目)が発表され、方向性が見えてきました。今回の改定は単に点数が変わっただけでなく、これからの日本の医療の行く末を示す重要な改定であると認識しています。
 
 それは「2040年を展望し、誰もがより長く元気に活躍できる社会の実現」に示されたものが、本気で始まってきたことです。
 
 高齢者人口はやがて伸びなくなり、単身世帯・夫婦のみ世帯が急増することを見据えています。現役世代が急減することも明らかです。その対策は「より少ない人手でも回る医療・福祉の現場を実現」することで、その方向性が今回の改定のキーワードではないでしょうか。
 
 DX化はその切り札であると位置づけられ、そこを見据えて診療・介護報酬の改定も行われているように感じます。診療報酬は、今回6月1日実施と、2カ月後ろ倒しになります。
 
■在宅医療の需要増に対応
 調剤では、在宅医療・服薬フォローアップ・医療DXの3点が大きなテーマです。
 
 トリプル改定においては「在宅医療」が重視されています。2040年に向けて在宅医療の需要が増大していくとみられており…

第19回 大災害と大事故を自分に引き寄せてBCPを考える

 能登半島地震により被災された皆様、ならびにそのご家族の皆様に心よりお見舞い申し上げます。2024年がスタートしてあっという間に3カ月になります。1月1日に発災した能登半島地震と、その翌日に起こった日本航空と海上保安庁機の衝突炎上事故は、辰年の大きな記録として残っていくことでしょう。
 
■薬剤師会はモバイル薬局を派遣
 能登の様子をテレビで拝見し、東日本大震災の際にお手伝いに行って目にした光景が目に浮かびました。今回も多くの薬剤師仲間が支援に行っています。介護関係者もボランティアで参加しています。
 
 大きな災害が起きるたびに、支援の様子も進化しているようです。発災直後から7日目まで・2~3週目・それ以降と、その時々に必要とされるものは何か、支援者はどう動くべきか、積み重なった経験が…

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第18回 薬品の供給不足が常態化・深刻化している

 2024(令和6)年の診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス費のトリプル改定という大きな変化を前に、保険薬局においても薬剤師業務が患者様に向かうべく、AI導入や電子処方箋など、DX化をいろいろ進めています。その一方で、いま薬剤師の業務で大きな負担になっているのが、医薬品の調達です。
 
■咳止めの在庫不足が深刻
 通常よく使われる薬の出荷が止まったり制限されたりして、薬局や医療機関への入荷が滞っています。その数について、厚生労働省は少なくとも3000品目以上に上っているとみているようですが、これは医療用医薬品全体のおよそ2割にあたります。
 
 私たちの感覚では状況は日に日に悪くなっているようです。やっとコロナが一段落して、やはりというかインフルエンザが例年より早く流行しはじめています。また通常の風邪も流行りだしています。そのような中で現場の薬剤師は…

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