在宅の限界点を上げる短時間訪問介護 ――新生メディカルの「身体0」(下)🆕

2024年 7月 10日

 新生メディカルのヘルパーが「身体0」で訪問する時間帯は朝、昼、夕、夜間である。1回の訪問時間は短いが、利用者に応じていろいろなケアができるのは前回紹介したとおりだ。

定期巡回サービスのデメリット
 身体0は毎日の生活を支えるため、1日に複数回、短時間訪問する。人の生活は、1日24時間の生活リズム――起き、食べ、排泄し、動き、そして寝る――の繰り返し。週単位や月単位のリズムではないから、週1回だけ長時間訪問する、といったサイクルでは、生活は成り立たない。

 新生メディカルの今村あおい代表取締役は「身体0は、この生活リズムをしっかり支えるためにヘルパーが毎日決まった時間に訪問する、活用しやすいツールです」と説明する。

今村さん

今村あおい代表取締役

 ヘルパーが毎日、決まった時間に短時間訪問するサービスというと、定期巡回・随時対応型訪問介護看護(以下、定期巡回)もある。これが創設されたのは2012年度の介護報酬改定で、訪問介護に身体0が創設されたのも同時期である。

 実は新生メディカルでも定期巡回を提供している。なぜ、あえて身体0に力を入れているのだろうか。両者の大きな違いは、定期巡回は包括報酬サービスで、身体0は出来高払いであることだ。

 定期巡回では、ヘルパーが何回訪問しても料金は変わらない。今村さんは「利用者側にとっては、訪問回数が多いほど“お得”なので、ちょっとしたことで呼んでしまいがち」と指摘する。

 今村さんは「少しでも困ったら呼ぶのではなく、困らないように、毎日の生活に必要不可欠な行為をしっかり支えるのです。それが在宅の限界点を上げることにつながります。それには綿密なアセスメントが必要」と説明を続ける。

 そのため同社では、たとえば退院直後の方に対して、何時に入って何をすればよいかを見極めるために、まず定期巡回を使ってもらうことが多いという。

 「入院前にどんな暮らしぶりだったか、退院後にお体がどう変わったか、別居のご家族には案外わからないものです。だから定期巡回でいろんな時間帯に訪問して、どんな支援が必要かを見極めます」。

 「最初はアセスメントのために定期巡回を入れるわけです。1、2カ月過ぎて、ここは自分や家族で頑張れる、こっちはヘルパーに支援してほしい、と見えてきたら、改めてカンファレンスを開き話し合い、身体0に切り替えるケースが多いです」。切り替え後、できることが増えてきたら、訪問回数を減らしていく。

 訪問したら突発的な問題が起こっていて、20分以内にケアが終わらない場合は、ヘルパーが臨機応変に現場で判断し、30分の介護に切り替えることもある。Eさんを訪問した中川さんも、その可能性を口にしていた。

 高齢者が入院すると、その病気が治っても全身状態が落ちてしまう。家族も退院後に一人暮らしをさせるのが不安で、施設に入所させることは珍しくない。

 今村さんは「そういう場合であっても、毎日決まった時間にヘルパーが訪問することで、生活にリズムが生まれ、心身の状態も保たれます」と話す。

 「Aさんは退院前、自宅で暮らすのはもう無理でしょう、と病院側に言われたんです」と同社池田営業所の大須美佐子所長が付け加える。

 「でもご本人も家族もなんとか自宅でやってみたいとおっしゃって、じゃあ家に帰りましょうと。ヘルパーが入ってできることを増やし、元の生活に戻っていくことを目標にしました」。

大須さん

大須美佐子所長

 最近はがん末期で“人生の最終段階”になり、もうできることはないから退院してほしい、と病院から言われるケースも多いという。

 「そう言われて、本人は家に帰りたいのに、家族が躊躇して行き場に困る場合がけっこうあります。そんな場合でも、訪問介護と訪問看護・訪問診療が入れば、家にいられます。介護は頻回に訪問するので、家族の『やっぱり病院に戻したほうが…』と揺れる心情を察して医療に伝えたり、本人の願いを受け止めたりできます」(今村さん)。そうしてお看取りまで支えていく。

地域の在宅高齢者に必要なケアを提供
 新生メディカルの本社は、Dさん~Hさんが暮らす建物内にある。同社の営業所は本社内のほか岐阜県内5カ所にあって、同社全体としては、Aさんのような一般の一戸建て住宅に訪問する件数のほうが多いという。

 今村さんは「お住まいが一戸建て住宅であっても集合住宅であっても、地域の在宅高齢者一人ひとりに、必要なケアを個別に提供しています」と強調する。集合住宅を順番に訪問して、どのお宅も掃除するだけ、というようなサービスとは一線を画す。

 今村さんに、今春の介護報酬改定をどう考えるか尋ねた。訪問介護の基礎報酬が減額されたことについて「在宅で過ごせる方を増やすのであれば、それを支えるサービスをしっかり支えて欲しい」と指摘する。

 さらに「在宅は介護保険制度の柱だったはずなのに、訪問介護が評価されていないことになり、本当に残念。だけど一方では、介護保険の財政を考えると、やれるだけのことをやるしかない、とも思います」と冷静に語った。

【解説】身体介護とは
 訪問介護のサービス行為は身体介護と生活援助だ。身体介護は「利用者の身体に直接接触して行う介助」であり、生活援助は「身体介護以外の訪問介護であって、掃除、洗濯、調理などの日常生活の援助」である。

 身体介護の代表は食事・入浴・排泄の介助だが、身体介護はそれだけではない。訪問介護の業務を規定する厚生労働省の通知「老計10号」には、下表のように明記されている。

 新生メディカルの身体0は「6 自立支援のための見守り援助」が中心といえるが、それ以外についても、利用者に合わせてさまざまなケアが提供されていた。

老計10号

 老計10号は2018年に一部改正され、上記6「自立支援のための見守り援助」が7項目から16項目に増えた。16項目は以下の通りで、赤字が増えた項目である(番号は引用者による)。

①ベッド上からポータブルトイレ等(いす)へ利用者が移乗する際に、 転倒等の防止のため付き添い、必要に応じて介助を行う
②認知症等の高齢者がリハビリパンツやパット交換を見守り・声かけを行うことにより、一人で出来るだけ交換し後始末が出来るように支援する
③認知症等の高齢者に対して、ヘルパーが声かけと誘導で食事・水分摂取を支援する
④入浴、更衣等の見守り(必要に応じて行う介助、転倒予防のための声かけ、気分の確認などを含む)
⑤移動時、転倒しないように側について歩く(介護は必要時だけで、事故がないように常に見守る)
⑥ベッドの出入り時など自立を促すための声かけ(声かけや見守り中心で必要な時だけ介助)
⑦本人が自ら適切な服薬ができるよう、服薬時において、直接介助は行わずに、側で見守り、服薬を促す
⑧利用者と一緒に手助けや声かけ及び見守りしながら行う掃除、整理整頓(安全確認の声かけ、疲労の確認を含む)
⑨ゴミの分別が分からない利用者と一緒に分別をしてゴミ出しのルールを理解してもらう又は思い出してもらうよう援助
⑩認知症の高齢者の方と一緒に冷蔵庫のなかの整理等を行うことにより、生活歴の喚起を促す
⑪洗濯物を一緒に干したりたたんだりすることにより自立支援を促すとともに、転倒予防等のための見守り・声かけを行う
⑫利用者と一緒に手助けや声かけ及び見守りしながら行うベッドでのシーツ交換、布団カバーの交換等
⑬利用者と一緒に手助けや声かけ及び見守りしながら行う衣類の整理・被服の補修
⑭利用者と一緒に手助けや声かけ及び見守りしながら行う調理、配膳、後片付け(安全確認の声かけ、疲労の確認を含む)
⑮車イス等での移動介助を行って店に行き、本人が自ら品物を選べるよう援助
⑯上記のほか、安全を確保しつつ常時介助できる状態で行うもの等であって、利用者と訪問介護員等がともに日常生活に関する動作を行うことが、ADL・IADL・QOL向上の観点から、利用者の自立支援・重度化防止に資するものとしてケアプランに位置付けられたもの

 大雑把にまとめれば、「見守りながら一緒に行う」ことも身体介護に含まれることになった。その根底には、自立支援のため利用者のできることを尊重し、今の能力をできるだけ長く維持する、という思想があるのだろう。

 ⑧は掃除、⑪は洗濯物干し・たたみ、⑭は調理…など、一見、生活援助のようだが、利用者と一緒に、手助け・声かけ・見守りしながら行うことで、身体介護となる。これは介護のプロの仕事で、素人にはやはり難しい。

 ここ数年、社会保障審議会などで「要介護1・2の人への生活援助を介護給付から外して自治体の総合事業に移行すべきか」という議論が続けられている。この議論に対して介護業界の反発は強い。しかし、⑧~⑯のような「見守り的援助」は身体介護に規定されるから、総合事業の対象にはならない。

 生活援助は「身体介護以外の訪問介護」である。ということは、生活援助とは「見守り的でない援助」、すなわち“単なる家事援助”であって、介護のプロというより家政婦の仕事と同じ、ではないか。そうであれば、生活援助に介護の専門性は必要なく、個別給付切り離しにも一定の理があるのではないだろうか。

 新生メディカルでは、生活援助もケアプランに基づいて提供している。介護保険で提供できない行為は自費サービスでカバーする。また、軽易な家事援助や外出援助は、同社の石原美智子会長が代表を務めるNPO法人「校舎のない学校」がライフサポート事業として実施している。

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新生会が提供する高齢期の暮らし ②リハビリセンター白鳥🆕

◆居室を窓側に配した「個室型多床室」
 
 リハビリセンター白鳥(しろとり)はより多くの人に個室を提供するため「個室型多床室」というアイデアを打ち出し、実現した施設である。1階のカフェでは職員手作りのパンや駄菓子などが販売され、近所の子どもたちが訪れる。
 
■個室型多床室
 池田町の白鳥地区にある「リハビリセンター白鳥」は2階建てで、1階にリハビリルームとコミュニティカフェ、グループホームなどがある。2階は特別養護老人ホームとショートステイを合わせ45部屋で、ここが全国でも唯一の個室型多床室である。
 
 一般的に多床室は4つのベッドがカーテンで仕切られ、ベッドとベッドの間の空間が通路だ。個室型多床室ではすべての居室を窓側に配置し…

新生会が提供する高齢期の暮らし ①サンビレッジ宮路🆕

◆濃尾平野を一望する高台の一戸建て有料老人ホーム
 
 社会福祉法人新生会は本部のある岐阜県池田町のほか、岐阜市・瑞穂市・大垣市に10施設を展開している。いずれも設立の意図が明確な複合施設で、先進的な取り組みを行っている。その中から5カ所を紹介する。第1弾は日本初の一戸建て・住宅型有料老人ホームのある「サンビレッジ宮路」である。
 
■サンヒルズ ヴィラ・アンキーノ
 池田町、池田山中腹に設けられたサンビレッジ宮路は、一戸建て有料老人ホーム「サンヒルズ ヴィラ・アンキーノ」「デイサービスセンターちゃぼぼ」「グループホーム弥生」などで構成される。
 
 サンヒルズ ヴィラ・アンキーノは、介護が必要になっても自由で健康的な暮らしをするためにつくられた。豊かな自然の中で、元気なうちは別荘として余暇を過ごしたり、早めに住み替えて落ち着いた生活を楽しんだりできる。

20分の在宅訪問で独居生活を維持 ――新生メディカルの「身体0」(上)🆕

 岐阜県内でケア事業を幅広く展開する社会福祉法人新生会と株式会社新生メディカルは、介護保険制度以前から先進的な取り組みで知られてきた。この特集では、現在の新生会グループが提供するケアを多角的に紹介する。
 
 株式会社新生メディカルは訪問介護、通所介護、居宅介護支援、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、福祉用具貸与販売などの介護保険サービスや、保育所事業を提供・運営している。社会福祉法人新生会の石原美智子名誉理事長が1977(昭和52)年に創業し、90年に株式会社化した。石原さんは現在、新生メディカルの代表取締役会長でもある。
 
■8人の利用者への訪問に同行
 同社が現在力を入れているのは、訪問介護の20分未満の身体介護サービス「身体0(ゼロ)」だ。20分未満の在宅訪問でどんな身体介護を提供しているのか、8人の利用者への訪問を同行取材させていただいた。
 
 訪問日時は5月7日夕方(3人)、8日朝(1人)、夕(5人)で、うち1人は夕と朝の両方に同行した。ヘルパーは勝野美雪さん、髙木美香さん、中川千絵さんの3人。皆さん、ヘルパー歴10年ほどのベテランである。
 
 それぞれの訪問でヘルパーが提供したケアを…

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