フォーラムや実態調査をもとに
フォーラムから2年後の2003年12月、武蔵野市は「介護保険施行5年後の見直しに向けて~武蔵野市からの提言~」を公表する。
介護保険法の附則第5条には、政府は見直しの検討にあたって、「地方公共団体その他の関係者から当該検討に関わる事項に関する意見の提出があったときは、当該意見を十分に考慮しなければならない」と明記されています。
武蔵野市は介護保険法が成立する前、法案に対して批判的なブックレットを発行したような(第3回参照)“もの言う自治体”です。5年後の見直しについて意見や要望をしっかり表明するのも、自然な成り行きと言えます。
そこで、庁内に「介護保険施行5年後の制度見直しワーキングチーム」を設置しました。05年度(平成17年度)に予定されている見直しが検討されるのは04年度まででしょうから、01年のフォーラムで出された意見などに基づいてワーキングチームで検討し、提言をまとめました。
検討に際しては単に我々が保険者として、制度運営についてのみ意見を述べるのではなく、現場の方の意見も反映させようと、03年6月に「武蔵野市介護保険制度見直しのためのケアマネジャー実態調査」を実施しました。
翌月には、サービス提供事業者、利用者、障害者団体に対して「制度見直しのための事業者等ヒアリング」を実施しています。
こうして、短期的課題に対する提言と中長期的課題に対する提言の2種類をまとめました。その当時の介護保険制度に様々な問題点が生じているとすれば、早急な見直しが必要で、それを短期的課題としました。見直しに際して時間をかけて検討するか、抜本的な改革が必要と思われる事項が中長期的課題です。
短期的課題への提言は12項目
短期的課題に対する提言は、現行制度を前提とし、法律や政省令の改正を必要とするような制度の見直しに関する課題を中心に、「介護保険制度施行5年後の見直しに向けた緊急提言」として整理しました。
これは「提言1」から「提言12」まであります。そのなかには、今読み直してみると、その後の制度改正に影響を与えたと思える鋭い指摘だったなあ、と感じる事項もあります。
例えば、当時の第1号被保険者の介護保険料は、国が定める標準では所得に応じ5段階しかありませんでした。所得の多い人ほど負担割合が低くなっていたので、累進性を強化して所得に応じたきめ細かい所得段階設定にすべき(提言1)、とか。
さらに、保険料設定方法に世帯概念が導入されているので、制度本来の個人賦課・個人給付の原則に立ち戻り、個人単位の保険料賦課方式とすべき(同)、とか。
実際、武蔵野市はこの提言の後、多段階制の介護保険料を独自に導入し、12段階としました。多段階制で累進性を高めると、高所得者の負担は増えますが、高所得者から得た保険料財源を低所得者に回すことができるので、低所得者の保険料を低く設定することができます。再分配機能を強化できるわけです。
第1号保険料の標準段階は、第3期介護保険事業計画で6段階となるなどその後少しずつ増え、2024年度(令和6年度)の第9期計画ではそれまでの9段階から13段階となりました。もちろんこれは国が示す標準段階で、もっと多い段階を設定している保険者もあります。武蔵野市は20段階です。
保険者は、原則として市町村とすべきだろうと(提言3)。であれば、保険者にもう少し指導監督権限を付与すべきではないか(提言4)。その後創設された地域密着型サービスでは、市町村が指定権限や指導監督権限をもっていますから、提言4はその道筋を開きました。
提言に先立って実施したケアマネジャー実態調査では、「要介護認定の有効期間をどう考えるか」の設問に対し、「12カ月が適当」が77.4%と最多で、「6カ月が適当」はわずか3. 9%にとどまりました。
ケアマネジャーには、半年ではケアプランの目標がなかなか達成できないという実感があったのでしょう。このことから、有効期間は原則12カ月に、としています(提言5)。
提言6では居宅サービスと施設サービスの費用負担の格差を是正すべき、と指摘しました。当時はまだホテルコストが施設サービスの給付に含まれていたため、費用負担は在宅よりかなり安く済んでいました。要介護度が同じなのに施設のほうが負担が軽いと、施設入所に拍車がかかります。
なので、その格差を是正するため、施設サービス費から光熱水費等を除いて介護報酬単価を再評価すべきとしています。その際、低所得者に対して配慮すべきとし、これは現在の補足給付に通じる施策といえます。
提言7では居宅サービスの充実、提言8ではケアマネジャーの質向上、提言9では「要介護状態になることを予防するための施策を充実させるべき」など、現在なお重要視されていることにいち早く目をつけていました。なんか、すごい内容の提言と思います、手前みそですけど。
早くも財源への危機感
中長期的課題については、「介護保険制度の抜本的改革に向けた提言」としました。抜本的改革とは、「介護目的税を創設し公的介護を社会保険方式から税方式に」と訴えています。
その理由は、要介護認定者の増加ペースに伴い介護保険料の高騰は不可避で、自己負担額は(財政審の建議を引き合いに)1割から2~3割に引き上げられると予測し、社会保険方式は限界というものです。
介護保険制度が始まって25年目の現在、税方式への変更論が取りざたされることはありませんが、2019年には社会保障の財源確保を目的として消費税引き上げが実施されました。給付と負担の問題は、今なお社保審介護保険部会などの重要テーマです。
笹井肇(ささい・はじめ) 公益財団法人武蔵野市福祉公社顧問、社会福祉法人とらいふ顧問
武蔵野市介護保険準備室主査、市民協働推進課長、介護保険課長、高齢者支援課長、防災安全部長などを経て2013年4月~2018年3月まで健康福祉部長。同年4月~2022年3月まで副市長。