国民医療費の削減によって社会保険料を下げるという提言が出てきています。その中にOTC類似薬の保険適用除外を進める案があります。自民党、公明党、日本維新の会の3党は2025年6月11日、OTC類似薬の保険給付のあり方の見直しなど社会保障改革に関する政策について合意しました。
OTC類似薬とは、OTC医薬品とほぼ同じ成分や効果を持つ医療用医薬品で、医師の処方箋がなければ入手できません。現在、こうしたOTC類似薬は医療保険の対象ですが、対象から外していこうという方向性が打ち出されたことになります。
OTC薬とOTC類似薬
OTC薬とOTC類似薬との違いは以下の通りです。
OTC薬…薬局で購入できる要指導医薬品・一般用医薬品。処方箋なしで購入できる
OTC類似薬…OTC薬と同等の成分で構成されている医療用医薬品。処方箋がなければ購入できない
OTC薬には、スイッチOTCと称されるカテゴリーもあります。これはかつて医療用医薬品だったものが、規制緩和されてOTC医薬品に変わった(スイッチした)ものです。
ロキソニンやガスターなどの内服薬や、ロキソニンテープやフルコート軟膏などの外用薬も含まれます。OTCの一種ですから、もちろん処方箋は必要ありません。
スイッチOTCは年々増えていて、現在スイッチOTC化が検討されている医療用医薬品も少なくありません。このことは何を意味するのでしょうか。
スイッチOTCと医療用医薬品の両方が出回っているロキソニンテープを例に、価格を比較してみましょう。医療用の薬価は1枚17.6円、7枚では123.2円です。スイッチOTCは7枚入り1080円(希望小売価格)と、およそ8.8倍も高価です。
医療用医薬品の使用には保険診療(医療機関の受診)が必須で、その費用も考慮する必要はありますが、それでも大きな開きがあるといえるでしょう。こうした医薬品が保険適用から外れると、スイッチOTCしか購入できないことになり、これらを必要とする患者には大きな負担増となります。
例えば、多くの枚数を貼る必要がある場合は大量に必要で、その分費用もかさみます。年金生活の高齢者で膝や腰の痛みを訴えている方は大勢います。保険適用から外すということは、その方たちに大きな負担や、医薬品の使用控えを強いることになりかねません。
医療用とOTCは副作用対策に大きな差
OTC医薬品の一部(多くはスイッチOTC)はセルフメディケーション税制の対象となり、要件を満たせば所得控除が受けられるので、負担増はいくらか抑えられるとはいえます。
しかし、医療用医薬品であれば保険薬局でしか購入できず、薬局薬剤師は問診などして安全性を確認してから販売します。同じような成分の医薬品が重複していないかも確認します。
さらに薬局では、長期服用が好ましくない医薬品であれば医師に疑義照会します。保険診療では、長期投薬してはならない薬品などは支払基金などで査定する仕組みがあり、医療機関に支払いをしないというルールもあります。薬局・医療機関・支払基金という3つの防波堤が副作用を防いでいるということです。
医師も基本的に2週間に1回診察して、その薬品を継続してよいか、副作用が出ていないか確認します。こうして治療の安全性を確保しているのです。
OTC医薬品では他の薬局などで購入したかどうかなど、使用歴の確認も十分にできないため、安全性の担保が少なくなってしまいます。いまマスコミでは、医療用医薬品の過剰な投与が医療費増大につながっていると問題視されています。だから保険診療から外してしまえ、というのはあまりにも短絡的な考えではないでしょうか。
残薬も問題視され、患者宅に残薬が大量にある様子もしばしば紹介されます。私も学会等でそのテーマで発表したことがありますが、訪問薬剤師の活躍などで残薬はだいぶ減ってきたと思います。ロキソニンテープなどの湿布薬は一処方で出される数量が制限され、適正な数量が患者に供給されるようになりました。
医療費削減によって健康を失うのは本末転倒
OTC類似薬を保険診療から外すのではなく、保険診療として適正かどうかの判断は必須です。副作用を抑えるためには医師・薬剤師の連携が必要で、そこに処方箋が大きな役目を果たしています。医師の診断や治療の経過は患者の個人情報で、医療保険の内容はマイナンバーよって本人が確認できるのものになりつつあります。
一律にOTC化するのではなく、患者個人個人の特性によって判断されるものであるべきです。その監査を支払基金等が高度なAI化により、複雑になった詳細な診断名とそれに伴う最適な処置を監査すべきです。
新しく製造販売された医薬品がここ数年は年間400以上で、高薬価商品が多くなっているようです。このように費用はかかるが適切な治療で治癒できる疾患も多くなっているのです。
そのためにも医薬品は必要で、医療費削減を進めて健康を失うようなことは本末転倒です。医療費削減のためには、病気を未然に防ぐことも非常に大切です。病気にかからなければ医療費は自ずと減るのですから。そこに目を向けましょう。
厚生労働省医薬局医薬品審査管理課資料より



高橋眞生(たかはし・まなぶ) ㈱カネマタ代表取締役
在宅医療薬剤師。千葉・船橋で保険調剤薬局を展開。訪問薬剤管理を長年実践し、在宅患者からの信頼も篤く地域医療に貢献している。