第20回 生活支援サービスはまず既存資源に目を🆕

2026年 3月 6日

 最近「生活支援体制の整備で民間企業を巻き込むにはどういうアプローチが有効か」という相談が増えています。

 2024年の地域支援事業実施要綱改正はひとつの転換点だったと思いますが、それ以上に訪問型サービス(ホームヘルプ)の減少や人材不足の深刻化が一層進み、それぞれの地域で目に見える問題となってきたことが大きいでしょう。

 人口減少・人手不足は介護業界に限定された問題ではなく、地域の生活インフラも同様で、スーパーマーケットが撤退したり公共交通が減便されたりしています。

 生活インフラの喪失で地域生活が不便になればなるほど、要支援・フレイル状態の高齢者にとっては家事援助や介護サービスの必要性が高まり、ただでさえ不足している専門職資源をより一層圧迫するという悪循環も生じています。

専門職サービスの限界と民間企業の役割
 ここで押さえておきたいのは、要支援者や事業対象者に対して専門職によるサービス提供を続けることが現実的に不可能になっているという事実です。

 統計を見ても、全国の自治体で要支援者数は増加しているにもかかわらず、要支援者向けの訪問型サービス提供量は年々低下しています。これは、訪問型サービスの供給力が低下していることを示しています。

 生活支援体制整備事業が2015年に導入されて以来、自治体は住民主体の助け合い活動を推進したり有償ボランティアを養成したり、多様な主体による支援を進め、実効性ある取り組みも生まれました。

 しかし最近、高齢者や女性の就労率上昇などから住民主体の活動に積極的に参画してくれる住民の母集団は縮小しています。今後極大化する生活支援ニーズに応えるには、民間サービスの大規模な参入が必要な状況です。

 民間企業の参画の必要性は総合事業制度の導入(2015年)当初から認識されていたものの、これまで地域支援事業は住民主体の通いの場づくりが中心でした。また財政的な支援の枠組みも柔軟性を欠いたため、地域の中小企業を含めて民間企業が担い手となる発想はあまり広がりませんでした。

 2024年の地域支援事業実施要綱改正によって、民間サービスに対しても補助などを柔軟に行えるなどより多様なアプローチで体制整備を進められるようになりました。

 そのため自治体からの相談も「どうすれば民間企業を巻き込めるか」という内容に変化しています。住民だけを主体とする考え方から、民間企業の参画も得ながら支えていこうとする方向に風向きが変わってきたといえるでしょう。

民間を下請けと考えてはいけない
 とはいえ、民間企業にいきなり要支援者向けの生活支援サービスの実施を委託したり、補助金を付けたりといっても、企業側は簡単には動きません。多くの自治体がこの点に苦慮しています。

 委託方式では、しばしば、介護保険の訪問介護の業務内容をそのまま仕様書に記載し、企業側の創意工夫を聞くことなく「やってほしいサービス」を押し付けてしまいがちです。

 この方法では保険者の下請け探しになってしまい、また民間企業の強みを生かすこともできず、企業からは確実に敬遠されるでしょう。

 私が自治体職員の皆さんに提案しているのは、「役所(保険者)がやってほしいことを民間企業にお願いして新しいサービスを創設する」という発想ではなく、まずは「すでに地域住民の生活、特に要支援者の生活を支えている民間の事業者や関係者を地域の中で見つけ出すことに専念する」というアプローチです。

突然撤退する民間サービス
 介護保険の保険者や地域包括支援センターの視線は、どうしてもケアプランに位置付けられた要支援者や要介護者の生活に向きがちです。しかし、認定を取らず、自分の力で民間サービスを利用しながら生活している高齢者が実際はたくさんいます。

 例えば、移動販売の利用です。移動販売車は薄利多売のビジネスでもあり、売り上げが期待できない過疎地域への出店には経営リスクが伴います。また保冷のため販売時もエンジンをアイドリングしており、走行距離以上に燃料を消費します。

 多くの場合、移動販売は民間企業のサービスであるため、総合事業や行政からの財政支援を受けていません(もちろん、民間企業が自律的に経営を安定させている場合は公的機関が介入する必要はありません)。

 民間企業には採算が合わなければ撤退する選択肢があります。実際は多くの事業所が人里離れた集落の移動手段を持たない高齢者のために、ギリギリまでサービス提供を続けようと努力しています。限界まで耐え、突然サービス提供を止めることがあります。

 そうなったとしても、それまで行政からの補助が入っていないので、事業所が事前に地域包括支援センターに連絡することはありません。結果として、民間の自費サービスで生活を支えていた人たちの生活ニーズが、サービス廃止によって一気に吹き出すことになります。私も各地で移動販売の突然消失を目撃してきました。

 こうなってからでは遅いのです。実は地域、とりわけ人口減少が進む地域における生活支援体制の構築においては、いかにしてこの「突然消失」という事態を未然に防ぐかが、非常に大きな課題になっているのです。

生活支援体制整備事業の具体的な支援策
 2024年の地域支援事業実施要綱は、この課題にも目配りしています。移動販売など、不特定多数の住民が利用するけれど個々の要支援者のケアプランに位置付けることが難しいようなサービスについても、A型B型として財政的な支援(委託・補助)することが可能になりました。

 厚生労働省の説明資料でも例示がされています(介護保険最新情報Vol.1299「地域支援事業実施要綱等改正の概要」3ページ)。

 総合事業には上限額が設定されていますので無制限に財政支援できるわけではありません。でも遠隔地域に移動販売に出向く販売者には燃料費や自動車保険料を補助する、売り上げが立たない中山間地域への移動コストを負担する、などの支援は十分に可能です。

 またそうした補助を通じて、事業者に生活支援コーディネーター的な機能を期待することもできます。

 移動販売事業者の方の話をお聞きすると、地域の高齢者の生活をよく理解されていて、本当にたくさんの情報をお持ちであることがわかります。毎週のように定点で同じ高齢者と買い物を通じたコミュニケーションをとっているのですから、当然なのです。

 移動販売事業者は個人事業主も多いのですが、彼らを非常勤の生活支援コーディネーターとして委嘱し、例えば半年に1回の地域ケア推進会議に参加してもらうなどして生活支援のニーズを把握する方法も有効です。

 なにより、「常連の高齢者が最近来なくなった」といった異変を地域包括支援センターにつないでもらうなど、地域の見守りセンサーとしての役割も期待されます。

 こうした民間事業者に適切な財政支援を行うには、要支援者や事業対象者、さらに80代・90代の一人暮らし高齢者の生活をどのように支えているのか、ケースごとにしっかりと分析・把握することが不可欠です。アンケートではなく、個別の生活をつぶさに見ていく必要があります。

 保険者の目はどうしても地域の高齢者の「できていないこと」に向きがちですが、「どうやってしのいでいるのか」という視点でみると、実に様々な資源を活用して生活していることがわかります。

 やみくもに介護保険の類似サービスを作ってその担い手を探すよりも、すでに地域で活動している民間企業や事業者を支援する方が、はるかに効果的です。

 中山間地域や買い物支援を課題とする自治体の生活支援体制整備のご担当者の皆さん、新しいサービスを開発する前に、まずは移動販売事業者さんの気づきをしっかり共有するところから始めませんか?

岩名礼介(いわな・れいすけ) 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社主席研究員、共生・社会政策部長

自治体支援を専門とし、在宅医療・介護連携推進事業や生活支援体制整備事業、介護保険事業計画などのコンサルティング・研修に携わる。

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第19回 介護人材不足の実相から対策を考える

■実は増え続けてきた
 人材不足は、介護業界における慢性疾患ともいうべき癒えることのない苦しみです。今回は、これに対処するために大きな変革が急務であり、その変革とは何か、お伝えしたいと思います。
 
 介護人材不足については、さまざまな事実誤認があります。「この10年、介護人材は減少を続けている」あるいは「介護人材はなんとか増えているものの、要介護者の増加には全く追いついていない」と感じている方は多いのではないでしょうか。
 
 最近では訪問介護事業所の倒産件数が過去最高を記録したという報道もあり、「訪問介護サービスの供給量が減少している」といった印象を持つ方も少なくないと思います。
 
 しかし、これらの認識はいずれも事実とは少し異なります。実際には、介護人材の数は2022年まで増加し続けており、その増加率は要介護者の増加率を上回るペースを維持してきました。
 
 訪問介護サービスの給付額も、2012年からの10年間で約1.5倍に増加しています。介護人材の減少が始まったのは2023年度からであり、それまでは増加の一途をたどっていました。
 
 日本の生産年齢人口は1995年をピークに減少し、2023年までに約1300万人減少しました。一方、労働力人口はこの間、女性や高齢者の就労増加によって260万人も増えています。
 
 2000年に介護保険がスタートした時点で約55万人だった介護人材は、2023年には215万人に達し、約4倍に増加しています。
 
 その増加に寄与しているのが女性と高齢者で、両者が介護を支えてきたことは見逃せません。少なくとも2022年までは、介護業界は人材の面では他業界に比べれば比較的恵まれた環境だったといえるのです。
 
 ただし、近年は女性と高齢者の就労人口の増加が頭打ちになってきました。これまで大きな支えとなってきた層の就労の伸びが止まり、介護業界はこれから本格的な人材難に直面します。2023年における初めての介護人材減少は…

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第18回 実は大改正された介護予防・日常生活支援総合事業

 2024年8月、厚生労働省は介護予防・日常生活支援総合事業(以下、総合事業)の実施要綱およびガイドラインの改正を発表しました。法改正を伴わなかったため専門メディアを含めて報道は少なく、自治体職員の理解はまだ十分ではないと感じています。
 
 しかし、この改正は、厚労省が「フルモデルチェンジ」と表現するように、政策の目標は変わらないものの、実施・運営方法において大きな方針転換が行われています。今回は制度改正の詳細ではなく、マクロな視点からその背景と狙いを考察してみたいと思います。
 
■そもそも総合事業の背景と狙いは何だったのか
 2015年度に導入された総合事業は、全国統一基準で運営されていた要支援者(以下、軽度者)向けの保険給付サービスの一部を市町村の予算事業に転換し、提供主体に専門職以外の民間企業や住民活動(ボランティアなど)を組み込むことが大きな特徴でした。この制度導入の背景には、2つの事情がありました。
 
 第1に、軽度者向けサービスの選択肢を増やす必要があったことです。要支援状態とはいえ比較的元気な軽度者は、活動的で日常生活の様子も嗜好も多様です。しかし、通所介護や訪問介護は軽度者が対象であっても保険給付であるため、事業所が工夫してもサービス内容は似通っていました。
 
 保険給付によるサービスは1種類しかなく、軽度者の生活ニーズの多様性や介護予防における本人の動機付けを考えると、個々の嗜好に合わせたケアマネジメントは現実的に難しい状況でした。多様な価値観を持つ団塊世代の利用が増え、サービスの多様化が求められたのです。
 
 第2に、深刻化する介護人材不足への対応として「脱・専門職依存」が求められました。総合事業が導入された当時もすでに要介護者の増加と生産年齢人口の減少が進行しており、従来のように専門職がすべてを担う役割分担では持続可能性がないことは明らかでした。
 
 介護専門職以外が支援を担う方法を模索することが大きなテーマとなりました。そのため、総合事業では従来の保険給付サービスの基準を緩和し、介護事業所以外の参入を促進しました。財源問題も指摘されることがありますが、保険給付(総給付費)に占める要支援者向けサービス費用は約5%であり、削減効果は非常に限定的です。
 
 つまり、専門職に依存することなく軽度者向けサービスの多様化を進めることが総合事業の基本的な考え方でした。
 
 しかし、総合事業の進捗は必ずしも順調ではありません。制度開始から10年が経過しても軽度者向けサービスの転換は進まず、大半は総合事業以前からの保険給付に…

第17回 余白なき社会に「地域共生」を築けるか~重層的支援体制整備事業のポイントとは

■なぜ制度・分野の隙間が問題になるのか?
 自治体では、2021(令和3)年度からスタートした「重層的支援体制整備事業(以下、「重層事業」)」への対応が進められています。
 
 重層事業は包括的な支援体制を構築し、今日的な課題に対応できるよう地域福祉をアップデートする政策で、すでに300を超える自治体が着手しています。今回は、この地域共生社会を実現するための前提となる考え方について私の考えを整理してみたいと思います。
 
 「地域共生社会」について国は以下のように定義しています。
 
 「制度・分野ごとの『縦割り』や「支え手」「受け手」という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えてつながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会」
 
 この定義から、地域共生社会は、「住民一人ひとりの暮らしと生きがいを創っていく社会」づくりといえそうですし…

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第16回 認知症だけじゃない、初期集中支援の重要性

 今回は、「初期集中支援」について考えてみたいと思います。初期集中支援といえば、「認知症初期集中支援チーム」がよく知られています。今回は、「初期集中支援」という考え方が、地域包括ケアシステムの中では、とても大切な考え方であることを、他の事業にも触れながらお話ししたいと思います。
 
■認知症初期集中支援チームの「初期」は「症状の初期」ではない
 そもそも、「初期集中支援」における「初期」とは何でしょう? 認知症ケアでは早期発見・早期受診が推奨されることもあり、軽度のうちに認知症を認識し、早めに受診して集中的な支援をイメージすると思います。
 
 もちろん認知症のケアでは、できるだけ軽度の段階での関わりが大切なのはいうまでもありません。とはいえ症状が進行した状況では…

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第15回 医療介護連携は「脱・病院依存のケア体制」を目指せ

 各地の在宅医療・介護連携推進事業の遅れは深刻だと思います。コロナで「それどころではなかった」「多職種で顔を合わせること自体が難しかった」というのはその通りです。
 
 しかし、それを差し引いても、自治体における医療介護連携の課題設定や問題認識は、私の関わっている範囲ではありますが、やや「のんびり」した印象を持っています。
 
 今回は、在宅介護や看取りは「実現できたらいいよね」というレベルの課題ではなく、「どうしてもやらねばならない」取り組みであることを確認したいと思います。その上で、「すぐやるべきこと」を2点指摘します。
 
■病院に依存した地域のケア体制
 在宅医療・介護連携推進事業は、一般的には、地域の利用者からみて一体的なサービス提供体制を専門職間の連携強化によって実現しようとするものです。しかし別の角度から表現すれば…

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