Ⅴ.今後の展望
〈2040年の社会保障〉
与えられた授業時間も終わりが迫ってまいりましたので、最後のテーマに移ります。
これからの社会保障はどうなるのでしょうか。政府は2040年の社会保障の姿を推計しています。2040年というのは日本において高齢者数がほぼピークに達する年(将来人口推計では2042年まで高齢者数は増加)であるからです。今後の社会保障について議論する際に……
【筆者紹介】中村秀一(なかむら・しゅういち)
医療介護福祉政策研究フォーラム理事長、国際医療福祉大学大学院教授。厚生労働省老健局長、社会・援護局長、内閣官房社会保障改革担当室長などを歴任。
第7回 高校2年生に社会保障を教える(2)
〈少子化〉
次に社会保障に大きな影響を与える人口の動向を見てみましょう。
まず、少子化の問題があります。平成に入って早々に「1.57ショック」ということが言われました。これは1989年の合計特殊出生率1.57が1966年の丙午の年の異例に低かった合計特殊出生率1.58を下回り、関係者に衝撃を与えたからです。「少子化」という言葉が用いられるようになったのもこのころからです。その後も少子化の傾向はさらに深刻になり……【筆者紹介】中村秀一(なかむら・しゅういち)
医療介護福祉政策研究フォーラム理事長、国際医療福祉大学大学院教授。厚生労働省老健局長、社会・援護局長、内閣官房社会保障改革担当室長などを歴任。
第6回 高校2年生に社会保障を教える(1)
都立日比谷高校では、毎年、卒業生を講師に招き「先輩による授業」(星陵セミナー)を行っている(今年で15回目)。昨年は新型コロナウイルスの蔓延で中止となったが、今年は遠隔方式で3月19日午後に行われ、卒業生20人が講師を務めた。授業を受けるのは同校の2年生であり、生徒は自分が選択する講師の授業を受けるという方式である。
筆者はこの高校の卒業生であり、3年前から……
【筆者紹介】中村秀一(なかむら・しゅういち)
医療介護福祉政策研究フォーラム理事長、国際医療福祉大学大学院教授。厚生労働省老健局長、社会・援護局長、内閣官房社会保障改革担当室長などを歴任。
第5回 新型コロナの蔓延と今後の医療提供体制(下)
■病院医療改革は当事者である医療機関に委ねられている
このように医療提供体制の改革、少なくとも病院医療改革の実現は当事者である医療関係者に委ねられたのである。日経のコラム子がいうように「医療提供体制の強化のための手が打たれてこなかった」というわけではないのだ。その「推進を阻んできた構造」があるとすれば、当事者である医療界自身なのである。
2017年6月に閣議決定された「骨太方針2017」では……
【筆者紹介】中村秀一(なかむら・しゅういち)
医療介護福祉政策研究フォーラム理事長、国際医療福祉大学大学院教授。厚生労働省老健局長、社会・援護局長、内閣官房社会保障改革担当室長などを歴任。
第5回 新型コロナの蔓延と今後の医療提供体制(上)
■緊急事態宣言で始まった2021年
新型コロナウイルスの蔓延状況は、昨年11月以降、感染者が激増し、恐れていた第3波の到来となった。年が明けて早々に2度目の緊急事態宣言が出されることになった。1月7日に1都3県対象の緊急事態宣言が決定され、13日には対象地域の拡大が決定した。
振り返ってみると最初の緊急事態宣言は昨年4月7日(対象:1都7県)であり、4月16日には全都道府県が対象とされた。解除は段階的に行われ……
【筆者紹介】中村秀一(なかむら・しゅういち)
医療介護福祉政策研究フォーラム理事長、国際医療福祉大学大学院教授。厚生労働省老健局長、社会・援護局長、内閣官房社会保障改革担当室長などを歴任。
第4回 続・後期高齢者の窓口負担2割への引上げ問題
■政治的決着を経て全世代型社会保障検討会議へ
前回の拙稿(令和の社会保障3「後期高齢者の窓口負担2割への引上げ問題」)は締め切りの関係で12月8日までの段階での記述となってしまった。年が明けて早くも2月に入ったが前回中途半端に終わってしまったので、その後の決着について記しておきたい。
前回の執筆段階では、厚生労働省が示した5つの「機械的選択肢」(下表)のうち、菅総理は④を選択した。自民党内から異論も出たようだが……
第3回 後期高齢者の窓口負担2割への引上げ問題(上)
■今年末が検討の期限
前回の拙稿(令和の社会保障2 「新政権の誕生と社会保障」)で、「一定所得以上の後期高齢者の医療費の窓口負担の2割化」が前政権から引き継いだ課題となっていると書いた。11月になってこの議論が佳境に入っている。なお、本稿の執筆は12月8日段階である。現段階で政府・与党間の調整が難航し、12月4日に要諦されていた全世代型社会保障検討会議の開催は見送られ、12月8日といわれていた閣議決定も行われていない。
まずは、経緯から復習しておこう。2018年に閣議決定された「骨太方針2018」で19年度から21年度までは「基盤強化期間」とされ、この間の社会保障予算は「高齢化による増加分に相当する伸びに抑える」とされている。
2019年6月に閣議決定された「骨太方針2019」では、医療等について……
第3回 後期高齢者の窓口負担2割への引上げ問題(下)
■厚生労働省が示す「機械的選択肢」
この議論の判断材料として、厚生労働省は11月19日の医療保険部会で「所得基準として考えられる機械的な選択肢」として5つの選択肢を示した。次の5つの選択肢である。
①介護保険の2割負担の対象者の割合(上位20%)と同等(本人収入240万円以上)、後期高齢者に占める割合では上位20%(現役並み区分を除くと13%)、対象者数:約200万人
②現行2割負担である70~74歳の平均年収額(約218万円)を上回る水準、上位25%(現役並み区分を除くと18%)、対象者数:約285万人
③平均的な収入で算定した年金額(単身:187万円)を上回る水準……
第2回 新政権の誕生と社会保障(下)
■コロナの影響をどう見込むのか
例えば、医療費への影響をどう見込むかの問題がある。
厚生労働省から公表されている医療費の統計は2020年3月分までであるが、この月の医療費は対前年同月比1.2%のマイナスとなっている。2019年度の医療費の伸びは2.4%であり、この3月の落ち込みは新型コロナウイルス感染症の影響である。支払基金と国保連の医療費とレセプト件数の動向をみると4月、5月とさらに悪化している。5月がボトムであり、件数で約2割減、点数で1割強の減となっている(対前年同月比)。6月は4月よりは持ち直しているが、7月以降の動向は現段階では不明である。
2020年度を通じての医療費がどうなるか、さらに……
第2回 新政権の誕生と社会保障(上)
■安倍長期政権の終焉と菅内閣の成立
8月28日に安倍首相は健康上の理由から辞任する意向を表明した。自民党総裁としての任期が来秋まであり、確かに病院に通院するなどその健康状態について懸念はされてはいたが、予想外の突然の辞任であった。在任期間が憲政史上最長を記録した安倍内閣のあっけない終焉であった。
7年8カ月余り継続した長期政権の後継者選びとなったが、これも安倍政権の継承を掲げる菅官房長官(当時)が出馬の意向を示し、自民党内の主要派閥が雪崩をうって支持を表明し、同党の総裁選挙で圧勝、国会での首班指名を受けて9月16日に菅内閣が成立した。
新内閣では、加藤勝信厚生労働大臣が官房長官に回り、後任の厚生労働大臣に田村憲久氏が就任した。田村大臣は……
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