社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)障害者部会は6月3日、障害者総合支援法改正法施行後3年の見直しに関する報告書案を議論し、精神科医療機関の通報制度をめぐって委員の意見が分かれた。
報告書案では、「虐待の疑いを発見した精神科医療機関の職員等が、行政機関への通報を躊躇し、悪質な虐待行為が潜在化することのないよう、通報義務及び通報者保護の仕組みを設けることについて、制度上の対応を検討するべきである」となっている。
この文言をめぐり、竹下義樹・日本視覚障害者団体連合会長が「精神科病院以外の病院における人権擁護あるいは虐待防止のための通報制度については、議論が見えてこない。医療機関全体に対する虐待防止あるいは通報制度づくりを踏まえた議論を」と述べるなど、通報制度の議論を医療機関全体に広げることを求める意見が出された。
この点に関して、野澤和弘・植草学園大学副学長/スローコミュニケーション代表は「一般病院を含めて虐待防止の網をかけるのは正論だが、障害者虐待防止法が施行された時もすべてに網をかけようとしていたものの、政治的・行政的な手続きのハードルが高くてできなかった」として、今回は精神科医療機関に限定する方がいいとの見方を示した。
また、「通報」という言葉が刑事処罰やペナルティーを想起させるため、「連絡」「相談」のような言葉に置き換えて、精神保健福祉法の中で検討することを提案した。
これに対し、櫻木章司・日本精神科病院協会常務理事は上記報告書案に続く文言として「通報を契機に精神科医療機関が再発防止策を講じることが可能となり、より良質な精神科医療の提供に向けて、虐待を起こさない組織風土の構築・徹底に資する効果も期待される」とあることに対し、「全くそう考えていない。現行の枠組みの中で、きちんと間接的防止措置を取ることのほうが実効的」と述べ、通報義務に反対の考えを示した。
一方、丹羽彩文・全国地域生活支援ネットワーク事務局長は「虐待防止法が始まった時、福祉のわれわれも通報が防止につながるとは思えなかった。しかし、虐待防止委員会の中や市町村の担当者とやり取りする中で、虐待を起こさないという風土づくりが進んだ」との参考意見を紹介した。