ICDが30年ぶりに改訂
WHOの国際疾病分類の最新版であるICD-11(2022年発効)は、2027年1月、わが国の「疾病、傷害及び死因の統計分類」に適用される。前回改訂は1990年だったから、実に約30年ぶりの改訂だ。
収載されたコードがICD-10の約1万6000から約3万5000へと大幅に増加したり、完全電子化や多言語設計が導入されたり、大がかりな改訂となった。なかでも注目しているのは、「成人低栄養」が疾病として初めて記載されたことだ。診断コードは5B72である。
成人低栄養の診断基準は世界的な「GLIM基準」に基づき、「表現型基準」と「病因基準」の両方を満たすこととされる。表現型基準は「意図的でない体重減少/低BMI/筋肉量減少」、病因基準は「食事摂取不足や消化吸収不良/疾患・外傷・感染に伴う炎症」で、それぞれから1項目該当すれば低栄養である。
これまで低栄養は単なる「状態」に過ぎず、生活習慣の一種のように扱われていたが、疾患として治療の対象とされることになった。このことは何を意味するのか。
前回、医師は栄養への関心が低いという意味のことを述べた。しかしICD-11で成人低栄養が疾患にいわば“昇格”したことで、医師は栄養に関心をもつようになっていくだろう。その点は、期待している。
だからといって、めでたしめでたしとは到底思えない。成人患者を診察して、低栄養と診断したとする。じゃあ経口栄養剤を処方しますから、のんでくださいね。それで終わってしまわないだろうか。
経口栄養剤がベスト(またはベター)な選択であるケースも、もちろんあるだろう。それは、患者を全人的に診て、患者の生活実態も把握したうえでの選択であればベスト(ベター)といえる。しかし、体重減少の背後にある別の疾患や生活状況にこそ着目すれば、経口栄養剤よりふさわしいソリューションがあるはずだ。
独居高齢者には低栄養が多い
85歳以上の独居高齢者には低栄養の人が多い。身の回りのことは自分でしているが、食事には無頓着で低栄養。そういう人には、経口栄養剤より生活支援が必要だ。
しかし要介護や要支援の状態ではないので、介護保険サービスは使えない。こういう人たち向けの、会食と配食のサービスが地域にあればよいと思う。配食はどうしても個食になり、食欲もわかずに残してしまいがちだから、大勢で一緒に食べる会食の場もほしい。
こういう仕組みはだれがコーディネートすればいいのか。本当に悩ましい。低栄養をきちんと診て支援する体制や考え方をどう作り上げていくか。かかりつけ医機能の議論や多職種連携にも関わる、大きな課題だと思う。
社会経済的要因や環境要因の低栄養
ICD-11の成人低栄養「5B72」にはさらに枝番がある。
5B72.0 中等度~重度の炎症を伴う疾患に関連する低栄養で、疾患、外傷、感染症による重い炎症が原因
5B72.1 明白な炎症を伴わない疾患に関連する低栄養で、疾患による食欲不振や消化吸収不良が原因
5B72.2 飢餓に関連する低栄養で、社会経済的要因や環境要因による
高齢者ではない成人低栄養も、現在の日本ではそれほど珍しくないだろう。育ち盛りの子のいるひとり親家庭で、たとえば母親が低栄養に陥っているケースなど、5B72.2に該当する。こういうケースにも、経口栄養剤でない支援が必要だ。
ICD-11によって医師の意識が変わることは、低栄養が見過ごされて、経口栄養剤さえも処方されず放置されるよりは一歩前進とは言える。でも、そこにとどまってはいけない。さらにその先に行くべきだ。
新田國夫(にった・くにお) 新田クリニック院長、日本在宅ケアアライアンス理事長
1990年に東京・国立に新田クリニックを開業以来、在宅医療と在宅看取りに携わる。