〈編集部より〉連載「八ヶ岳のふもとでケア・イン・プレイス」は、今回が最終回です。「だんだん会」の事業として8年間実践してきた介護サービスについて、2024年度介護報酬改定への評価やケアのあり方などを語ってもらいました。上下2回でお届けします。
■報酬改定で定期巡回も引き下げ
介護保険制度は、住み慣れた地域とか自宅で暮らすことを支援する、と謳っています。でもそう言っておきながら、どんな状態であっても――要介護5や重度の認知症であっても――、自宅で過ごし、自宅で一生を終えることをサポートする、という気構えがないように見えます。
だから、訪問介護や定期巡回・随時対応型訪問介護看護(以下、定期巡回)の基礎報酬を一律下げるという安易なことができてしまうのでしょう。
こうした基礎報酬引き下げの根拠は、事業所の収支差率が割と高かったことです。2023(令和5)年度介護事業経営実態調査によれば、定期巡回の収支差率は…
第22回 2024年の社会保障を考える(下)
Ⅴ 岸田内閣の社会保障
ようやく我々は現政権の社会保障政策まで辿り着いた。岸田首相は、首相就任後の最初の国会における所信表明演説(第205回国会、2021年10月8日)において、成長も、分配も実現する「新しい資本主義」を具体化すると述べ、「新しい資本主義の下での分配」において「成長と分配の好循環」を実現するとした。
その次の所信表明(第207回国会、同年12月6日)では「若者世代・子育て家庭」を経済政策のターゲットとし、「その所得を大幅に引き上げることを目指し」、「人への分配」「男女が希望通り働ける社会づくり」「社会保障による負担増の抑制」が必要だとした。
さらに、「全世代型社会保障構築会議を中心に、女性の就労の制約となっている制度の見直し、勤労者皆保険の実現、子育て支援、家庭介護の負担軽減…
第44回 沖縄と函館の在宅医療推進フォーラム
2月3日に開催された「沖縄県在宅医療推進フォーラム2023」と10日の「第12回北海道在宅医療推進フォーラムIN函館」に参加した。両者を通じて、在宅医療はもうすっかり当たり前の存在になったとつくづく思う。
■波照間島の小多機に感動する
沖縄のテーマは「未来へ紡ぐ物語~全てのひとが共存できる社会へ~」。波照間島の小多機の発表に感銘を受けた。波照間島はいわゆる沖縄の離島である。日本最南端の有人島で、天体観測や白い砂浜が有名だ。
この波照間島に小多機「すむづれの家」がある。石垣島を中心とする八重山諸島は石垣市・竹富町・与那国町で構成され、竹富町には西表島や武富島、波照間島など10の有人島が属する。「すむづれの家」は、竹富町唯一の小多機だそうだ。
石垣市や那覇市の病院を退院し、波照間に戻って「すむづれの家」を利用する場合は、病院と連携し…
第22回 2024年の社会保障を考える(中)
Ⅲ 安倍長期政権下の社会保障
第2次安倍内閣は2012年12月26日に成立し、第4次安倍内閣の第2次改造内閣まで長期政権を維持し、20年9月16日に終焉を迎えた。
安倍政権に先立つ民主党の野田政権の下、「社会保障と税の一体改革」について自公民の3党合意が成立していた(2012年6月)ので、安倍内閣もその継承が義務付けられていた。
3党合意に基づき、2014年4月に消費税率の5%から8%への引き上げが、さらに15年10月には8%から10%へ引き上げることが、2012年8月に成立した消費税法改正法で決められていた。
したがって、消費税率引き上げを約束通りこのスケジュールで実施することが、安倍政権成立当初の課題であった。安倍首相は躊躇しつつも…
第20回 2024年度診療報酬改定、調剤のポイントは3つ
2024年度診療報酬改定は、“短冊”(個別改定項目)が発表され、方向性が見えてきました。今回の改定は単に点数が変わっただけでなく、これからの日本の医療の行く末を示す重要な改定であると認識しています。
それは「2040年を展望し、誰もがより長く元気に活躍できる社会の実現」に示されたものが、本気で始まってきたことです。
高齢者人口はやがて伸びなくなり、単身世帯・夫婦のみ世帯が急増することを見据えています。現役世代が急減することも明らかです。その対策は「より少ない人手でも回る医療・福祉の現場を実現」することで、その方向性が今回の改定のキーワードではないでしょうか。
DX化はその切り札であると位置づけられ、そこを見据えて診療・介護報酬の改定も行われているように感じます。診療報酬は、今回6月1日実施と、2カ月後ろ倒しになります。
■在宅医療の需要増に対応
調剤では、在宅医療・服薬フォローアップ・医療DXの3点が大きなテーマです。
トリプル改定においては「在宅医療」が重視されています。2040年に向けて在宅医療の需要が増大していくとみられており…
第21回 医療も介護もプラス改定だけど、ホントは
医療も介護も新年度からの報酬改定がまとまった。どちらも、かなりぎりぎりの内容である。表向きは「プラス改定」だが、人件費のベースアップを除けば、医療も介護もほぼゼロ改定だ。深刻さが世の中に共有されていないと思う。いくらか話題になったのは介護報酬の訪問介護だろうか。
■訪問介護引き下げの背景
介護報酬は、介護職の処遇改善に0.98%、介護職以外の処遇改善に0.61%を充てて1.59%のプラス改定である。プラス改定の全てを賃上げに充てた格好だ。事業所の収入に当たる報酬はゼロ改定だ。
そうはいっても、報酬改定は政策誘導のために行うものだから、上げる部分もあれば下げる部分もある。引き上げたのは、特別養護老人ホームなどの介護保険施設の基本報酬だ。事前の経営実態調査で赤字であることが分かっていた。
ゼロ改定なのに、どこかを引き上げるには、どこかを下げて原資を調達するしかない。ターゲットになったのは…
第19回 大災害と大事故を自分に引き寄せてBCPを考える
能登半島地震により被災された皆様、ならびにそのご家族の皆様に心よりお見舞い申し上げます。2024年がスタートしてあっという間に3カ月になります。1月1日に発災した能登半島地震と、その翌日に起こった日本航空と海上保安庁機の衝突炎上事故は、辰年の大きな記録として残っていくことでしょう。
■薬剤師会はモバイル薬局を派遣
能登の様子をテレビで拝見し、東日本大震災の際にお手伝いに行って目にした光景が目に浮かびました。今回も多くの薬剤師仲間が支援に行っています。介護関係者もボランティアで参加しています。
大きな災害が起きるたびに、支援の様子も進化しているようです。発災直後から7日目まで・2~3週目・それ以降と、その時々に必要とされるものは何か、支援者はどう動くべきか、積み重なった経験が…
第43回 多職種の災害支援チーム、LSATをつくりたい
■地域を守りながら復興を
能登半島地震からもう1カ月半、高齢化が進む地域の人びとを思う。在宅ケアアライアンスの参加団体も、それぞれが動いている。アライアンスとしても災害対策委員会が発災翌日から動き、連絡網をつくり、活動している。
能登半島という地形の特性が被害を大きくし、東日本大震災や熊本地震とは異なる被害の様相である。まだ水道が復旧しない地域もある。ようやく仮設住宅ができ始めたが、もとの暮らしを取り戻すには時間がかかるだろう。ご苦労はいかばかりか。
2011年の東日本大震災では、仮設住宅に入居する際、もともと暮らしていた地域が考慮されなかったので、隣人もお向かいも知らない人ばかり、という状況になった。地域はバラバラになってしまった。2016年の熊本地震では…
第22回 2024年の社会保障を考える(上)
2024年は元日から能登半島地震に見舞われ、2日には海上保安庁の救援航空機と日本航空機が羽田空港滑走路上で衝突する事件が起こるなど、波乱の幕開けとなった。
昨年末には自民党の派閥をめぐる政治資金問題が岸田政権を直撃し、2024年の政界の見通しは極めて不透明になっている。そのような中で、年初に当たり、今年の社会保障について展望したい。まずは、その前提として現在の我々の位置について確認することから始めよう。
Ⅰ「福祉元年」から半世紀
2023年は「福祉元年」といわれた1973年から半世紀の記念すべき年であった。わが国の社会保障の歴史を語る上で、1961年の国民皆保険・皆年金の達成とともに…
第16回 認知症だけじゃない、初期集中支援の重要性
今回は、「初期集中支援」について考えてみたいと思います。初期集中支援といえば、「認知症初期集中支援チーム」がよく知られています。今回は、「初期集中支援」という考え方が、地域包括ケアシステムの中では、とても大切な考え方であることを、他の事業にも触れながらお話ししたいと思います。
■認知症初期集中支援チームの「初期」は「症状の初期」ではない
そもそも、「初期集中支援」における「初期」とは何でしょう? 認知症ケアでは早期発見・早期受診が推奨されることもあり、軽度のうちに認知症を認識し、早めに受診して集中的な支援をイメージすると思います。
もちろん認知症のケアでは、できるだけ軽度の段階での関わりが大切なのはいうまでもありません。とはいえ症状が進行した状況では…
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