■「予防」より「備え」の認知症希望条例
【髙橋】 認知症に関わる日本の動向では、現在、どんなことに注目していますか。
【大熊】 認知症に関する条例制定が自治体のちょっとしたブームみたいになっていて、2020年6月時点で8つの自治体が定めています。これは、鉄道事故で亡くなった認知症の人の遺族が監督不行き届きだとJR東海に訴えられた裁判がきっかけです。
【髙橋】 1審・2審と原告のJR東海が勝訴しましたが、最高裁で遺族が逆転勝訴し、話題になりました。
【大熊】 「そういう事故はこれからも起こるだろう。それは気の毒だ。鉄道会社に遺族が請求されたら自治体が肩代わりしよう」と定めた条例が各地で制定されました。自治体が保険会社と契約して保険料を払うやり方も広まりました。
8つの自治体が認知症に関する条例を定めていると言いましたけど、その1つである和歌山県御坊市の条例は異彩を放っています。御坊市では、条例を作るときに認知症のご本人が大勢関わりました。不思議なことに……
第2回 2002年、訪問看護をやめて病院に戻ることを決めた理由(下)
■骨折した認知症の母を「入院させなアカン?」
暮らしの場だからこそ、力を発揮できる。1990年代、在宅ケアの経験の中で、私にそのことを教えてくれたのは、はなさん(仮名、80歳代女性)だった。介護保険制度が導入される前は、通所介護の相談員がケースマネジメントをしていた。つながりのあった通所介護(特養併設)の相談員から、「便が出なくて、イレウスの心配があるため病院へ連れて行っている方がいる。飲み込みの問題も出てきた。長く家にいられるように訪問看護で支えてほしい」と相談され、はなさんの家を訪問した。
はなさんは重度のアルツハイマー型認知症だった。「はなさ~ん、宇都宮です。おはよう!」と挨拶すると、はなさんはクシャクシャな笑顔になって、そこから訪問看護の時間が始まった。はなさんはパンツ式おむつを着けていたけれども、いつもオシャレな服で過ごしていた。訪問看護では健康チェックをし、1週間の様子をうかがいながら、娘さんからの療養相談にのって、そのあと一緒に散歩をした。近所の子どもたちが「はなばあちゃ~ん」と集まってくる。老いて、少し物忘れが出てきても、子どもたちにとってはなさんは、これまでと変わらない存在なんだなと感じた。
ある日、娘さんから少し泣きそうな声で携帯に電話が入った。はなさんが自宅で尻もちをついて整形外科を受診したところ……
第2回 2002年、訪問看護をやめて病院に戻ることを決めた理由(上)
■病院医療では叶えられない願い
2000年、在宅医療の現場で介護保険制度の幕開けを迎えた私は、これからは療養者1人ひとりに専門の相談員(介護支援専門員:以下、ケアマネジャー)が伴走して、望む暮らしを支え、生活の場で人生の幕引きを迎えられることが当たり前になると、大きな期待を寄せていた。
2002年、私は、病院併設の訪問看護ステーション管理業務と兼務で「ケアプラン事業室」を立ち上げ、介護保険制度創設に向けた準備を担うことになっていた。600床以上ある病院で、医療ソーシャルワーカー(以下、MSW)と同じ部屋に机を並べることになった。そのころ、多くの医療機関では、MSWが相談援助の一環として退院困難になった患者への転院調整や退院調整を行っていた。
ある日、若いMSWが、「転院先を探している患者さんですが、私、悩んでいるんです」と、声をかけてきた。訪問看護部統括の私のそばには、MSWの統括責任者のデスクがあるから、すこし遠慮がちに(笑)。そして、「謙さん(仮名)は“もう、治らない事はわかっている。そしたら病院にいる意味はない”と自宅に帰ることを望んでいます。だから転院先を探すこともままならず、困っています」と打ち明けた。
謙さんは膵がん末期の50歳代の男性。高校生の息子と中学生の娘、妻との4人暮らし。中心静脈栄養管理や痛みを緩和するための注射が今後も必要で、主治医は「当院は急性期病棟だから、ゆっくり入院できる病院へ移って頂きます」と本人と家族に話していた。
治せない現実を受けとめ、主治医の意見に逆らってでも「うちに帰りたい」という謙さんの気持ちにきちんと応えようと……
仙台市のヘルステック推進事業に参加 日本調剤
日本調剤は仙台市が進める「ヘルステック推進事業」に参加する。同事業は仙台市が進めるヘルスケア領域の課題をITで解決することをテーマにした新しい取り組み。産学官の人材交流を通じて、IT人材の育成と新規事業創出の両輪で、継続的なイノベーションを創出する基盤の構築を目指す。...
第2回 「帰りたい」を連発していたMさんが笑顔になるまで
■「徹底した自立支援」を理念に
還暦を迎え、それまでの仕事を全部辞めることにしました。ズルズルと延長戦の仕事をすることに抵抗があり、1回しかない人生、何か別なことをしてみたいと思っていたのです。まず、1〜2年はのんびり趣味や旅行を楽しみながら、これからを模索する時期にしようと思い描いていました。
ところが2016年秋、移住を準備していた山梨県北杜市が認知症グループホーム設置の公募をしたことを知り、これなら私にもできるかもしれないと応募することにしたのです。東京で6カ所のグループホーム立ち上げ・運営の責任者をしてきた経験をもとに、ゼロからの出発です。模索の時期がなくなりました。
グループホームを作るにあたって必要なことは4つ。理念と職員確保と……
第3回 コロナ禍で保健所と市町村の連携が問われている
■保健所はどんな機関か
新型コロナウイルス感染症の流行で、保健所がにわかに注目を集めている。2月、保健所に帰国者・接触者相談センターが設置され、「37.5度以上の発熱が4日以上続く」などの場合はまずここに相談することとされた。後に、その電話がつながらないことが問題となる。そのほかPCR検査の検体採取、検体の検査機関への輸送、陽性者への疫学調査など、保健所には膨大な業務が突然降りかかった。
保健所がどんな機関で何をするところか、あまりピンとこない人が少なくないと思う。臨床医の中にも、コロナ禍以前は保健所とあまり接点がなかったケースがあるのではないだろうか。
現在の保健行政は、1994年の地域保健法に依拠している。このとき、都道府県と市町村の保健行政が線引きされ……
新型コロナワクチンの臨床試験を日本で開始
英製薬大手アストラゼネカの日本法人(大阪市北区)は9月4日、新型コロナウイルスワクチンAZD1222の日本国内での第I/II相臨床試験を開始したと発表した。 国内の複数の施設で、18歳以上の被験者約250人を対象に実施する。治験を通じて、同ワクチンを日本人に接種した際の安全性と有効性を評価する。...
先駆者デンマーク――内外から医療と福祉を見つめて②
■「寝たきり老人」という言葉がない国を取材
【髙橋】 ゆきさんの重要なお仕事の1つは、外国での取材を通じて、日本であたりまえと思われていたケアのあり方に疑問をなげかける記事を精力的にお書きになり、ケアのあり方の転換と関係者の意識改革に大きな貢献をされたことです。
【大熊】 高福祉国といわれる北欧やオランダなどヨーロッパを取材して記事を書きました。論説委員だった1985年、「寝たきり老人」という概念のない国としてデンマークなどを紹介したら、反論の嵐。「遠くの国からわざわざ取材に来た客には隠しているのだろう」「医療の手を抜いて寝たきりになる前に死なせているに違いない」などと非難されたものです。
【髙橋】 当時は、影響力のある半可通の評論家たちによって「北欧は高福祉だが税金が高すぎて国民はかえって不幸」とか、「高負担の北欧には自殺が多い」「北欧では一人暮らしがあたりまえなので孤独に陥りがち」などの言説が流布していましたから。
【大熊】 すべて、事実に反していました。
「いいところだけ見せられたんだろう」と疑う医師に……
第2回 腹立たしいうがい薬騒動、在宅患者にしわ寄せ
在宅患者様の疾患はさまざまです。現在、私たち薬局で関わる患者様の疾患は、個人在宅を受け持っている場合、どこでも大差はないと思いますが、関わり方は病態により変わってくるのではないでしょうか。関わる期間も、短期間の方も長期間の方もさまざまです。
■自宅に閉じこもりテレビ報道に一喜一憂
短期間の方には、頻回に深く関わることが多い傾向があります。長期にわたる疾患ですと、おつきあいが十数年にわたる方もおられ、安定していれば、今までは月に2回の訪問診療のあと処方がでて、私たちが訪問していました。コロナの影響で医師の訪問も1回になり、お薬もまとめて1カ月分をお届けし、その後に電話での服薬指導となっています。
新型コロナ感染の拡大から半年がたちましたが、いまだ終息のめどさえたっていません。第2波と思われる時期と人が移動する時期が重なり、感染が拡大しないか心配しています。そのことは在宅患者様でも同様で、ほぼ半年近く、自宅から一歩も外に出ていないご家族もいらっしゃいます。とくに高齢の夫婦2人で暮らしている方の中には……
第2回 地域支援事業はコロナ禍の下で何ができるか
■予定通り動かない地域支援事業
「このコロナの状況じゃ、地域包括ケアとか言っていられないですね」
ここ数カ月、同じようなことを何度か質問されました。緊急事態宣言が出された4月から6月にかけて、ほとんどの地域で通いの場活動は休止したと思います。その後、徐々に再開されていますが、地域の空気が変わってしまったと感じている方も多いと思います。
地域支援事業の停滞感は、通いの場などの住民主体の活動だけではなく、在宅医療・介護連携推進事業についても、同様です。昨年度中に計画していた研修会やセミナーの類の多くが延期やキャンセルされていることでしょう。地域の緊迫した状況の中で、地域ケア会議の開催にも慎重になっています(私自身、いただいていた講演のほとんどが中止、または延期になりました)。そうした流れの中で、冒頭のように「地域包括ケアどころじゃない」という言葉が出てくるのは、自然なことかもしれません。
■通いの場が封じられたなら別の手段を
通いの場の展開が難しくなったこの状況下で……
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