第67回 高齢者を低栄養から救え🆕

2026年 3月 18日

 多摩立川保健所が主催した摂食嚥下機能支援のシンポジウムが1月に開催され、そこでの在宅訪問管理栄養士の発表が興味深い内容であった。

要介護4・5の100%
 通所や居宅サービスを利用する高齢者(343人)を対象に、在宅要支援・要介護者の栄養状態を調査した(2022年度の老健事業)。その結果、要介護4・5の人は、「低栄養」と「低栄養のおそれあり」が100%だったのである。

 要支援1の人では53.5%、要支援2の人は50.0%と、要介護の以前からすでに半数の人が栄養の不十分な状態であった。

 高齢者は栄養が足りていないということではないか。そんな状況で、身体を動かしましょう、歩きましょう、と働きかけたところで、身体状態を維持できるはずはない。

 栄養が不十分になる背景には何があるのか。管理栄養士は考察する。「低栄養」「低栄養のおそれあり」の40%以上は、食事が「まったく楽しみでない」か「あまり楽しみでない」であった(2012年度の老健事業)。

 一方、高齢者の生きがいは、「孫など家族との団らんの時」「おいしいものを食べている時」「友人や知人と食事、雑談している時」「夫婦団らんの時」が上位に挙げられる(2021年度高齢社会白書)。

 家族・夫婦団らんは、一緒に食事することで得られるものだろうから、高齢者の生きがいは食にまつわるものが多いことになる。それなのに、食事が楽しみでないのが実態なのである。

 その背景に、独居や貧困といった社会的要因や、臓器不全や嚥下障害などの疾病要因、認知機能障害などの精神・心理的要因、加齢による味覚・嗅覚障害や食欲低下が指摘される。高齢者ケアに携わる専門職は、これらを取り除くか軽減する努力を惜しんではならない。

セカンドステージで求められるもの
 2026年は地域包括ケアのセカンドステージと言われる。確かにそうだろう。2025年、団塊世代は後期高齢者になり、住み慣れた地域でケアを受ける仕組みづくりが進められた。具体的には、医療と介護の連携推進である。

 セカンドステージでは、食支援を中心にこの連携を強固にしたい。日本在宅ケアアライアンスは、食支援の目的として、「食事・栄養」と「食べる力」によって「笑顔」になることを提示している。

 専門職は、「食事・栄養」には管理栄養士と介護職が栄養評価と食形態・食介助で関わる。「食べる力」のために歯科医師や歯科衛生士、介護職が口腔機能評価や口腔ケアを実施する。1人の患者・利用者の笑顔のために、それぞれが力を発揮する。

 では医師は食支援とどう関わるべきか。訪問栄養食事指導料の算定率は低く、医師が栄養に無関心であることが推測できる。どうしても「まず薬」となるのだろう。

 私が高齢者の摂食嚥下改善に取り組み始めたのは、2005年ごろだ。当時は脳卒中の後遺症による摂食嚥下障害から経管栄養となる人が多く、それを改善しようと仲間で奮闘した。20年以上過ぎて、脳卒中の治療は進んだ。

 85歳以上の人が激増し、高齢者の状態像は大きく変わった。医師には、「まず薬」という考え方から脱して「食べる力」に目を向ける意識変革が求められる。

新田國夫氏

新田國夫(にった・くにお) 新田クリニック院長、日本在宅ケアアライアンス理事長

1990年に東京・国立に新田クリニックを開業以来、在宅医療と在宅看取りに携わる。

このカテゴリーの最新の記事

このカテゴリはメンバーだけが閲覧できます。このカテゴリを表示するには、年会費(年間購読料) もしくは 月会費(月間購読料)を購入してサインアップしてください。

第66回 道徳なき在宅医療🆕

■ホスピス型ホームの問題
 日本在宅ケアアライアンスの会報誌の巻頭言で、二宮尊徳の名言として知られる「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」が紹介された(筆者は板井孝壱郎氏)。これに倣えば、「道徳なき在宅医療は犯罪」と言える。
 
 ホスピス型有料老人ホームとかホスピスホームなどと呼ばれる“施設”の問題が取り沙汰されている。難病や末期がんの人を入居させて看取りまでケアすると謳うが、訪問看護の報酬が不正請求されているという。明らかにこれは「道徳なき在宅医療」で、「犯罪」的と言わざるを得ない。
 
 こうした犯罪的行為がまかり通る背景には、退院後に帰る場所がないことがある。患者本人が「もとの家には帰りたくない」と言っているからではない。病院と家族が「この状態では家に帰れない」と本人抜きで決めているからだ。
 
 退院後に家に帰れないなら、どこに帰るのか。ホスピス型有料老人ホームはそういったニーズの受け皿になった。
 
■多摩地区の障害者運動
 1980~90年代、国立市や八王子市など東京の多摩地区で障害者の自立生活運動が展開された。障害者が自ら運営する自立生活センターがつくられ、作業所は規模を拡大し、「施設から地域へ」が進められた。車いすの人は、JR中央線の駅にエレベーターを設置するよう求めて交渉した。
 
 このとき障害者は、施設から出て元の家に帰るのではなく、自分の家に帰ることを望んだ。元の家とは、家族の家である。家族と同居して世話され庇護下に置かれるのではなく、ケアを受けながら自立して暮らしたい、と望んだ。
 
 ケアを受けながら自立するとは、自立するためにケアを受けることでもある。自立とは、障害のある人が1時間かけて自分の力だけで着替えることではない。介助者の力を借りて10分で着替えて…

第65回 デンマークの「生活支援法」と日本🆕

■ワンストップの窓口
 11月、国立市が実施する「シニアカレッジ」で講師を務めた。市民を対象に、高齢期の健康・福祉や国立市について学ぶもので、今年で10年目となる。
 
 テーマは「保健・医療・福祉サービスの日欧比較」。私にとっても、久しぶりに日本の介護保険と外国の制度をじっくり考える機会となった。そこで、高齢者ケアの先進国として知られるデンマークの「生活支援法」を題材にした。
 
 生活支援法は1976年に施行された。これにより福祉関係の法律が統合され、行政の窓口が一本化されたのだ。さまざまな困りごとをワンストップで解決するという、画期的な施策といえる。80年代前半にデンマークで社会大臣を務めたアナセン(アンデルセン)が、この施策の意義以下のように語っている。
 
 「認知症で重度のリウマチ、目も耳も悪く、エレベーターのない集合住宅に住む高齢女性が、普通に生活を送るには、まず眼鏡や補聴器が必要。住宅改修や、ヘルパーによる家事援助、外出するための送迎サービスも必要」
 
 「この人が自分だけで眼鏡や補聴器をあつらえ、住まいを改修し、ヘルパーを探すことは無理。こういう問題に1カ所で対応できる窓口が行政にあれば、非常に効率的で…

この記事は有料会員のみ閲覧できます。

第64回 「100歳まで生きたいですか」を考えた🆕

■「いいえ」が61%
 朝日新聞土曜版「be」に、毎回、読者モニターへのアンケートが掲載されている。9月27日付は「100歳まで生きたいですか」という設問であった。
 
 これに対して、「はい」は39%、「いいえ」が61%であった(回答者数は2476人)。「世論調査のような統計的意味はありません」という調査だが、この比率は、日本人の心情をある程度率直に反映しているのだろう。
 
 何かにつけ、人生100年時代と言われるようになった。2025年、100歳以上の人口は9万9763人(9月現在)と10万人に迫り、人生100年もあながち空想の世界ではない。であれば、100まで生きたい人のほうが多くてもよさそうだが、アンケート結果はそうではなかった。
 
 「いいえ」の人に「何歳で死ぬのが理想?」と尋ねていて、これに対しては「80歳代」が最多で57%。「90歳代」が21%、「70歳代」が16%となっている。
 
 さらに、「いいえ」「はい」の両方に「100歳になった時の社会保障制度は?」「100歳まで生きる自信は?」と問うている。社会保障については、「かなり心配」が40%で最多となり、「だいじょうぶと思う」は14%にとどまった。「自信」は「ない」が82%と圧倒的である。
 
 こうした回答を見ていると、常識的でとても納得できるし、興味深い。80歳代で死ぬのが理想、が最多なのは、70代では早いし90歳以上では介護や認知症が心配だから、80歳代、というところだろう。
 
 高齢者の状態には個人差がとても大きいから、90代でサッカーをする人もいるし、70代で要介護状態の人もいる。いたずらに長寿を目指すのではなく…

この記事は有料会員のみ閲覧できます。

第63回 安楽死の前に過剰緩和を議論すべきだ

■安楽死が合法の国が増えている
 安楽死が合法である国・地域はオランダ、ベルギー、ルクセンブルク、スペイン、ポルトガル、カナダ、コロンビア、エクアドル、ニュージーランド、オーストラリア・ヴィクトリア州である。スイス、ドイツ、イタリアとアメリカのいくつかの州では医師による自殺幇助が合法だ。
 
 この1年ほどの間に、イギリス下院とフランス下院で安楽死法案が相次いで可決された。安楽死の合法化はヨーロッパを中心に広がっている。
 
 安楽死と一言で言っても、さまざまな実相がある。①医師が致死薬を投与して死に至らしめる「積極的安楽死」、②医師が処方した致死薬を本人みずから使用する「医師による自殺幇助(PAS・PAD)」、③延命治療の拒否による「尊厳死」、に分けられる。
 
 合法の範囲も国によって異なる。オランダなど①が合法である国では、②も合法で③は通常医療の範疇である。ドイツやイタリアなど②③が合法の国もあれば、韓国と台湾では③のみが合法である。フランスの法案は①、イギリスの法案は②を合法とする内容といえる。
 
 日本では「尊厳死法案(終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案)」が2012年に公表されたものの、国会審議に至っていない。①②③すべてが法制化されていないわけだが、厚労省が作成した「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(2018年改訂版)は「医療・ケア行為の開始・不開始/中止」に言及しており、③に近い内容といえなくはない。
 
 とはいえこのガイドラインは「人生の最終段階における」ものであり…

この記事は有料会員のみ閲覧できます。

第62回 101歳・認知症女性のひとり暮らし

 100歳以上高齢者の総数は今年9月15日現在、9万9763人である(住民基本台帳に基づく)。前年から4644人増え、来年は確実に10万人を超えるだろう。
 
■ヘルパーとコミュニケーション
 新田クリニックが訪問診療を提供しているT子さんは101歳、自宅で一人暮らしをしている。5月ごろまでは家の中を歩くことができたが、脱水症を起こしたことがきっかけで起き上がれなくなり、今はほぼ一日中、ベッド上で過ごしている。
 
 認知機能は年相応に低下している。短期記憶障害が著明で私の顔も覚えていないが、重度の認知症とはいえない。持病は…、T子さんが検査を嫌がって何もさせてくれないので、よくわからない。血圧も測ったことがない。上体を起こすときに腰が少し痛いらしいが、そのほか、特に痛いところはなさそうだ。
 
 こう紹介すると、そんな人を一人暮らしさせていいのか、施設で手厚くケアしてもらわないと危ないんじゃないか、と思われるのではないだろうか。
 
 T子さんを支える態勢は、サービス類型でいえば訪問介護が1日3回、訪問看護は1日1回、訪問診療は月に2回入っている。T子さんの暮らしぶりを拝見したいと思い、ご本人の許可を得て訪問介護の様子などを撮影させてもらった(訪問診療では暮らしぶりはわからないから)。
 
 朝8時、T子さん宅を訪れたヘルパーが「T子さん、おはようございます。失礼します。市役所に頼まれてね、お食事の用意に来ました。朝ごはんです。お腹すいたでしょ」と話しかける。T子さんは何か言っているが、不明瞭で聞き取れない。
 
 ヘルパーは朝食を作り終えると、T子さんの体位を変換し、おむつを交換する。T子さんは「早くして」。ヘルパー「わかりました。もたもたしないで頑張ります」と、てきぱき作業する。そして手を洗い、朝食を供した。「バナナ、自分で食べれる?」とヘルパーが手渡そうとすると…

この記事は有料会員のみ閲覧できます。

1週間無料でお試し購読ができます  詳しくはここをクリック

新着記事は1カ月無料で公開

有料記事は990円(税込)で1カ月読み放題

*1年間は1万1000円(同)

〈新着情報〉〈政策・審議会・統計〉〈業界の動き〉は無料

【アーカイブ】テーマ特集/対談・インタビュー

コラム一覧

【アーカイブ】現場ルポ/医療介護ビジネス新時代

アクセスランキング(3月9-15日)

  • 1位
  • 2位
  • 3位 90% 90%
メディカ出版 医療と介護Next バックナンバーのご案内

公式SNS