中央社会保険医療協議会(厚生労働相の諮問機関)薬価専門部会は1月25日、塩野義製薬の新型コロナ経口薬「ゾコーバ」の薬価算定に関して議論した。
ゾコーバは昨年11月に緊急承認され、現在は厚労省が所有し、対象患者が発生または発生が見込まれる医療機関・薬局からの依頼に基づき、無償で譲渡されている。
市販するための薬価算定に当たっては、最も類似性が高い薬剤に合わせて薬価を決定する「類似薬効比較方式」が原則となる。
ゾコーバの比較対象の候補となるのは既存の新型コロナ治療薬であるが、既存薬が軽~中等症患者で重症化リスクがある患者を対象としているのに対し、ゾコーバは重症化リスクのない軽~中等症患者を対象としていることから、対象患者数が大きく異なる可能性がある。
そこで、もう1つの候補として挙げられるのが、同じ呼吸器系感染症であるA型・B型インフルエンザに投与される抗ウイルス薬である。対象となるウイルスは異なるものの、重症化リスクに関わらず広く投与されるという投与対象患者の類似性、ウイルス増殖を抑制するという効果の類似性がある。
これらの既存薬の薬価を見ると、既存の新型コロナ経口薬であるラゲブリオは1治療当たりの薬価は9万円を超えているのに対し、インフルエンザ治療薬は2000円台~6000円台の水準であるため、どちらを比較薬にするかで薬価が大きく異なることが、ゾコーバの薬価収載に当たっての課題となっている。
また、薬価収載時には市場規模の予測が必要になるが、新型コロナでは感染者の急激な増減が生じることから、対象患者の推計や市場規模予測が非常に困難だという課題もある。
さらに、薬価収載後に年間販売額が予想販売額を一定程度超えた場合、薬価を調整する市場拡大再算定も課題だ。四半期再算定を使用しても、市場規模が拡大してから改定後薬価が適用されるまでに8カ月程度を要するため、急激な市場規模の拡大に迅速に対応することができないからである。
この日の会合では診療側委員から、ゾコーバは既存薬と異なり重症化リスクのない軽~中等症患者を対象としていること、臨床成績では鼻水やのどの痛みなど5つの症状が回復するまでの期間が24時間短縮される程度のものであることを踏まえた薬価とすべきとの意見が出された。
加えて、既存の高額コロナ薬剤を類似薬とするのは適当ではないことや、市場拡大再算定に当たっては、市場規模予測をタイムリーに把握した上で、迅速に価格調整すべきとの見解も示された。
一方、支払側委員からは、新型コロナの既存薬は類似薬に当たらないとし、インフルエンザに使う抗ウイルス薬を比較薬として、原価計算方式と市場拡大再算定、費用対効果評価を組み合わせて対応するのが基本との考えが述べられた。
また、5症状消失の期間が1日短縮されるものの、妊婦や妊娠の可能性がある女性は使えないこと、併用薬の制限があることなどを考慮すると、ゾコーバが患者にとってなくてはならない選択肢となるのかという視点を踏まえた慎重な検討が必要との意見もあった。
なお、厚労省から今回の方針はゾコーバに限った対応とするという提案があったが、この点に関しては異論がなかった。