ケアマネジャーや居宅介護支援事業所をめぐりさまざまな課題や方向性が示されているが、現役のケアマネはどう見ているのか。東京都内の事業所に勤める3人に聞いた。
■「ケアプランこきん」の高見澄子さん、有薗智保さん
主任ケアマネジャーの高見澄子さんとケアマネジャーの有薗智保さんは、小金井市の「ケアプランこきん」に勤務している。同事業所の特徴は訪問看護ステーション「国立メディカルケア」に併設された居宅介護支援事業所であること。
このため、医療依存度が高かったり、末期だったりといった利用者を紹介されるケースが多く、看取りを行う場合にも「医療職が身近にいるので対応しやすい」(高見さん)そうだ。
医療・介護連携という点では、さらに入院時情報連携加算に関して「早急に書類を作成し、プランを添付して送る」(有薗さん)ようにしている。ケアマネは加算を付ける機会が少ないことに加え、3日以内に情報を提供すれば、より点数が高いⅠを算定できるからだ。
退院後はプランを病院に送ることしているが、提供した情報がうまく活用されているかは疑問である。
2人はどのような経緯でケアマネジャーになったのだろうか。高見さんはヘルパーとしてデイサービスや障害者の訪問介護などさまざまな施設で働いた後、正社員として大手の訪問介護のサービス提供責任者となった。
介護保険制度の創設に伴い、ケアマネジャーとともに計画の立案などを行っているうちに興味を持ち、2005年にケアマネの資格を取得した。
管理職として東京全体の居宅介護支援事業所を取りまとめていた間に主任ケアマネの資格を取った。そのころ医療との連携の重要性を知りいろいろな勉強会に出る中で、より医療と近いところで働きたいと考え、現在の職場に転職した。
一方、有薗さんは介護福祉士として大手のデイサービス部門で働いていた際、相談員になることを希望し、ケアマネジャーの資格を取ればなれるかと考え、2018年に資格を取得した。
結局、相談員にはなれず、ケアマネが足りないということでグループの居宅介護支援事業所でケアマネの業務に就いたものの、多い時には46~47件も担当させられるなど大変な職場だったため、こきんに移った。現在は34~35件程度を担当しているため、無理なく業務をこなせるとのこと。
■虐待のケースの依頼が増加
ケアマネジャーのなり手が少ないことについては、仕事が大変な一方で、収入が介護現場の職員に比べ少ないことが指摘されている。
職務の大変さについて、ケアマネに関して20年弱の経験を持つ高見さんは、書類作成の多さに加え、絶えず加算が変更されるので、それについていくことが一苦労だと指摘する。
有薗さんはそれに加え、独居で認知症だったり、経済的な問題を抱えていたり、家族関係に課題があったりといった、どこの事業所でもある難しいケースに加え、家庭内で虐待が増えていることを挙げている。
ケアプランこきんには主任ケアマネジャーが2人いることから虐待のケースの依頼が多いのだ。言葉の暴力だけという場合もあるものの、5人のケアマネは…
収入増へ処遇改善を、ICT活用による業務負担の軽減も必要 高野龍昭・東洋大准教授
介護現場の人手不足が言われるようになって久しいが、介護保険制度の中で重要な役割を果たしているケアマネジャーのなり手が減っているにも関わらず、国の審議会などでなぜか大きな問題として取り上げられていない。なぜケアマネが不足しているのか。東洋大学 ライフデザイン学部生活支援学科の高野龍昭准教授に聞いた。
■給料が上がらないのに責任が重く
――ケアマネジャー不足をどう見ますか。
高野 私がケアマネジャーをやっていた2000年代前半ぐらいは、夜勤がない上に給料は高く、責任を持った仕事ができるということで、介護職員のキャリアアップの1つのルートとしてケアマネがありました。
今は、給料は上がらないのに責任がすごく重くなってきた。一方で介護職員の給料が改善され、ケアマネと介護職員の収入が肩を並べるようになっています。こうしたことから、ケアマネのなり手が少なくなってきたということではないでしょうか。
2018年に受験資格が変更されたことで、受験者数も合格者数も急減しました。その後、合格者数は増えたり減ったりしているものの、2017年に比べると、現在は4分の1ぐらいに減っています。
それなのに、国はケアマネジャーの激減に対し、あまり危機感を持っていないようです。しかし、福祉分野の職業紹介やマッチングを行っている中央福祉人材センターのデータによると、去年10月のデータでは、有効求人倍率は介護職が4.85倍、ホームヘルパーは6.25倍です。
このため、介護職やヘルパーの人材が不足していると言われているのですが、実はケアマネジャーも3.68倍と高い。人材不足が喧伝されている保育士ですら3.55倍ですから、それと比べればケアマネの人材不足も大きな課題なのに、国で議論しないのが疑問です。
――なぜなのでしょう。
高野 もともと給料がちょっと良かった、というイメージに引きずられているのかもしれません。ヘルパーの高齢化が言われて久しいのですが、ケアマネジャーも平均年齢はヘルパーと同じくらいの水準となっています。
今から10年後ぐらいのケアマネジメントを考えた時に、若い人がもっと入ってくるような仕組みを作っていかないとまずいことになるでしょう。
――主任ケアマネジャーの不足も問題です。
高野 前回の制度改正で、基本的に居宅介護支援事業所の管理者は主任ケアマネジャーでなければならなくなりました。ただ、主任ケアマネになるためには…
第98回介護保険部会を傍聴して、介護保険の給付と負担を考えた
社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)介護保険部会は9月26日、「給付と負担」「その他の課題」について議論した。
■かかる費用と負担する額
介護保険の給付と負担は、介護保険制度の根幹に関わる問題である。折しも21日、2021年度の介護費用額…
私たちはコロナとこう闘った――介護施設・潤生園の2年間
井口健一郎 特別養護老人ホーム潤生園施設長
■利用者もワーカーも苦難を強いられた
この2年間、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)が猛威をふるい、世界中を席巻しました。私たちが当たり前のように過ごしていた「日常」が当たり前ではなくなってしまったことを…
居住支援を通して街をつくる(下)
牧嶋誠吾さん(大牟田市居住支援協議会事務局長、元大牟田市職員)に聞く
■住まいに困っている人と空き家をマッチング
――市役所を退職された後、病院勤めを経て21年4月から、居住支援協議会の事務局長を務めておられます。
居住支援協議会では現在、要配慮者に空き家を紹介するマッチング事業を展開しています。空き家所有者向けに無料相談会を開いたり…
居住支援を通して街をつくる(上)
牧嶋誠吾さん(大牟田市居住支援協議会事務局長、元大牟田市職員)に聞く
「建築屋」が小多機を整備した
■住宅部局から福祉部局に異動
――福岡県大牟田市は、市民参加の認知症模擬訓練に象徴される、認知症ケア先進地域として知られています。もう1つ、小規模多機能型居宅介護(小多機)を介護予防と地域交流の拠点にした街づくりも評価されています。牧嶋さんは…
住まいに困っている人への支援とビジネスを両立させる
インタビュー Rennovater株式会社・松本知之社長
住宅確保困難者への住宅提供をこれまでなかったスキームで手掛け、着実に地歩を築いているベンチャー企業、Rennovater株式会社の松本知之代表取締役社長に、事業への思いや現行制度の課題について語ってもらった。
Rennovater株式会社(京都府京田辺市、以下リノベーター)は古い空き家や築年数の古い集合住宅の一室を購入し…
対談・ホームホスピスという住まい④―― コロナ禍にあっても
――今は少しずつ緩和されていると思いますが、コロナ禍で多くの施設が面会を中止し、そこに暮らす人も外出できなくなりました。ホームホスピスでは、つながりを保つように最大限の努力をしたと思います。山口先生はこのことについて調査されましたね。
山口 2020年春、全国のホームホスピスにアンケートをとり、何軒かにインタビューさせていただきました。
手指消毒、マスク、換気といった対策は、もちろん…
対談・ホームホスピスという住まい③―― 少人数で暮らす
――ホームホスピスのもう1つの特徴である、小人数の「とも暮らし」には、どんな意義があるのでしょうか。
市原 「かあさんの家」の住人は5人で、これはずっと守っています。ときどき、行き場がなく預かってほしいと言われ、お1人お預かりすることがあります。そうやって6人になると、経験上、なんだか全体が……
対談・ホームホスピスという住まい②―― 「別宅」に暮らす
――今の話を伺って、バリバリの施設に老人「ホーム」という名前が付いているという逆説を思い出します。山口先生の師である外山義先生は、高齢者ケアと住環境の関係を研究し、特養に個室ユニットケアを導入したことで知られます。施設をできるだけ「家」に近づけるにはどうしたらいいのか、山口先生もそういう観点からホームホスピスを研究しておられます。
山口 市原さんがおっしゃるように、高齢者ケアの場は以前は家か施設しかなく、施設は4人部屋で…
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