第22回 10月から先発薬に「特別の料金」が導入された🆕

2024年 10月 9日

 診療報酬が改定されて数カ月過ぎ、算定できなくなったもの、新しく算定できたものなどのデータが見えてきました。それは、大筋で「無駄を省き経費を削減する、社用車・設備の清掃点検をこまめにして大切に扱う、整理整頓して誰にでも使えやすい、快適な職場」を目指すものと読んでいます。これはミスや事故を無くすことにもつながります。

ついに薬でも「選定療養」が実施
 新たな取り組みとして2024年10月から薬局における選定療養がはじまりました。選定療養とは、後発医薬品がある薬剤で先発医薬品を希望する場合、料金が上乗せされるという仕組みです。

 選定療養は医科や歯科では従前からありました。大病院の紹介状のない初診、入院時の差額ベッド代、白内障の多焦点レンズ、歯科の金合金、入れ歯のセラミックなど多くのものが対象です。「保険外併用療養費」とも言われます。

 今回、ここに医薬品が初めて加わりました。対象となる医薬品や患者様は一部に限られますが、先発品にこだわりのある、いままで後発品を拒否していた方々の薬剤が主な対象となります。

 後発医薬品(ジェネリック)の使用促進が頭打ちになり、医療費の削減の一環として後発品の保険給付の在り方の見直しが以前から検討されてきましたが、ついに実施となりました。

 選定療養の対象となるのは、ジェネリック上市後5年以上経過した(または後発医薬品の置換率が50%以上)長期収載品です。選定療養の場合、ジェネリックの最高価格帯との価格差の4分の1が患者の自己負担に上乗せされます。保険診療外ですから消費税もかかります。

 当薬局での事例を紹介します。
 ・先発薬…グリベック100mg(1日4回、30日分)
 ・後発薬…イマチニブ「KNP」100mg(同)
 1錠あたり薬価は先発が1644.5円、後発が537.4円、差額は1107.1円。その4分の1×4×30日で3万3213円+消費税が上乗せされることになります。患者様も驚き、後発品をお選びいただきました。

高橋薬剤師22回画像

 ジェネリックが上市後5年未満や置換率50%未満の場合、すなわちジェネリックがまだそれほど普及していない薬品であれば、選定療養の対象になりません。

 ジェネリックが普及しているのに患者が先発医薬品を希望すれば、選定療養となります。したがって対象はまだ多くはありませんが、これから範囲が広がる可能性もあります。

 先発医薬品が必要と医師が判断しそれを指定した場合や、先発医薬品にしか効能がない場合、薬局にジェネリックの在庫がない場合などは選定療養にはなりません。こうした仕組みを正しく理解していないと、患者様とトラブルになることも考えられます。

 後発品の供給体制は、まだまだ不十分です。実績のあるものは入荷しますが、ないものは入荷してこないなど問題はあります。

 国は「後発医薬品を提供することが困難な場合(例:薬局に後発医薬品の在庫が無い場合)については、選定療養とはせず、引き続き保険給付の対象とする」と言っています。

 ただ在庫しなくてよいわけではありません。在庫することも薬局の役目です。もう1つの問題はデッドストックが発生することです。上記の事例のように後発品を選んでいただくことで、先発薬は不良在庫となり薬局の負担となります。不良在庫が出ないよう、とくに高額な薬は中止してもらいたいものです。

訪問診療の薬剤に新設の管理料
 2024年度診療報酬改定(医科)では、訪問診療で強心剤の持続投与を支援する「在宅強心剤持続投与指導管理料」(1500点)が新設されました。

 循環血液量の補正のみでは心原性ショック(Killip 分類 class Ⅳ)からの離脱が困難な心不全の患者であって、安定した病状にある患者に対して、携帯型ディスポーザブル注入ポンプ又は輸液ポンプを用いて強心剤の持続投与を行い、当該治療に関する指導管理を行った場合に算定できます。

 重度の心不全の治療には強心薬(ドブタミン、ミルリノンなど)が使用されます。薬局で取り扱いできるよう、使用できる薬剤に追加改定されました。ただし、薬局の薬学管理料の加算対象ではないので、調剤報酬や介護報酬としては算定できません。以前のTPNや麻薬持続皮下注と同様です。

 相も変わらず、医科と調剤・介護が縦割り行政で、医科の改定に連携していないのです。特殊な調剤のできる事業所が損をしないよう働きかけていかないと、また厚生局とトラブルになりそうです。

医療DXで小規模事業所は淘汰されるのか
 2024年度診療報酬改定では、医療DXの推進も柱の1つです。マイナ保険証や電子処方箋などの「医療DX推進体制」を評価する「医療DX推進体制整備加算」が医科、歯科、調剤に新設されました。24年10月から3段階で算定可能です。

 その算定要件の1つに「マイナポータルの医療情報等に基づき、患者からの健康管理に係る相談に応じること」とあります。しかし在宅では、それを可能にするシステムが動いていないのです。

 マイナンバーカードを確認するシステムが厚生労働省のホームページにアップされていますが、実際には稼働していません。

 近年、国は在宅医療を推進し、訪問薬局や訪問診療所が増えています。にもかかわらず、在宅を頑張っている町の小規模薬局は算定率を上げることができない状況です。大手が優先されるのでしょうか。

 DX化の意義は理解していますが、その推進には多額の設備投資が必要です。結局、これが中小規模薬局を廃業に追い込んでいくのかもしれません。

 高齢の薬剤師が経営する薬局や高齢の医師が経営するクリニックでは、そのシステムへの理解が追い付かないまま、ベンダーやレセコン(レセプトコンピューター)メーカーから多額の費用が要求されています。

 当社でも、生活保護の方のマイナンバーカードを読み取るための追加費用として、10万弱の改修費が請求されました。とても採算は合いません。ひとたびシステムを導入すると、その会社の言いなりにならざるを得ないようですらあります。今後を考えると心配になります。

 これだけ大規模な報酬改定はいままで経験していませんが、まだスタートしたばかりです。見えてきた問題点を訴えて、次回改定に生かしてもらいたいと思います。今年度は日薬・緩和薬学・HIP研究会などに積極的に参加しましょう。

高橋眞生氏

高橋眞生(たかはし・まなぶ) ㈱カネマタ代表取締役
在宅医療薬剤師。千葉・船橋で保険調剤薬局を展開。訪問薬剤管理を長年実践し、在宅患者からの信頼も篤く地域医療に貢献している。

このカテゴリーの最新の記事

このカテゴリはメンバーだけが閲覧できます。このカテゴリを表示するには、年会費(年間購読料) もしくは 月会費(月間購読料)を購入してサインアップしてください。

第21回 医薬品と健康食品の違いを正しく知ろう

 これからの薬局のあり方を示す調剤報酬(24年度改定)が6月からスタートしました。その方向として、①OTCの充実、②選定医療の患者負担の増額、③医療用医薬品のスイッチOTC化が挙げられます。さらに、報酬の算定用件に48 薬効群の品目を取り扱うことという規定が入りました。実際にその分類の薬を店舗に置かなければなりません。
 
■医薬品は安全基準が担保されている
 薬局の大きな役割は、地域住民の健康と安全を守ることです。医療費高騰の中、軽医療であるOTC推進も大きな課題です。セルフメディケーションの根幹であるOTCは、薬剤師にとっては薬を通して保険外で患者様の健康に貢献できるツールです。
 
 薬局薬剤師が処方箋で薬剤を交付する際は、他に飲んでいる薬剤・健康食品をお聞きし、相互作用・副作用があるかないか、確認しています。相互作用のあるものは中止していただくよう指導しています。
 
 医薬品の販売に必要な資格は、医薬品の分類に応じて…

この記事は有料会員のみ閲覧できます。

第20回 2024年度診療報酬改定、調剤のポイントは3つ

 2024年度診療報酬改定は、“短冊”(個別改定項目)が発表され、方向性が見えてきました。今回の改定は単に点数が変わっただけでなく、これからの日本の医療の行く末を示す重要な改定であると認識しています。
 
 それは「2040年を展望し、誰もがより長く元気に活躍できる社会の実現」に示されたものが、本気で始まってきたことです。
 
 高齢者人口はやがて伸びなくなり、単身世帯・夫婦のみ世帯が急増することを見据えています。現役世代が急減することも明らかです。その対策は「より少ない人手でも回る医療・福祉の現場を実現」することで、その方向性が今回の改定のキーワードではないでしょうか。
 
 DX化はその切り札であると位置づけられ、そこを見据えて診療・介護報酬の改定も行われているように感じます。診療報酬は、今回6月1日実施と、2カ月後ろ倒しになります。
 
■在宅医療の需要増に対応
 調剤では、在宅医療・服薬フォローアップ・医療DXの3点が大きなテーマです。
 
 トリプル改定においては「在宅医療」が重視されています。2040年に向けて在宅医療の需要が増大していくとみられており…

第19回 大災害と大事故を自分に引き寄せてBCPを考える

 能登半島地震により被災された皆様、ならびにそのご家族の皆様に心よりお見舞い申し上げます。2024年がスタートしてあっという間に3カ月になります。1月1日に発災した能登半島地震と、その翌日に起こった日本航空と海上保安庁機の衝突炎上事故は、辰年の大きな記録として残っていくことでしょう。
 
■薬剤師会はモバイル薬局を派遣
 能登の様子をテレビで拝見し、東日本大震災の際にお手伝いに行って目にした光景が目に浮かびました。今回も多くの薬剤師仲間が支援に行っています。介護関係者もボランティアで参加しています。
 
 大きな災害が起きるたびに、支援の様子も進化しているようです。発災直後から7日目まで・2~3週目・それ以降と、その時々に必要とされるものは何か、支援者はどう動くべきか、積み重なった経験が…

この記事は有料会員のみ閲覧できます。

第18回 薬品の供給不足が常態化・深刻化している

 2024(令和6)年の診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス費のトリプル改定という大きな変化を前に、保険薬局においても薬剤師業務が患者様に向かうべく、AI導入や電子処方箋など、DX化をいろいろ進めています。その一方で、いま薬剤師の業務で大きな負担になっているのが、医薬品の調達です。
 
■咳止めの在庫不足が深刻
 通常よく使われる薬の出荷が止まったり制限されたりして、薬局や医療機関への入荷が滞っています。その数について、厚生労働省は少なくとも3000品目以上に上っているとみているようですが、これは医療用医薬品全体のおよそ2割にあたります。
 
 私たちの感覚では状況は日に日に悪くなっているようです。やっとコロナが一段落して、やはりというかインフルエンザが例年より早く流行しはじめています。また通常の風邪も流行りだしています。そのような中で現場の薬剤師は…

この記事は有料会員のみ閲覧できます。

第17回 東日本大震災を振り返る石巻の旅

■近年多発する水害
 最近は豪雨災害の報道をよく目にするようになりました。今年の水害は沖縄に始まり、日本をほとんど縦断するようでした。10年に1回レベルとか、気象庁の記録にもない規模の災害が次から次へと起きています。
 
 線状降水帯が九州各地から四国・中国・北陸と私の記憶では大雨災害の少ない東北の秋田にまで発生して、洪水やがけ崩れ・交通遮断・断水などインフラは壊滅状態です。医療機関も洪水被害に遭い、患者が転院せざるを得ない状況になっています。
 
 男鹿半島と秋田市を結ぶ幹線道路沿いにある友人の薬局が、床上浸水してしまって大変なことになっていると連絡がありました。友人や家族の無事は確認でき…

1週間無料でお試し購読ができます  詳しくはここをクリック

新着記事は1カ月無料で公開

有料記事は990円(税込)で1カ月読み放題

*1年間は1万1000円(同)

〈新着情報〉〈政策・審議会・統計〉〈業界の動き〉は無料

【アーカイブ】テーマ特集/対談・インタビュー

コラム一覧

【アーカイブ】現場ルポ/医療介護ビジネス新時代

アクセスランキング(10月7-13日)

  • 1位
  • 2位
  • 3位 90% 90%
メディカ出版 医療と介護Next バックナンバーのご案内

公式SNS