中小事業者の生き残りへ サービスを多角化し他事業者と連携〔カラーズ〕 下🆕

2024年 12月 11日

多様なサービス提供は効率的な働き方にも寄与
 一方、処遇面では、いろいろなサービスを組み合わせることにより、ホームヘルパーの待機時間を極力減らすことで効率的な働き方を実現した。大田区内に事業を限定していることで、移動時間が少なくて済むことも大きい。

 もっとも、サービスを組み合わせるために職員のスケジュールを調整するのは大変な作業だ。担当者の1人である訪問介護看護事業部長の吉田理枝さんによると「確かに大変だが、比較的時間の融通が利く定期巡回などをうまく組み込むことで対応している」のだという。

代表取締役の田尻久美子さん(左)と訪問介護看護事業部長の吉田理枝さん

代表取締役の田尻久美子さん(左)と訪問介護看護事業部長の吉田理枝さん

 なお、田尻さんがIT業界出身ということで、ヘルパーの記録ソフトや連絡用のチャットシステム、事務では会計・人事労務ソフトなど、ICTを活用することへの抵抗がなく、積極的に取り入れていることも業務の効率化に貢献している。

 教育・研修事業でユニークなのがマンツーマン講座だ。資格を持っているけれどブランクがあってやり方を忘れてしまった人、これから家族の介護を始めようとしている人、資格を取得して介護職に就く人、事業所に勤めているけれどスキルアップのために学びたい人など、さまざまな理由で受講に訪れている。

 講師は職員の介護福祉士と作業療法士の2人が務め、通常の業務の空いた時間を利用して、移乗やおむつ交換など介護に関する作業方法を1対1で教えている。

 田尻さんによると「ホームページの1ページで掲載しているだけなのに、受講希望者が絶えず、先日は京都から受けに来た人もいた」そうだ。

地域課題と経営課題の解決へ2つの連携
 他事業者との連携に関しては、全区的な地域課題の解決に取り組もうとした際、1社だけで区全体をカバーするのは不可能だと分かったことから、区内の3つの事業者と大田区支援ネットワークを立ち上げた。

 一般社団法人としたのは、公益性の高い事業を行うには株式会社という事業形態が障壁になることがあるためだ。

 その活動の1つが町工場など区内企業の従業員を対象に、介護に関するセミナーを行うもの。地道に活動を行っていたところ、大田区がその意義を認めて「仕事と介護の両立支援による介護離職防止事業」を創設し、区からの委託事業になった。

 このような活動を始めたのは、地域包括支援センターやケアマネジャーの存在といったことだけでなく、介護保険そのものを知らない人がたくさんいることを知ったため。

 「大企業なら仕事と介護の両立支援が当たり前になってきているけれど、中小企業はそこまで行き届いていない」(田尻さん)ことから、まず知識の普及に努めている。

 もう1つ、大田区支援ネットワークが区から受託したものとして「子育て支援事業」があり、全国120カ所以上で家庭訪問型子育て支援を実施している「ホームスタート・ジャパン」に加盟して、「ホームスタート・おおた」の名称で事業を展開している。

子育て支援1

子育て支援のイメージ

 同事業では、0歳児の第1子を持つ家庭に、研修を受けた地域の子育て経験者がボランティアとして訪問し、「傾聴」や「協働」を行う。保護者の孤立と虐待を防止するアウトリーチ活動として、地域住民による地域の子育ても応援している。

 他事業者との連携ということでは、物価高や介護報酬のマイナス改定など経営環境が悪化する中で、今年6月、大田区支援ネットワークとは別に、事業での運営課題を共同で解決する企業間連携「東京城南BASE.」を東京都城南エリアの3つの介護事業者とともに設立した。

 具体的な活動としては、合同説明会など職員の共同採用活動、法定研修・相互職場体験など教育・研修活動、物品の共同購入などによるコスト削減、機器や様式、委員会などの共有による効率化などを計画している。

 毎週打ち合わせを行い、例えば採用活動については今年度に合同の面接ツアーのようなものを計画しており、現在、ハローワークと協議しているところだ。法定研修についてもすでに共同で実施、共同購入に関しては事業協同組合を設立した上で行う予定だ。

 この連携に関して念頭にあるのは社会福祉連携推進法人の民間版である。「株式会社によるこうした取り組みは難しいのではないか、とよく言われるけれど、実証実験みたいな感じでやっているところもある」と田尻さんは評価している。

地元企業と車いすなどの共同開発も
 こうした他事業者との連携だけでなく、地元の住民団体・業界団体・公的機関・教育機関・商店街などとも活発に協働している。

 活動内容としては、住民イベントへの参加や小学校での福祉授業の実施、産後間もない母親への乳児への接し方教室、老人会での講義、町会・商店街・PTA・大学と連携した夏休みの子どもの居場所づくり事業、子どもを取り巻く医療・福祉・教育の有志による多職種勉強会など、枚挙にいとまがない。

 また、大田区という土地柄、町工場が多いが、そうした企業と製品の共同開発まで行っている。

 その1つである介助型車いす「COLORS」は、道路のほんのわずかな傾斜(水勾配)でも、老々介護など力が弱い人にとっては既存の車いすをまっすぐに押せず、それが外出を阻害する要因になるという課題に気付いた現場スタッフの声を基に開発した。

車いす

共同開発した車いすは鹿児島県の世界文化遺産「仙厳園」でも使われている

 完成した製品は、力をあまり加えなくてもまっすぐ押せ、段差も簡単に乗り越えられるのが特徴で、レンタルとして貸し出している。変わったところでは、砂利が敷き詰められている鹿児島県の世界文化遺産「仙厳園」が、この車いすの砂利道での走行性の高さに着目して使用している。

 服薬支援・見守りロボット「FUKU助」は、区内のものづくりベンチャー企業と共同開発した。服薬時間になったら声掛けと薬の払い出しを行う。さらに、服薬状況を家族のスマホなどへリアルタイムで通知したり、ゴミ出しなどのスケジュールを知らせたり、センサーで熱中症などの危険がないよう見守りを行うなどの機能も備えている。

 これまで紆余曲折はあるものの、会社は着実に成長してきた。しかし、区外に進出したり、経営を大規模化したりする気はない。

 あくまで区内で地道に活動を続け「次世代の業界を良くしていくために、地域で頑張っている事業者が残っていけるように、自分たちの子どもも含めた未来の地域の在り方を踏まえて、今できることをしっかりやっていきたい」というのが田尻さんの思いだ。

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中小事業者の生き残りへ サービスを多角化し他事業者と連携〔カラーズ〕 上🆕

 訪問介護事業者の倒産件数が過去最多のペースで推移する中、東京都大田区で訪問介護を中心に事業を展開するカラーズは、高齢者だけでなく障害者や子育て中の母親への支援などサービスの多角化や他事業者との連携などにより、中小規模ながら着実に成長を続けている。
 
■大田区内に4つの拠点
 カラーズは代表取締役の田尻久美子さんが2011年に設立した。大学卒業後、IT企業で働いていたが、母親が病気で亡くなった時に「看護の手伝いはしていたけれど、疾患を抱えていることの精神的な辛さが理解できなかったことが心残りになり」、母親にできなかった分を支援が必要な人のために行えればと介護業界に転じた。
 
 大手の事業者などで経験を経て独立。当初は「高齢者の介護保険サービス事業者」として訪問介護事業を始めた。
 
 しかし、事業を行っていると、利用者の中に障害を持つ高齢者がいたり、田尻さん自身が3人の幼い子どもを抱えながら、肺がんの父親の介護をしたりする中で「高齢者だけじゃなく、ライフステージに応じて支援が必要な人がたくさんいる」ことに気付いた。
 
 そこで「制度が先にあるのではなく、生活ニーズや地域のニーズを基にやっていこう」と考え、高齢者の介護に加え、障害サービスや子ども・子育て支援などにも着手し、「介護事業者」から「地域を支える事業者」へと事業領域を拡大していった。

介護報酬改定で経営が逼迫なら支援策を 小規模事業者の継続は協働化がカギ 石田路子・名古屋学芸大学客員教授🆕

 今回の介護報酬改定では、訪問介護の基本報酬がすべて引き下げられた。これにより、今後、訪問介護はどうなっていくと考えられるか。また、打撃を受けるとみられる小規模事業者はどうしたらいいのか。介護報酬改定を議論してきた厚生労働相社会保障審議会介護給付費分科会の委員を務め、議論に参加してきた石田路子・名古屋学芸大学客員教授に聞いた。
 
■処遇改善の方向性は評価

――今回の介護報酬改定の内容を全体としてはどう評価していますか。
 
 介護人材不足がいよいよ深刻化する中、処遇改善をとにかくやろうという、その方向性そのものについては間違いないし、今回は処遇改善に向けての施策がかなり講じられたのは確かだと思います。
 
――訪問介護の基本報酬だけが引き下げられたことについては。
 
 収支差率に基づいて厚労省が判断をしたということになると思います。昨年度の実績では、特養が前年度に比べマイナス1. 0%、老健がマイナス1. 1%だったのに対し、訪問介護は7. 8%とかなり大きなプラスになりました。
 
 さらに、定期巡回・随時対応型訪問介護が11. 0%、夜間対応型訪問介護については9. 9%というように、高い数字になっているものですから、訪問に関しては…

ホームヘルパーに聞く②「宝ケアサービス赤羽」の渡部利恵さん、「荒川サポートセンターかどころ」の長浦美加さん🆕

 東京都内の事業所で働くホームヘルパー4人に、この職種を選んだ理由や仕事内容などを聞く第2弾で紹介するのは、宝ケア株式会社「宝ケアサービス赤羽」(北区)の渡部利恵さんと、NPO法人東京ケアネットワーク「荒川サポートセンターかどころ」の長浦美加さん。2人はともにサービス提供責任者(サ責)を務めており、サ責ならではの大変さについても語ってもらった。
 
■渡部利恵さん―多忙なサ責の職務、達成感が原動力に
 渡部利恵さんが勤務する宝ケアは、北区で訪問介護事業を54年間展開しており、宝ケアサービス赤羽は同社が運営している3つの事業所の1つある。
 
 渡部さんがホームヘルパーになったのは、10年ほど前。介護福祉士の資格を取得後、最初はデイサービスで働いたが、子どもが小さかったため、朝が早かったり、夜遅かったりすることもあるデイサービスの仕事は厳しいと感じていたところ…

ホームヘルパーに聞く①「みずべの苑」(東京都北区)の大図理紗さんと福島珠美さん🆕

 ホームヘルパーとして働いている人たちは、なぜこの仕事を選び、どのような働き方をしているのか。東京都内の事業所で働く4人に聞いた。1回目は北区の社会福祉法人うららの訪問介護事業所「みずべの苑」で正社員として働く大図理紗さんと、登録ヘルパーで働く福島珠美さんを紹介する。
 
■大図理紗さん―利用者や家族からの感謝の言葉にやりがい
 大図さんは4年前、新卒でみずべの苑に入社した。卒業した東洋大学では、1年生の時から特養やデイサービスなどで実習を行うが、4年生の時に同事業所で訪問介護の実習を受けたことを機に、ホームヘルパーになろうと決めた。
 
 ヘルパーの働いている姿や利用者とのかかわりを見て「かっこいいな」と思ったからだ。1学年上の先輩が勤務していることもあり、同事業所を選んだ。
 
 訪問介護事業所を就職先として選んだ同級生はほとんどおらず…

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行政と一体でホームヘルパーを養成 練馬区介護サービス事業者連絡協議会🆕

 東京都練馬区の人口は74万人で、23区では世田谷区に次いで人口が多い。区内には約200カ所も訪問介護事業所があるが、ホームヘルパーが足りなくて回せないという声はあまり聞かない。それは、事業者と行政が一体となって養成しているからだ。
 
■独自の「介護スタッフ研修」を実施
 練馬区の介護事業者の団体である練馬区介護サービス事業者連絡協議会(事連協)の副会長で、事連協訪問介護部会の部会長を務める加藤均氏(みんなのかいご代表取締役)によると、そのきっかけとなったのは、2017年に総合事業が始まったこと。
 
 その担い手をどうするかが問題となった時に、同部会から区に総合事業の担い手を養成する「介護スタッフ研修」を提案し、ホームヘルパーを創出する仕組みを作ることになった。
 
 この取り組みがユニークなのは、いきなり初任者研修を行うのではなく…

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