20分の在宅訪問で独居生活を維持 ――新生メディカルの「身体0」(上)🆕

2024年 7月 3日

 岐阜県内でケア事業を幅広く展開する社会福祉法人新生会と株式会社新生メディカルは、介護保険制度以前から先進的な取り組みで知られてきた。この特集では、現在の新生会グループが提供するケアを多角的に紹介する。

 株式会社新生メディカルは訪問介護、通所介護、居宅介護支援、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、福祉用具貸与販売などの介護保険サービスや、保育所事業を提供・運営している。社会福祉法人新生会の石原美智子名誉理事長が1977(昭和52)年に創業し、90年に株式会社化した。石原さんは現在、新生メディカルの代表取締役会長でもある。

8人の利用者への訪問に同行
 同社が現在力を入れているのは、訪問介護の20分未満の身体介護サービス「身体0(ゼロ)」だ。20分未満の在宅訪問でどんな身体介護を提供しているのか、8人の利用者への訪問を同行取材させていただいた。

 訪問日時は5月7日夕方(3人)、8日朝(1人)、夕(5人)で、うち1人は夕と朝の両方に同行した。ヘルパーは勝野美雪さん、髙木美香さん、中川千絵さんの3人。皆さん、ヘルパー歴10年ほどのベテランである。

 それぞれの訪問でヘルパーが提供したケアを下表にまとめた。

ケアの内容

 利用者8人は全員独居、年齢は78歳から99歳。要介護度は最も高いBさん・Hさんで要介護4。B、C、D、Fさんは認知症がある。8人の住まいは一戸建て住宅(1人)、一戸建て有料老人ホーム(2人)、集合住宅(5人、同一建物)である。

 3人のヘルパーは20分(未満)の間に、上記のほかにもスマホに業務開始と終了を入力し、記録も残す。室内をきびきびと動き回る間にも、利用者に話しかけ、気を配り続ける。エアコンの温度を調整したり、冷蔵庫の中を見たり、照明を点けたり消したり、無駄な動きは一切ない。

利用者の選択とこだわりを尊重
 Aさんは今回同行した8人中、唯一、一戸建て住宅に暮らしている。ヘルパー勝野さんは屋内に入ってすぐ、Aさんの居室ではないところの窓が開いていることに気づいた。Aさんは前夜から開けたままと説明し、閉めなくていいと言う。勝野さんは室温を確認し、そのまま窓を開けておいた。

勝野さん

トイレ介助のためAさんをベッドから起こす勝野さん

 Cさんへのケアは夕方と翌日朝の2回、同行した。朝の訪問で、ヘルパー髙木さんはCさんが朝食を調理するのを隣で見守る。

 Cさんがみそ汁に卵を割り入れた際、殻のかけらが入ってしまった。それに気づいた髙木さんが取り除くのかと思って見ていると、髙木さんは「殻が入ってしまいましたね、取れますか?」と促し、見守り続けた。そしてCさんが「ほんとや、取らな」と言いながらゆっくり取り除いた。

高木さん

朝食をつくるCさんを髙木さんが見守る

 Dさん~Hさんは同じ建物内に住んでいる。この建物の中層階がサ高住、高層階は一般マンションで、5人のうち3人がサ高住に、2人はマンションに住む。両者のエントランスは異なり、ヘルパー中川さんはエレベーターを上り下りして行き来する。

 Dさんは読書好きでテーブル上に本を広げているが、中川さんは「読んでいるわけじゃなく目で文字を追うだけ。そうやって落ち着いているようです」と、退出後に教えてくれた。

 中川さんはDさん宅に滞在中、絶えずDさんに話しかけていた。「私(中川さん)に意識を向けてもらうため。そうしないと不穏になってしまう」という。

 Dさん宅を辞去すると、中川さんは階下の食堂に向かった。Eさんに届ける配食の夕食を食堂で受け取り、Eさん宅を訪問。ところがEさんは不在で、中川さんはすぐ営業所に電話をかけて報告。いつもは17時に訪問するが、この日は少し早い16時20分の訪問だ。このことはEさんに伝えていたのだが、忘れてしまったのだろうか。

 「何があったんだろう。30分のサービスに変更するかも」と中川さんが心配していると、エレベーターが到着してEさんが降りてきた。通所リハが少し遅れてしまったそうだ。室内に入り、予定どおりケアを終了。

 Gさんは薬の管理がなかなかできなかったが、本人の目の届かない玄関脇に置くことで解決した。 「だから、来たらまずここから薬を取り出して、食事後に飲めるように整えます」と中川さん。

 Gさんは日中はほぼベッドに横になっていて、夕方、起き上がって食卓に移動し、食事する。箸を使って1人で食べるのを中川さんは注意深く見守っていた。食事はこの1回のみで、それ以外は菓子を少し口にする程度という。

中川さん

Gさんをトイレに誘導する中川さん

 Hさん宅では、中川さんは就寝の準備を整え、Hさんをベッドに寝かせると、もう1枚の掛け布団を折りたたんでベッド脇の床に敷いた。

 「Hさんはときどき、ベッドから下りて床の上で寝てしまうことがある。そうなっても寒くないように」。ベッドから落ちるのではないから、床の上で寝てもいい、ということだった。

 8人はきちんと食べて排泄して、清潔に、自分のしたいように、尊厳をもって、在宅で一人、暮らしておられた。できること・できないことや、生活のこだわりは、8人8様だ。Aさんが窓を開けたままにしたがったり、Dさんが本を読んだり、Gさんが1日1食だったり、Hさんが床で寝たりするように。

絵画

Bさんは水彩画が趣味。作品はどれも見事な出来栄え

 3人のヘルパーは綿密なアセスメントに基づき、こうしたことを個別に把握している。そして本人ができることは自分でするよう促し、こだわりを妨げないよう、20分足らずの中で巧みに配慮していた。

 その行き届いた配慮の甲斐あって、利用者は要介護度が高くなっても、尊厳ある在宅生活を続けられる。介護はクリエイティブだとつくづく思った。(「下」に続く)

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