第17回 東日本大震災を振り返る石巻の旅

2023年 8月 11日

近年多発する水害
 最近は豪雨災害の報道をよく目にするようになりました。今年の水害は沖縄に始まり、日本をほとんど縦断するようでした。10年に1回レベルとか、気象庁の記録にもない規模の災害が次から次へと起きています。

 線状降水帯が九州各地から四国・中国・北陸と私の記憶では大雨災害の少ない東北の秋田にまで発生して、洪水やがけ崩れ・交通遮断・断水などインフラは壊滅状態です。医療機関も洪水被害に遭い、患者が転院せざるを得ない状況になっています。

 男鹿半島と秋田市を結ぶ幹線道路沿いにある友人の薬局が、床上浸水してしまって大変なことになっていると連絡がありました。友人や家族の無事は確認でき、ほっと一安心です。落ち着いたらなにかできないか対応を考えています。

 薬局への影響も、友人のような直接の被害はなくても、物流の中断によって医薬品の供給が不安定になっています。そうでなくても後発品の慢性的な欠品は薬剤師業務に大きな負担となっています。

 そうした状況を背景に、薬局においてもBCP(事業継続計画)策定が必要不可欠になりました。それには被災経験を振り返ることも重要です。

大震災から11年、石巻を訪問
 やっと新型コロナ感染症が下火になってきた2022年10月、仙台で日本薬剤師会学術大会が開催され、リアルで参加しました(8~9日)。

 この大会に連動する形で東日本大震災の被災地・石巻をめぐる旅が企画されており、私も大会終了後、そのまま参加しました。

 石巻には、薬剤師のボランティアとして震災直後も訪れていました。それ以来の訪問です。11年前を振り返ると、当時の思いがよみがえります。

 11年という時の流れにより、どう変化してきたのか、人間の力の小ささと偉大さ、人間の大切さを感じる旅でした。

 10月10日、仙台駅東口に集合し、バスに乗って石巻に向かいます。石巻薬剤師会の丹野佳郎先生に、当時の状況や現在の復興状況について解説いただきながら、車窓に広がる景色を見ていると、震災当時が思い出されます。

 忘れることのできない光景が目の中に現れました。災害は忘れたころにやってきます。起きたときどう行動するか、再度確認しましょう。

 すっかり整備された仙台駅前を出発し、一路石巻へ。まず、復興祈念公園にある「がんばろう!石巻」の大看板で祈りを捧げました。

髙橋コラム17-1

 その後、門脇(かどのわき)小学校を訪れました。津波被害を受けたものの、地震発生後すぐ、裏手の日和山に児童を避難させた小学校です。

 石巻市震災遺構として整備され、昨年から公開されています。展示と災害跡を見学し、体験者の言葉や詩に心を動かされました。

髙橋コラム17-2

 門脇小の次は災害住宅の展示などを見学し、その後日和山に向かいました。私は12年前の災害支援時に石巻高校を拠点としていました。門脇小学校も日和山も、その同じ地域です。

 12年前の3月、石巻に夕方到着し、翌日朝早く目覚めて支援仲間と日和山まで散歩し、そこから門脇地区に入ったときの衝撃がはっきりと思い出されました。まるで第2次世界大戦で焼け野原になった東京の写真と全く同じ状況でした。

 今、その場所は原っぱのままで建物はありませんが、きれいに整備され、震災当時の様子は想像できません。10月10日の夜は丹野先生の講演とディスカッションで、当時の支援の様子や災害対応などを語り合いました。

 翌日は大川小学校に向かいました。こちらも石巻市震災遺構として公開されています。

 学校跡の前で、語り部の方が当時の発災前の写真などを使って丁寧に事実を伝えてくださいました。その方のお子様は大川小学校に通っていて震災で亡くなられたそうです。

髙橋コラム17-3

どうして被害に大きな差が生じたのか
 被害の少なかった門脇小学校と甚大であった大川小学校…。どうしてこのような差が生じてしまったのか。

 災害が起きたときに、どのような対応をとったのか、災害時にどのように行動したらよいか、もし石巻全体でBCPが作成されていて、それに基づいて訓練をしていたら、どうだっただろうと考えます。

 その後は、まるで城壁のように造られた津波防止のブロックの脇を通り、石巻まで戻ってきました。

 震災当時、アスファルトがはがれて車線の片側しか通れなくなっていた道路を、薬品や消毒薬を持って往復したのです。その時お会いした方にも再会し、皆さんの明るく元気な対応にもびっくりしました。

 今は新しいトンネルが山の中を突き抜けていて、その道路は通りませんでしたが、だんだん記憶が戻ります。当時は支援に行かなくちゃ、という頭だけで動いていました。

 現在もこれだけ災害が多発すると、自分のいるところがいつ災害に会ってもおかしくはないですね。水害・地震・火災、どれをとっても対応できるよう備えておくべきで、実践もしています。

 ただ、何をするにもコストがかかるのが頭の痛いところです。そうでなくてもDX化の設備投資に費用がかかります。補助金がありますが、補助金と同額かそれ以上のコストを要求されます。さらには電子処方箋・外部委託など難問は山積みです。

 来年は診療報酬・介護報酬・障害のトリプル改定です。どのようになるのか、情報収集と対応が必須です。

(写真はすべて筆者撮影)

高橋眞生氏

高橋眞生(たかはし・まなぶ) ㈱カネマタ代表取締役
在宅医療薬剤師。千葉・船橋で保険調剤薬局を展開。訪問薬剤管理を長年実践し、在宅患者からの信頼も篤く地域医療に貢献している。

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第20回 2024年度診療報酬改定、調剤のポイントは3つ

 2024年度診療報酬改定は、“短冊”(個別改定項目)が発表され、方向性が見えてきました。今回の改定は単に点数が変わっただけでなく、これからの日本の医療の行く末を示す重要な改定であると認識しています。
 
 それは「2040年を展望し、誰もがより長く元気に活躍できる社会の実現」に示されたものが、本気で始まってきたことです。
 
 高齢者人口はやがて伸びなくなり、単身世帯・夫婦のみ世帯が急増することを見据えています。現役世代が急減することも明らかです。その対策は「より少ない人手でも回る医療・福祉の現場を実現」することで、その方向性が今回の改定のキーワードではないでしょうか。
 
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第19回 大災害と大事故を自分に引き寄せてBCPを考える

 能登半島地震により被災された皆様、ならびにそのご家族の皆様に心よりお見舞い申し上げます。2024年がスタートしてあっという間に3カ月になります。1月1日に発災した能登半島地震と、その翌日に起こった日本航空と海上保安庁機の衝突炎上事故は、辰年の大きな記録として残っていくことでしょう。
 
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 能登の様子をテレビで拝見し、東日本大震災の際にお手伝いに行って目にした光景が目に浮かびました。今回も多くの薬剤師仲間が支援に行っています。介護関係者もボランティアで参加しています。
 
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 通常よく使われる薬の出荷が止まったり制限されたりして、薬局や医療機関への入荷が滞っています。その数について、厚生労働省は少なくとも3000品目以上に上っているとみているようですが、これは医療用医薬品全体のおよそ2割にあたります。
 
 私たちの感覚では状況は日に日に悪くなっているようです。やっとコロナが一段落して、やはりというかインフルエンザが例年より早く流行しはじめています。また通常の風邪も流行りだしています。そのような中で現場の薬剤師は…

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第16回 マイナ保険証は高齢者を置き去りにしないか

■患者側のメリットは確かにある
 医療分野でも、いよいよ本格的なデジタルトランスフォーメーション(DX)化が始まりました。まずはマイナンバーカードを健康保険証として使用する、マイナ保険証の導入です。
 
 DXを取り入れることで業務を効率化し、医療費の無駄をなくして、患者に適正で質の高い医療を提供できる。市民は、より安全で安心な生活を送れるようになる。それが目標です。
 
 2023年4月には特例措置でマイナ保険証関連の医療費をさらに引き上げ、マイナ保険証を使えば患者自己負担も低くなる報酬改定を行っています。
 
 2022年10月より、マイナ保険証に対応した医療機関を受診した場合の医療費の負担について、利用した際は21円から6円に引き下げ、従来の健康保険証を利用した際は9円から12円に引き上げられました。
 
 患者側のメリットはほかにもあります。マイナンバーで情報を承認すると、「お薬手帳」に相当する処方内容や健康診断の結果などが閲覧でき、いつどこを受診されどのような処方であったか確認できます。それにより薬剤の重複や適正使用を確認できます。
 
 薬局薬剤師の役割も進化します。正しく調剤することだけでなく、得られた情報を吟味し、処方された薬剤が適切かどうかを検証し、問題があれば…

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第15回 薬剤師の課題は2023年も多い

 2023年が始まりました。今年は医療・介護業界に大きな変革が起こることが予想され、実際に始まってきています。
 コロナ感染者はこのところ減少傾向ですが、今後はどうなるでしょうか。5月に5類に引き下げられますが、その扱いはどうなるでしょう。問題は山積みです。国の朝令暮改は県・市町村まで影響していますね。
  検査の無料化事業も、3カ月おきくらいに対象者確認フローの変更や日程延長があり、そのたびに社員への周知と利用者様への案内など対応してきました。その通知も変更前日にくるというバタバタしたものです。
 このような対策も、5月には大方なくなってしまうように感じています。取り扱いはほぼインフルエンザと同様になるでしょう。
 薬局運営では、メーカーの不祥事に端を発した後発品不足問題、漢方薬の原料不足からの供給不安定、さらには国が進めるデジタル化の波、DX化による機械設備の負担、そしてインボイスに対応するためのレジ等の入れ替えなど、経費負担も含め問題は山積みです。
 コロナ感染症は発生から丸3年がたち、久々に行動制限のない正月でした。久しぶりの里帰りができて、ふだんの生活に戻った感はありますが、正月明けのコロナ感染者の数はこれまでより多くなっています。
 1月は死亡者の人数も最多となり、まだコロナが収まったとは言えません。私の薬局では通常、31日から3日までの4日間お休みをいただきます。この年末年始、31日は当番医で開局し、休みの間に緊急在宅訪問が5件ありました。全く業務がなかったのは1月1日だけです。
 在宅訪問にかかわる限り、当然のことと思っています。そのような中で正月明けまではコロナ感染をあまり意識しなくてもよかったように感じています。
 年末年始を過ぎ、コロナ関連の処方が徐々に増えてきました。人の移動と共にやはり増えてきたかと思っていましたが、私どもの薬局でも、1月10日過ぎから濃厚接触者2名、陽性者が3名と相次ぎました。
 薬局運営の人繰りがたたず、休み返上や長時間勤務をしていただかねばならない状況になってしまいました。
 感染した者に聞き取りますと、「どこで感染したかわからない…

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