「いいえ」が61%
朝日新聞土曜版「be」に、毎回、読者モニターへのアンケートが掲載されている。9月27日付は「100歳まで生きたいですか」という設問であった。
これに対して、「はい」は39%、「いいえ」が61%であった(回答者数は2476人)。「世論調査のような統計的意味はありません」という調査だが、この比率は、日本人の心情をある程度率直に反映しているのだろう。
何かにつけ、人生100年時代と言われるようになった。2025年、100歳以上の人口は9万9763人(9月現在)と10万人に迫り、人生100年もあながち空想の世界ではない。であれば、100まで生きたい人のほうが多くてもよさそうだが、アンケート結果はそうではなかった。
「いいえ」の人に「何歳で死ぬのが理想?」と尋ねていて、これに対しては「80歳代」が最多で57%。「90歳代」が21%、「70歳代」が16%となっている。
さらに、「いいえ」「はい」の両方に「100歳になった時の社会保障制度は?」「100歳まで生きる自信は?」と問うている。社会保障については、「かなり心配」が40%で最多となり、「だいじょうぶと思う」は14%にとどまった。「自信」は「ない」が82%と圧倒的である。
こうした回答を見ていると、常識的でとても納得できるし、興味深い。80歳代で死ぬのが理想、が最多なのは、70代では早いし90歳以上では介護や認知症が心配だから、80歳代、というところだろう。
高齢者の状態には個人差がとても大きいから、90代でサッカーをする人もいるし、70代で要介護状態の人もいる。いたずらに長寿を目指すのではなく、どう生きるか、どう生きたいかが問われるのだろう。前々回で紹介したT子さんのように、支援者に生きがいを与えるために生きることも素敵な生き方だ。
衰えとともにどう生きるか
「いいえ」の理由の上位3つは
・元気なうちにぽっくり死にたい…941人
・病気になってまで生きたくない…940人
・親族に迷惑をかけたくない…743人
である(複数回答)。最多の「元気なうちにぽっくり死にたい」、いわゆるピンピンコロリは、現実には簡単ではない。がんによる死は、ゆるやかに状態が落ちていき、末期になると一気に訪れることが多いから、現代ではがん死もピンピンコロリに含めてよいのかもしれない。
僅差で2位の「病気になってまで生きたくない」は、心情としてわからなくはない。いま元気な人ほど、「病気になってまで」「重度の要介護状態になってまで」…と考えがちだろう。
でも現実は、前回触れたように日本では安楽死が法制化されていない以上、「病気になってまで生きたくない」は簡単なことではない。
85歳を過ぎれば、ほとんどの人は何かしら病気をもち、身体機能は衰えている。サッカーをプレーできる人は例外だ。「病気になってまで生きたくない」と思っていても、その思いを実現することは難しい。
80代、90代と生きて、病気や衰えた身体とともに、どう生きていくか。この問題に向き合いたい。そのとき、医療はただ生きることを実現する手段であってはならない。
新田國夫(にった・くにお) 新田クリニック院長、日本在宅ケアアライアンス理事長
1990年に東京・国立に新田クリニックを開業以来、在宅医療と在宅看取りに携わる。