最近「生活支援体制の整備で民間企業を巻き込むにはどういうアプローチが有効か」という相談が増えています。
2024年の地域支援事業実施要綱改正はひとつの転換点だったと思いますが、それ以上に訪問型サービス(ホームヘルプ)の減少や人材不足の深刻化が一層進み、それぞれの地域で目に見える問題となってきたことが大きいでしょう。
人口減少・人手不足は介護業界に限定された問題ではなく、地域の生活インフラも同様で、スーパーマーケットが撤退したり公共交通が減便されたりしています。
生活インフラの喪失で地域生活が不便になればなるほど、要支援・フレイル状態の高齢者にとっては家事援助や介護サービスの必要性が高まり、ただでさえ不足している専門職資源をより一層圧迫するという悪循環も生じています。
専門職サービスの限界と民間企業の役割
ここで押さえておきたいのは、要支援者や事業対象者に対して専門職によるサービス提供を続けることが現実的に不可能になっているという事実です。
統計を見ても、全国の自治体で要支援者数は増加しているにもかかわらず、要支援者向けの訪問型サービス提供量は年々低下しています。これは、訪問型サービスの供給力が低下していることを示しています。
生活支援体制整備事業が2015年に導入されて以来、自治体は住民主体の助け合い活動を推進したり有償ボランティアを養成したり、多様な主体による支援を進め、実効性ある取り組みも生まれました。
しかし最近、高齢者や女性の就労率上昇などから住民主体の活動に積極的に参画してくれる住民の母集団は縮小しています。今後極大化する生活支援ニーズに応えるには、民間サービスの大規模な参入が必要な状況です。
民間企業の参画の必要性は総合事業制度の導入(2015年)当初から認識されていたものの、これまで地域支援事業は住民主体の通いの場づくりが中心でした。また財政的な支援の枠組みも柔軟性を欠いたため、地域の中小企業を含めて民間企業が担い手となる発想はあまり広がりませんでした。
2024年の地域支援事業実施要綱改正によって、民間サービスに対しても補助などを柔軟に行えるなどより多様なアプローチで体制整備を進められるようになりました。
そのため自治体からの相談も「どうすれば民間企業を巻き込めるか」という内容に変化しています。住民だけを主体とする考え方から、民間企業の参画も得ながら支えていこうとする方向に風向きが変わってきたといえるでしょう。
民間を下請けと考えてはいけない
とはいえ、民間企業にいきなり要支援者向けの生活支援サービスの実施を委託したり、補助金を付けたりといっても、企業側は簡単には動きません。多くの自治体がこの点に苦慮しています。
委託方式では、しばしば、介護保険の訪問介護の業務内容をそのまま仕様書に記載し、企業側の創意工夫を聞くことなく「やってほしいサービス」を押し付けてしまいがちです。
この方法では保険者の下請け探しになってしまい、また民間企業の強みを生かすこともできず、企業からは確実に敬遠されるでしょう。
私が自治体職員の皆さんに提案しているのは、「役所(保険者)がやってほしいことを民間企業にお願いして新しいサービスを創設する」という発想ではなく、まずは「すでに地域住民の生活、特に要支援者の生活を支えている民間の事業者や関係者を地域の中で見つけ出すことに専念する」というアプローチです。
突然撤退する民間サービス
介護保険の保険者や地域包括支援センターの視線は、どうしてもケアプランに位置付けられた要支援者や要介護者の生活に向きがちです。しかし、認定を取らず、自分の力で民間サービスを利用しながら生活している高齢者が実際はたくさんいます。
例えば、移動販売の利用です。移動販売車は薄利多売のビジネスでもあり、売り上げが期待できない過疎地域への出店には経営リスクが伴います。また保冷のため販売時もエンジンをアイドリングしており、走行距離以上に燃料を消費します。
多くの場合、移動販売は民間企業のサービスであるため、総合事業や行政からの財政支援を受けていません(もちろん、民間企業が自律的に経営を安定させている場合は公的機関が介入する必要はありません)。
民間企業には採算が合わなければ撤退する選択肢があります。実際は多くの事業所が人里離れた集落の移動手段を持たない高齢者のために、ギリギリまでサービス提供を続けようと努力しています。限界まで耐え、突然サービス提供を止めることがあります。
そうなったとしても、それまで行政からの補助が入っていないので、事業所が事前に地域包括支援センターに連絡することはありません。結果として、民間の自費サービスで生活を支えていた人たちの生活ニーズが、サービス廃止によって一気に吹き出すことになります。私も各地で移動販売の突然消失を目撃してきました。
こうなってからでは遅いのです。実は地域、とりわけ人口減少が進む地域における生活支援体制の構築においては、いかにしてこの「突然消失」という事態を未然に防ぐかが、非常に大きな課題になっているのです。
生活支援体制整備事業の具体的な支援策
2024年の地域支援事業実施要綱は、この課題にも目配りしています。移動販売など、不特定多数の住民が利用するけれど個々の要支援者のケアプランに位置付けることが難しいようなサービスについても、A型B型として財政的な支援(委託・補助)することが可能になりました。
厚生労働省の説明資料でも例示がされています(介護保険最新情報Vol.1299「地域支援事業実施要綱等改正の概要」3ページ)。
総合事業には上限額が設定されていますので無制限に財政支援できるわけではありません。でも遠隔地域に移動販売に出向く販売者には燃料費や自動車保険料を補助する、売り上げが立たない中山間地域への移動コストを負担する、などの支援は十分に可能です。
またそうした補助を通じて、事業者に生活支援コーディネーター的な機能を期待することもできます。
移動販売事業者の方の話をお聞きすると、地域の高齢者の生活をよく理解されていて、本当にたくさんの情報をお持ちであることがわかります。毎週のように定点で同じ高齢者と買い物を通じたコミュニケーションをとっているのですから、当然なのです。
移動販売事業者は個人事業主も多いのですが、彼らを非常勤の生活支援コーディネーターとして委嘱し、例えば半年に1回の地域ケア推進会議に参加してもらうなどして生活支援のニーズを把握する方法も有効です。
なにより、「常連の高齢者が最近来なくなった」といった異変を地域包括支援センターにつないでもらうなど、地域の見守りセンサーとしての役割も期待されます。
こうした民間事業者に適切な財政支援を行うには、要支援者や事業対象者、さらに80代・90代の一人暮らし高齢者の生活をどのように支えているのか、ケースごとにしっかりと分析・把握することが不可欠です。アンケートではなく、個別の生活をつぶさに見ていく必要があります。
保険者の目はどうしても地域の高齢者の「できていないこと」に向きがちですが、「どうやってしのいでいるのか」という視点でみると、実に様々な資源を活用して生活していることがわかります。
やみくもに介護保険の類似サービスを作ってその担い手を探すよりも、すでに地域で活動している民間企業や事業者を支援する方が、はるかに効果的です。
中山間地域や買い物支援を課題とする自治体の生活支援体制整備のご担当者の皆さん、新しいサービスを開発する前に、まずは移動販売事業者さんの気づきをしっかり共有するところから始めませんか?
岩名礼介(いわな・れいすけ) 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社主席研究員、共生・社会政策部長
自治体支援を専門とし、在宅医療・介護連携推進事業や生活支援体制整備事業、介護保険事業計画などのコンサルティング・研修に携わる。