いち早く若年性認知症の人の支援に着手 多様な相談にワンストップで対応〔東京都〕🆕

2026年 3月 4日

 若年性認知症の人の数は認知症高齢者に比べはるかに少ないが、年齢的に働き盛りで家計の問題があったり、成人していない子どもがいたりするなど、支援する上での課題が高齢者に比べて多岐に渡る。東京都は他の自治体に先駆け、多様な相談内容にワンストップで対応する「若年性認知症総合支援センター」を設けて支援を行っている。

12年に若年性認知症総合支援センターを設立
 東京都の65歳以上の認知症高齢者数は現在約54万人、一方、65歳未満の若年性認知症の人は約4000人と推計されている。このため、必然的に認知症高齢者への支援が先行していた。

 若年性の人の支援が強化されることになったのは、2007年からスタートした「東京都認知症対策推進会議」での議論を通じてである。同会議で認知症の人と家族の支援体制の構築が協議され、その中で高齢者同様、若年性の人と家族への支援の必要性も打ち出された。

 これを受け、都は、2008年に、上記の推進会議の下に「若年性認知症支援部会」を設置し、さらに議論を積み重ねた後、「若年性認知症支援モデル事業」を09年から3年間実施することとし、募集に応募した事業者の中から2事業者を選定した。

 その1つが、相談内容へのワンストップ対応支援などを提案した目黒区の「NPO法人いきいき福祉ネットワークセンター」である。事業を通じてモデルの有用性が示されたことから、都はこのモデルを採用した若年性認知症総合支援センターを12年に目黒区に設置し、同法人が事業を受託した。

 その後、16年には日野市に「東京都多摩若年性認知症総合支援センター」を設け、都内で介護・福祉事業を展開する社会福祉法人マザアスに事業を委託して2センター体制とし、こちらが多摩地域を、従来からある若年センターが23区を担当することになった。

事業の4つの柱
 若年性認知症総合支援センターにはそれぞれ3人の「若年性認知症支援コーディネーター」がいる。目黒は受託法人の理事長で、自らも若年性認知症支援コーディネーターである駒井由起子さんがセンター長を務めている。事業は4本の柱から成り、これらは駒井さんがモデル事業に応募した際に提案した内容がそのまま引き継がれている。

駒井さん01

駒井由起子さん

 1つ目の柱はワンストップ相談窓口として相談支援とサービス調整を行うこと。相談支援は電話だけでなく、訪問・面談によりきめ細かく対応する。

 サービス調整では、医療機関や地域包括支援センター、市区町村の担当者、ケアマネジャー、介護保険事業所などと連絡を取り合い、情報提供を行うとともに、サービス利用に必要な手続きに関する助言や同行支援なども行う。その際、対象者の情報を記入した「若年性認知症支援連携シート」を使って情報を共有する。

 2つ目は、地域の相談支援機能の向上のため、区市町村の地域包括支援センターなどを対象に相談支援研修を行うこと。具体的には、基礎研修とフォローアップ研修をそれぞれ年1回実施しており、駒井センター長によると、基礎研修については100人ほどが参加し、リモートで講義を、フォローアップ研修については定員を半数に絞り対面によるグループワークを行っている。

 3つ目が本人・家族への支援で、本人にはピアサポーターによる支援、家族には定期的な面談や同行支援などを行う。

 4つ目は関係機関との連携。各関係機関からの相談に対応するほか、24年からは「若年性認知症ネットワーク推進連絡会」を年に1回開催している。これは、地域包括支援センターの職員や事業所、医療機関の関係者が集まり、各機関の現状や取り組みなどの情報共有を行うものだ。

 東京都福祉局で若年性認知症総合支援センターの運営事業を担当している認知症施策推進担当課長の並木敬之さんは、この連絡会について「学習や意見交換などを行う場であるが、むしろ日頃連携している人たちが顔合わせをして、『顔をつなぐ』という面が大きい」と話している。

 なお、国は17年に策定した認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)の中で、若年性認知症施策の強化のため、若年性認知症の人の自立支援に関わる関係者のネットワーク調整を行う若年性認知症支援コーディネーターの配置を都道府県に設置することを義務付けたが、同施策の策定にあたっては東京都の取り組みも参考にしたと考えられる。

並木さん01

並木敬之さん

発症してもすぐに解雇する企業は少ない
 駒井さんがモデル事業で採用された支援内容を思いつく端緒となったのは、目黒区の心身障害者のリハビリ施設で作業療法士として勤務していた際、リハビリが終わっても利用者が社会参加できないことから、休日にリハビリ終了後のサポートをすることを目的に、04年にNPO法人を立ち上げ、高次脳機能障害者の自主交流活動支援を始めたことだ。

 そのうち、学生時代の先輩から認知症の人の家族会の支援を依頼されて参加したところ「年齢的にも近く、働き盛りで発症すると経済的な問題や子育ての問題などが生じるなど、高次脳機能障害と若年性認知症の人の課題がとてもよく似ていることに気づき」(駒井さん)、06年に両者を対象としたデイサービスを開始。そこでの経験で必要性を感じたことが、モデル事業の提案内容となった。

 若年性認知症総合支援センターの支援は、電話での相談からスタートする。相談内容としては、7割ほどが受診して若年性認知症と診断された本人や家族・関係機関などからの相談で、「診断を受けたけれど、今後どうしたらいいか」とか、「会社を辞めさせられるかもしれないので不安」といった内容だ。

 残りの約3割はまだ診断を受けておらず、「会社から病院へ行けと言われているが、どの病院へ行ったらいいか」とか、「認知症の可能性がある社員がいるがどうしたらいいか」というもの。

 就労していて診断された場合、ほとんどの人が「すぐに会社を辞めさせられるのではないか」と不安になるが、そうした会社は少なく、50代位の人が多いため「長く働いてがんばってきてくれたので、むげに退職させられない」と考えるところが多いという。

 相談を受けると、若年性認知症支援コーディネーターは会社の人と本人、家族と会い、会社に対しては、どのような仕事なら続けられるか、例えば郵便の仕分けといった軽作業をやってもらうのはどうか、という提案したり、他の社員に認知症の人との付き合い方の研修を行ったりする。また、本人と家族には不安を解消するよう努めるなどして、勤務が継続できるようにする。

 ただ、アルツハイマー型の若年性認知症の人の場合、進行が速いため、1年ほどすると道に迷って会社に来られなかったり、作業そのものができなくなったりするので、そうなったら病気休暇の傷病手当金を受けて会社を休み、それと並行して若年性認知症総合支援センターから区市町村や地域包括支援センターの担当者に連絡して退職後に向けた地域での生活の準備を進めていく。

 その後は年金を前倒しで受け取りつつ、認知症カフェや機能訓練を行うデイサービスや、作業が苦手でなければ就労継続支援B型施設などに通い、生活リズムと認知機能を維持する活動につなげる。

 若年性認知症の人を支援している人たちの中には「ずっと働き続けさせるべきだ」といったような考え方をする人もいるが、駒井さんは「無理に働くのではなく、新しい人生に向けたステップを踏んでいく方が、本人の残りの人生を考えるといいのではないか」と思っている。

 一方、すでに退職するなどして就労していない人の場合も、一日中、家にこもるのを避けるため、認知症カフェのような場所に外出するように促しつつ、早期に介護保険や障害福祉の制度につなげるようにする。

地域にきちんとつながる仕組みが必要
 相談者の担当を誰にするかは、日々のミーティングで決める。対応が難しい場合には3人で方針を話し合うが、基本的には担当者が自らの裁量で支援内容を決めて活動する。最初は2週間に1回程度面談し、その後は3カ月あるいは半年に1回となっていく。いつまで続くかはケースバイケースである。

 地域生活での具体的な支援は、地域包括支援センターや区市町村の担当者、認知症地域支援推進員、ケアマネジャーと一緒に行うが、そこにつないでいくのが若年性認知症支援コーディネーターの本来の役目である。

 しかし、23区でもまだ専任の担当者がいないところがあり、地域包括支援センターの中で異動があるなどして、うまく支援がつながらない場合があることから、現状は若年性認知症支援コーディネーターが看取りまで関わるケースもあるそうだ。

若年性認知症相談件数

 相談は毎年増加していて、24年度の2センター合計の延べ相談件数は、20年度の4500件に比べ約6割増の7135件だった。

 このため、都では若年性認知症支援コーディネーターを各センターで1人ずつ増員する考えだが、駒井さんは「コーディネーターの数を増やすことも大切だけれど、それとともに若年性認知症の人を地域にきちんとつなげる仕組みを作り、地域の支援を充実させていくことが必要」と指摘している。

 一方、並木さんも若年性認知症支援の課題として、診断をした医師がセンターを紹介したり、一般の人もセンターの存在を知り、身近な人に異変を感じたらセンターに連絡することを勧めたりできるように、これまで以上に若年性認知症総合支援センターの認知度を高めることを挙げつつ、「相談を受け切れる体制を作っていかなければいけない」と話している。

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早期診断・早期対応へ 年間100件以上の認知症初期集中支援を実施 〔東京都世田谷区〕🆕

 軽度認知障害(MCI)から認知症への移行や認知症の進行を遅らせるには、認知症の疑いのある人、あるいは認知症の人に、早い段階で支援を行うことが重要だ。その取り組みを行うのが全国の自治体に設置されている「認知症初期集中支援チーム」である。東京23区内の年間支援数が自治体によってかなり差がある中、世田谷区では年間100件以上の支援を実施し、そうした人たちの早期診断・早期対応につなげている。
 
■区内28カ所のセンターに支援の窓口
 世田谷区の人口は今年4月1日現在約92万6000人で、65歳以上人口は約19万人。ただ、高齢化率は20.57%で全国平均の29.0%に比べれば低い。都心に近く、流出入率の高い20~30代の単身世帯が多いためだ。介護保険の要支援・要介護者数は4万2808人で、そのうち認知症高齢者数は2万5781人である。
 
 高齢化率は低いものの、いくつかの県を上回る人口の多さと、東京・多摩地域屈指の商業都市である立川市の全人口に匹敵する高齢者数に対応するため、世田谷区では区内を5つの地域に分けて総合支所を設け、さらに各地域を分割した28地区すべてに地区行政の窓口である「まちづくりセンター」を設置している。
 
 同センターの建物には「あんしんすこやかセンター(地域包括支援センター)」と社会福祉協議会の地区事務局も入っており、3者が連携して区民の困りごとなどに対応してきた。2022年度からは、この3者に児童館が加わり「毎月開催する4者連携会議で地区の課題を把握・共有し、地域包括ケア地区展開として地域づくりを行っている」(世田谷区高齢福祉部介護予防・地域支援課課長の横尾拓哉さん)。
 
 この連携は認知症初期集中支援チームの活動にも貢献している。同課係長の北畠たまみさんによると「例えば、まちづくりセンターのミニコミ誌作成の委員だった人が日時や会場を頻繁に間違えるようになったとか、社協のサロンに定期的に参加していた人が会場までたどり着けなくなったとか、帰り道で迷うようになった」などまちづくりセンターや社会福祉協議会の活動で気になった情報をあんしんすこやかセンターに伝えることで、初期集中支援の対象者の発掘につながる」からだ。
 
■認知症初期集中支援事業
 認知症初期集中支援事業は国の「認知症施策5カ年計画(オレンジプラン、2013~17年度)」で打ち出され、制度化に向け13年度から全国の14自治体でモデル事業を開始した。世田谷区は東京都で唯一の自治体として参画し、モデル事業の段階から国と連携して取り組んできた。
 
 同事業では、在宅で生活している概ね40歳以上の認知症の人(疑いを含む)と家族を対象に、認知症初期集中支援チームが原則6カ月間、定期的に家庭を訪問する。
 
 この間に、認知症に関する正しい情報を提供したり、認知症の進行や介護に関する心理的負担の軽減を図ったり、適切な医療や介護サービスにつなげたりすることで…

誰もが活躍できる地域づくりへ 国に先駆け認知症施策推進基本計画を策定〔和歌山県御坊市〕🆕

 2019年に「認知症の人とともに築く総活躍のまち条例」を制定した和歌山県御坊市は、国の認知症施策推進基本計画に先駆け、21年4月に市の第1期認知症施策推進基本計画を策定した。同市では「総活躍」というキーワードのもと、認知症の人も含め誰もが活躍できる地域づくりを進めている。
 
■認知症条例から基本計画へ
 市民の高齢化が進み、高齢者の7人に1人以上が認知症という状況を踏まえ、御坊市ではそれまでの認知症施策を総合的な取り組みに再構築するため、誰もが活躍できるまちづくりを目指す「ごぼう総活躍のまちづくりプロジェクト」を16年に立ちあげた。
 
 このプロジェクトを進める中で、認知症の人が支援されるだけでなく、主体的により良く暮らしていくためには、市の責務と使命、理念を示した条例をつくるべきではないかとの声が関係者の間から出てきた。
 
 それを受け、18年に認知症本人とその家族、認知症サポート医、介護関係者、市の職員ら13人が参加して「条例作成ワーキングチーム」を発足。4回の会議を重ね、翌年、条例を制定した。
 
 条例は9条から成り、第3条で基本理念、第4条で市の責務を掲げ、第5条から第8条で認知症の人、市民、事業者、関係機関の役割を明記している。
 
 基本理念では「認知症になっても自分らしい暮らしができること、いつまでも新しいことに挑戦できること、認知症の有無にかかわらず、すべての市民が活躍できること」を掲げている。
 
 この理念を実現するために策定したのが認知症施策推進基本計画である。「国に計画を策定する動きがあり、いずれは市町村に策定が義務付けられることが想定されていたこと、それに条例を作った勢いもあったので、国に先立って作ってしまうことになった」と同市健康長寿課主任の丸山雅史さんは背景を説明する。
 
 また、21年度は10年間の第5次御坊市総合計画と第8期介護保険事業計画の初年度であったことから、これらの計画とシームレスに連携しながら総活躍のまちづくりを進めようと考えたことも、この年に基本計画を策定した理由である。
 
 ちなみに、24年度からスタートした第9期介護保険事業計画に合わせて第2期認知症施策推進基本計画を策定しており、それが現在の計画となっている。
 
■御坊市認知症施策推進基本計画
 同計画では7つの指針を定め、指針1で「認知症・認知症の人への先入観の払拭」を掲げている。先入観が払拭されれば残り6つの指針で提示している取り組みが進展し、逆に他の指針の取り組みが進展すれば先入観が払拭されるとの考えからだ。
 
 この「先入観の払拭」は、認知症基本法の国・地方公共団体の責務で「国民は、共生社会の実現を推進するために必要な認知症に関する正しい知識及び認知症の人に関する正しい理解を深め…

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「家族の権利宣言」発表 認知症本人と同じように家族への支援求める🆕

インタビュー 川井元晴さん(認知症の人と家族の会共同代表理事・山口県支部代表世話人、脳神経筋センターよしみず病院副院長)
 
 45周年を迎えた「認知症の人と家族の会」は、6月の総会で「認知症の人とともにある家族の権利宣言」を発表し、認知症本の人への支援と同様に、家族への支援の必要性を訴えた。認知症の人と家族が住み慣れた地域で、自分らしく暮らし続けていくために大切なことは何か。共同代表理事の1人である川井元晴さんに聞いた。
 
■業務量増加への対応で代表理事を2人体制に
――福井県支部世話人の和田誠さんとともに共同代表理事という形になったのは。
 
 当会が設立されてから4代目の代表理事となる今回、定款を変え初めて2人体制になりました。役員についても、会の発足当初から活動に参加していた会員や理事から、若い世代へバトンを受け渡すような形で改選しています。
 
 その理由として、ここ数年、認知症に関する状況が大きく変わってきていることがあります。アルツハイマー病の治療薬が上市されて使えるようになったことや、共生社会の実現を推進するための認知症基本法が策定され、自治体が認知症施策推進基本計画を立てるようになったことなど、医療的にも社会的にもかなり様変わりしています。
 
 認知症本人と家族についての社会的ニーズがとても多くなっている上、会への問い合わせや共同研究などが増えている中で、1人の代表理事だけでは対応が難しいことから、共同代表理事という体制となりました。
 
――今回の総会では、家族の権利宣言の発表もありました。趣旨は。
 
 認知症基本法には「認知症の人と家族等」と、主語に家族も入っていますが、認知症本人の発信がとても大きなウエイトを占めていて、どうしても本人視点に重きが置かれます。このため、家族が置いていかれるような不安や危機感を持っている会員がいることから、家族も大事なのだということを宣言しました。
 
 宣言自体は抽象的ですけれども、その解説版を作成中で、宣言と解説版をセットにして、各都道府県支部の世話人や自治体、地域の人たちと、権利宣言をどう活用していったらいいのかを考えていくことにしています。
 
――認知症施策推進基本計画については。
 
 各自治体が基本計画を策定するにあたり、本人と家族が参画することになったのはとても重要です。
 
 ただ、私は山口県支部の代表世話人も兼務しており、県の基本計画の策定会議に参加していますが、行政の書類が独特な様式と内容で書かれているため、策定案を議論するのに、本人と家族はついていくのが精一杯のような状況で、行政の会議に本人と家族が参画する上での課題と改善点が浮き彫りになった感じがします。
 
――本人の意見をどう聞いたらいいか、計画を策定する人たちは悩んでいるようですが。
 
 意見が聞けるのは診断当初の人や軽度認知障害の人など、症状が比較的軽めの人が想定され、その中でもしっかりと自分の考えを自分の言葉で発信できる人ということになりますと、意見を言える人は限られるでしょう。
 
 基本法の対象は認知症の人と家族全体なので…

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