第25回 医療費削減の切り札? 医療用医薬品のOTC移行🆕

2025年 10月 1日

 国民医療費の削減によって社会保険料を下げるという提言が出てきています。その中にOTC類似薬の保険適用除外を進める案があります。自民党、公明党、日本維新の会の3党は2025年6月11日、OTC類似薬の保険給付のあり方の見直しなど社会保障改革に関する政策について合意しました。

 OTC類似薬とは、OTC医薬品とほぼ同じ成分や効果を持つ医療用医薬品で、医師の処方箋がなければ入手できません。現在、こうしたOTC類似薬は医療保険の対象ですが、対象から外していこうという方向性が打ち出されたことになります。

OTC薬とOTC類似薬
 OTC薬とOTC類似薬との違いは以下の通りです。

 OTC薬…薬局で購入できる要指導医薬品・一般用医薬品。処方箋なしで購入できる
 OTC類似薬…OTC薬と同等の成分で構成されている医療用医薬品。処方箋がなければ購入できない

 OTC薬には、スイッチOTCと称されるカテゴリーもあります。これはかつて医療用医薬品だったものが、規制緩和されてOTC医薬品に変わった(スイッチした)ものです。

 ロキソニンやガスターなどの内服薬や、ロキソニンテープやフルコート軟膏などの外用薬も含まれます。OTCの一種ですから、もちろん処方箋は必要ありません。

 スイッチOTCは年々増えていて、現在スイッチOTC化が検討されている医療用医薬品も少なくありません。このことは何を意味するのでしょうか。

 スイッチOTCと医療用医薬品の両方が出回っているロキソニンテープを例に、価格を比較してみましょう。医療用の薬価は1枚17.6円、7枚では123.2円です。スイッチOTCは7枚入り1080円(希望小売価格)と、およそ8.8倍も高価です。

 医療用医薬品の使用には保険診療(医療機関の受診)が必須で、その費用も考慮する必要はありますが、それでも大きな開きがあるといえるでしょう。こうした医薬品が保険適用から外れると、スイッチOTCしか購入できないことになり、これらを必要とする患者には大きな負担増となります。

 例えば、多くの枚数を貼る必要がある場合は大量に必要で、その分費用もかさみます。年金生活の高齢者で膝や腰の痛みを訴えている方は大勢います。保険適用から外すということは、その方たちに大きな負担や、医薬品の使用控えを強いることになりかねません。

医療用とOTCは副作用対策に大きな差
 OTC医薬品の一部(多くはスイッチOTC)はセルフメディケーション税制の対象となり、要件を満たせば所得控除が受けられるので、負担増はいくらか抑えられるとはいえます。

 しかし、医療用医薬品であれば保険薬局でしか購入できず、薬局薬剤師は問診などして安全性を確認してから販売します。同じような成分の医薬品が重複していないかも確認します。

 さらに薬局では、長期服用が好ましくない医薬品であれば医師に疑義照会します。保険診療では、長期投薬してはならない薬品などは支払基金などで査定する仕組みがあり、医療機関に支払いをしないというルールもあります。薬局・医療機関・支払基金という3つの防波堤が副作用を防いでいるということです。

 医師も基本的に2週間に1回診察して、その薬品を継続してよいか、副作用が出ていないか確認します。こうして治療の安全性を確保しているのです。

 OTC医薬品では他の薬局などで購入したかどうかなど、使用歴の確認も十分にできないため、安全性の担保が少なくなってしまいます。いまマスコミでは、医療用医薬品の過剰な投与が医療費増大につながっていると問題視されています。だから保険診療から外してしまえ、というのはあまりにも短絡的な考えではないでしょうか。

 残薬も問題視され、患者宅に残薬が大量にある様子もしばしば紹介されます。私も学会等でそのテーマで発表したことがありますが、訪問薬剤師の活躍などで残薬はだいぶ減ってきたと思います。ロキソニンテープなどの湿布薬は一処方で出される数量が制限され、適正な数量が患者に供給されるようになりました。

医療費削減によって健康を失うのは本末転倒
 OTC類似薬を保険診療から外すのではなく、保険診療として適正かどうかの判断は必須です。副作用を抑えるためには医師・薬剤師の連携が必要で、そこに処方箋が大きな役目を果たしています。医師の診断や治療の経過は患者の個人情報で、医療保険の内容はマイナンバーよって本人が確認できるのものになりつつあります。

 一律にOTC化するのではなく、患者個人個人の特性によって判断されるものであるべきです。その監査を支払基金等が高度なAI化により、複雑になった詳細な診断名とそれに伴う最適な処置を監査すべきです。

 新しく製造販売された医薬品がここ数年は年間400以上で、高薬価商品が多くなっているようです。このように費用はかかるが適切な治療で治癒できる疾患も多くなっているのです。

 そのためにも医薬品は必要で、医療費削減を進めて健康を失うようなことは本末転倒です。医療費削減のためには、病気を未然に防ぐことも非常に大切です。病気にかからなければ医療費は自ずと減るのですから。そこに目を向けましょう。

厚生労働省医薬局医薬品審査管理課資料より

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高橋薬剤師02
高橋眞生氏

高橋眞生(たかはし・まなぶ) ㈱カネマタ代表取締役
在宅医療薬剤師。千葉・船橋で保険調剤薬局を展開。訪問薬剤管理を長年実践し、在宅患者からの信頼も篤く地域医療に貢献している。

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第24回 足りないのはコメだけじゃない、医薬品も深刻

 医療用医薬品の供給不足の発端となったのは、2020年12月に発覚した、ジェネリック医薬品のメーカーの品質不正問題です。
 
 製造工程を守っていないなどの製造上の不正が次々と明るみになり、業務停止などの行政処分は20件以上に上りました。薬の製造が止まって供給が不安定になったことに加えて、新型コロナの流行で、医薬品が手に入りにくい状態が続いています。
 
 日本製薬団体連合会によると、すべての注文に対応できていない「限定出荷」や「供給停止」となっているのは、2025年7月6日時点で2917品目もあります。特に困っているのが、感冒に使用する解熱鎮痛薬や咳止め、血管拡張剤、糖尿病薬など。処方薬の品目の2割以上です。
 
 少しずつ入ってきているものもありますが、抗生剤などはなかなか流通していません。以前ほど使用量は多くありませんが、やはり無いと困る商品です。どうにかしてください。
 
■供給不足への対策が実施されているが
 深刻な供給不足に対し、さまざまな策が実施されています。2025年3月7日、厚生労働省保険局医療課から事務連絡「後発医薬品の出荷停止等を踏まえた診療報酬上の臨時的な取扱いについて」が出されました。
 
 同名の事務連絡は2024年9月24日にも出されていて、その期限が25年3月末だったため、「臨時的な取扱い」は4月1日以降も引き続き継続することになります(9月30日まで)。
 
 その内容は、供給停止品目(494品目)と成分や投与形態が同一の医薬品については、「後発医薬品使用体制加算」「外来後発医薬品使用体制加算」「後発医薬品調剤体制加算」などにおける実績要件である後発医薬品の使用(調剤)割合を算出する際に…

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第23回 マイナ保険証と電子処方箋

 国が進めている医療分野のDX化によって、私たちを取り巻く環境はどう変化するのでしょうか。システムの合理化は必須となり、マイナ保険証も徐々に普及しています。医療制度の中で生き残っていくには、受け入れて使いこなさなければなりません。
 
 医療のDX化は悪いことばかりではなく、良い点もたくさんあります。医療・介護従事者が患者様や利用者様に直接対応できる時間が増えること、最新情報が手元にすぐ届くこと、それに対応して適切な指導ができること、などが挙げられます。
 
 デジタル化を自分のものとし、道具として使いこなす一方で、国は対人関係にも評価を付けています。機械をつかいこなし、これまで以上に直接業務の質を上げ、対人援助に成果を上げていくことが求められます。
 
■マイナ保険証のメリットがわかりにくい
 国はマイナ保険証の普及に力を入れ、2024年12月からは紙の保険証の新規発行が中止されています。マイナ保険証を補完する資格確認書(有効期間1年)が交付されています。
 
 マイナ保険証について、デジタル庁が掲げるメリットは以下の通りです。
 
1. より良い医療を受けることができます。
2. 窓口で限度額以上の支払いが不要になります(高額療養費制度)
3. 引越しや、就職・転職の後もそのまま健康保険証として使えます
 
 厚生労働省が挙げるメリットも似ています。
 
1.データに基づくより良い医療が受けられる
2.手続きなしで高額療養費の限度額を超える支払いが免除される
3.マイナポータルで確定申告時に医療費控除が簡単にできる
4.医療現場で働く人の負担を軽減できる
 
 どちらも1番目は「より良い医療を受けられる」ですが、より良い医療とは具体的にどんなものか、わかりにくく、理解が進んでいないようです。メリットの理解が進まないまま、個人情報の塊であるマイナカードのセキュリティを不安に思う方が多いのではないでしょうか。
 
 そのため、マイナ保険証の普及は国の思惑どおりには進んでいないのが現状です。高齢者のデジタルへの理解度や親和度には個人差が大きく、スマホを使いこなしマイナカードを活用している方もいれば…

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第22回 10月から先発薬に「特別の料金」が導入された

 診療報酬が改定されて数カ月過ぎ、算定できなくなったもの、新しく算定できたものなどのデータが見えてきました。それは、大筋で「無駄を省き経費を削減する、社用車・設備の清掃点検をこまめにして大切に扱う、整理整頓して誰にでも使えやすい、快適な職場」を目指すものと読んでいます。これはミスや事故を無くすことにもつながります。
 
■ついに薬でも「選定療養」が実施
 新たな取り組みとして2024年10月から薬局における選定療養がはじまりました。選定療養とは、後発医薬品がある薬剤で先発医薬品を希望する場合、料金が上乗せされるという仕組みです。
 
 選定療養は医科や歯科では従前からありました。大病院の紹介状のない初診、入院時の差額ベッド代、白内障の多焦点レンズ、歯科の金合金、入れ歯のセラミックなど多くのものが対象です。「保険外併用療養費」とも言われます。
 
 今回、ここに医薬品が初めて加わりました。対象となる医薬品や患者様は一部に限られますが、先発品にこだわりのある、いままで後発品を拒否していた方々の薬剤が主な対象となります。後発医薬品(ジェネリック)の使用促進が頭打ちになり、医療費の削減の一環として…

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第21回 医薬品と健康食品の違いを正しく知ろう

 これからの薬局のあり方を示す調剤報酬(24年度改定)が6月からスタートしました。その方向として、①OTCの充実、②選定医療の患者負担の増額、③医療用医薬品のスイッチOTC化が挙げられます。さらに、報酬の算定用件に48 薬効群の品目を取り扱うことという規定が入りました。実際にその分類の薬を店舗に置かなければなりません。
 
■医薬品は安全基準が担保されている
 薬局の大きな役割は、地域住民の健康と安全を守ることです。医療費高騰の中、軽医療であるOTC推進も大きな課題です。セルフメディケーションの根幹であるOTCは、薬剤師にとっては薬を通して保険外で患者様の健康に貢献できるツールです。
 
 薬局薬剤師が処方箋で薬剤を交付する際は、他に飲んでいる薬剤・健康食品をお聞きし、相互作用・副作用があるかないか、確認しています。相互作用のあるものは中止していただくよう指導しています。
 
 医薬品の販売に必要な資格は、医薬品の分類に応じて…

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第20回 2024年度診療報酬改定、調剤のポイントは3つ

 2024年度診療報酬改定は、“短冊”(個別改定項目)が発表され、方向性が見えてきました。今回の改定は単に点数が変わっただけでなく、これからの日本の医療の行く末を示す重要な改定であると認識しています。
 
 それは「2040年を展望し、誰もがより長く元気に活躍できる社会の実現」に示されたものが、本気で始まってきたことです。
 
 高齢者人口はやがて伸びなくなり、単身世帯・夫婦のみ世帯が急増することを見据えています。現役世代が急減することも明らかです。その対策は「より少ない人手でも回る医療・福祉の現場を実現」することで、その方向性が今回の改定のキーワードではないでしょうか。
 
 DX化はその切り札であると位置づけられ、そこを見据えて診療・介護報酬の改定も行われているように感じます。診療報酬は、今回6月1日実施と、2カ月後ろ倒しになります。
 
■在宅医療の需要増に対応
 調剤では、在宅医療・服薬フォローアップ・医療DXの3点が大きなテーマです。
 
 トリプル改定においては「在宅医療」が重視されています。2040年に向けて在宅医療の需要が増大していくとみられており…

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