各地の在宅医療・介護連携推進事業の遅れは深刻だと思います。コロナで「それどころではなかった」「多職種で顔を合わせること自体が難しかった」というのはその通りです。
しかし、それを差し引いても、自治体における医療介護連携の課題設定や問題認識は、私の関わっている範囲ではありますが、やや「のんびり」した印象を持っています。
今回は、在宅介護や看取りは「実現できたらいいよね」というレベルの課題ではなく、「どうしてもやらねばならない」取り組みであることを確認したいと思います。その上で、「すぐやるべきこと」を2点指摘します。
病院に依存した地域のケア体制
在宅医療・介護連携推進事業は、一般的には、地域の利用者からみて一体的なサービス提供体制を専門職間の連携強化によって実現しようとするものです。しかし別の角度から表現すれば、「病院依存のケア体制からの脱却」の試みとみることもできます。
日本の地域ケアの仕組みは、介護保険創設以来、介護サービスの増加によって大きく変化しましたが、実は依然として医療・病院に強く依存する仕組みでもあります。実際、看取りの場所は、現在も病院が約8割ですから、「病院が人生の最終段階を支えている」といってよいでしょう。
一方で医療機関の病床数は、今後の人口減少にあわせ縮小が見込まれます。これまで介護現場が頼りにしてきた病院のキャパシティが縮小する中で、新しい「看取りの場」を探さねばならないという切実な事情があるのです。つまり「脱・病院依存のケア体制」が求められているのです。
看取りの場「その他」とは?
ここで、少し懐かしいグラフを紹介しましょう。10年以上前に厚生労働省のある官僚が作成したとされる「看取りの場」の実績と将来予測です。
2006年段階の自宅・介護施設・医療機関・その他での看取り数実績を出発点に、死亡者数がピークに達する2040年に向けて(グラフは2030年まで)どのような場所で人は亡くなっていくのかを予想しています。
推計の前提条件は3つ。①在宅医療介護の連携が進んで在宅看取りが2030年までに2006年の1.5倍になる、②介護施設の整備もさらに進み、施設での看取りも2倍になる、③その一方、現状、看取り数の8割を支えている主力の医療機関は横ばい――というものです。

地域医療構想を引くまでもなく、人口減少が進む日本で、病床の増加を期待することはできません。また医師の働き方改革への対応も求められており、これまでのように病院に過剰に依存し、医療現場に無理を強いるモデルは非現実的になっていきます。
2040年に向けて死亡者が増加する中で、新しい「看取りの場」の主力として在宅と施設の看取り対応力が強化されなければ、「その他」で死亡する人が2030年には47万人に達するとしているのです。もちろん「その他」の場は、何か「あて」があるわけではありません。
つまりこの数字は、この問題の象徴であり「この47万人分の看取りの場はどうするのか?」と社会に問うているのです。では「脱・病院依存のケア体制」に向けては何が必要でしょうか。
施設限界点の引き上げ
医療介護連携には数多くの取り組みがありますが、見落としがちな視点が2つあります。1つは、「介護施設の看取り力の向上」です。病院で看取られる患者はすべてが在宅から搬送されているわけではありません。介護施設も主要な搬送元です*。
介護施設のなかでも特養や介護医療院は、比較的高い看取り力を持ちます。しかしグループホームや特定施設、近年その数を増やしているサービス付き高齢者向け住宅、住宅型有料老人ホームでは、法人の運営方針によって医療的なケアや看取りへの対応力に大きな差があります。
入居者の入退院を契機に、他施設への転居を求めるケースは少なくありませんし、病院の退院調整においても大きな負担となっています。
先のグラフでは介護施設の看取り数の倍増を想定していましたが、「その他」の解消には、すべての介護施設で看取りに向けた対応力の強化、少なくともより重度でも受け止められる体制の構築、すなわち施設限界点の引き上げが不可欠です。
夜間の人員体制が乏しければ、施設での急変時の対応はより困難ですし、専門職間の日頃の連携が不十分であれば急変時の現場の負担はより大きくなります。
いうまでもなく、こうした事前の準備や平時の連携体制の構築は、在宅医療・介護連携推進事業の中心課題ですが、取り組みが行われている地域は限られていると思います。
もちろん現場の努力だけでは限度があります。国は施設の看取り力強化を積極的に進めるために、介護報酬で一層強いインセンティブを付すべきでしょう。
制度面において外部の医療・看護資源の活用を阻害する要素があるなら、それらを除去する必要があります。人員配置基準なども含めて、地域全体で支える仕組みがつくりやすい制度に転換していくことが喫緊の課題でしょう。
支える側の負担軽減
もう1点は、現場の専門職の負担軽減の仕組みを確立することです。夜間・深夜・休日のケア体制構築は、人材難の今日、単一の事業所では大きな負担です。そもそも夜間・深夜帯は、地域のすべての事業所が稼働している必要はないため、本来であれば、当番制で事業者が稼働していればよいはずです。
一般の診療においては、夜間・休日診療所などの仕組みが地域の医師会等で構築されていると思いますが、在宅介護版の仕組みづくりも不可欠です。そのためには、平時の情報連携の仕組みや、知識や技術面での多職種間における標準化も求められます。時間がかかっても必ず取り組む必要があると思います。
自治体での医療介護連携の議論は、ともすれば「顔の見える関係づくり」「研修・意識啓発」「入退院支援のための情報連携シートの作成と活用」あたりが典型的で、これらも重要な取り組みですが、「施設限界点の向上」や「負担軽減」に関する議論は乏しいと思います。
コロナ災禍は、今後の日本に起こることの予告編
やや唐突に感じるかもしれませんが、「脱・病院依存のケア体制」を議論するにあたっては、まず「コロナ災禍の反省会」から始めるべきだろうと思っています。
コロナ災禍では「病院依存のケア体制」が機能しなくなりました。入院したくてもできない、施設で乗り切る必要がある、訪問系のサービスでも感染者がでて利用者へのサービス提供が滞るなど、多数の困難な状況がありました。
単体の事業者だけでは乗り切れないような状況も多かったと思います。言ってみれば、日本の地域は今後数十年かけて経験する困難をコロナ災禍の3年にダイジェストで圧縮して経験したと考えることもできます。
コロナ災禍の反省にたてば、必然的に病院だけに依存しない地域ケア体制の議論が始まるはずです。「平時における事前の準備」こそが医療介護連携の取り組みだと理解すれば、「コロナ災禍における地域ケア体制」の検討は、そのまま「多死社会における地域ケア体制」と重なってくるはずだと思います。
*なお、厚労省の手引きにおいても、在宅医療は、病院・診療所以外で提供される医療と定義されており、「在宅医療介護連携」とはいうものの、特養やグループホームなどの施設も対象です。そもそも、現場レベルではこの点も見落とされていることが少なくありません。

岩名礼介(いわな・れいすけ) 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社主席研究員、共生・社会政策部長
自治体支援を専門とし、在宅医療・介護連携推進事業や生活支援体制整備事業、介護保険事業計画などのコンサルティング・研修に携わる。