看多機と小多機の区別は意味がない
――看多機でもいいのですか。
看多機と小多機を区別することには、あまり意味がないと思います。小多機は認知症の人、看多機は医療依存度の高い人、みたいなくくり方をすると、そういう人たちだけが集まって同質化してしまう。そうすると、化学反応が起きない。
状態の異なる人がいるから、化学反応が起こる。例えば元気な認知症の人が、寝たきりになっている人に一生懸命声をかけて励ましたりするわけです。
――駄菓子屋もありますね。そうした子どもたちも高齢者と交流するのですか。
フロアに上がってきたり、慣れた子はここを待ち合わせ場所にしたりしています。高齢者も本人が望めば接客したり、お金の計算をしたりしています。全然勘定が合いませんけれど。一緒に百人一首などをやっていることもあります。
介護とか看護とか保育とか、そこの縦割りを壊すというか、地域包括ケアとか地域共生社会とか言われるものの具体的なひとつの姿を目指していると言えます。
ただ、それにはスタッフのコーディネート・スキルがすごく大事で、さすがに何もしないでいきなり高齢者と子どもたちが交流することはありません。その点、自分からそういう状況を作ることが出来る職員がまだまだ少ないのが課題です。

百人一首のカルタ取りを行う子どもと高齢者
地域共生に対する感性を持つことが大事
――訪問だけで地域の多様な人たちと交流を図るのは難しいですか。
難しいというか、それだけでは面白くないということです。集まる場があることが大切ですし、地域共生に対する感性を、訪問であってもケアマネジャーであっても、持てるかどうかが大事だと思います。自分のところに拠点がなくても、世の中にいくらでもありますから。
例えば看多機で、先日、香川県の事業所と一緒にリモートでうどん作りをやりました。看多機のご利用者さまとご家族が参加しましたが、別にその人たちしか出入りしてはいけないとは言っていません。
弊社のケアマネジャーが担当している高齢者で、普段はここを使ってないけれど、外出支援の形で来るようなプランを立ててうどん作りに参加すれば、普段と違う日中活動ができるわけです。あるいは、家の近くの施設でイベントがあり、本人が行きたいと言うのであれば、ケアマネジャーに提案して出かけるとか、やり方はいくらでもある。
それを実行する上での最大のポイントは、日常的に人間関係が築かれていること。ご利用者さまにしてみれば、外出支援の人がいきなり来て連れて行くのではなく、普段、家に来る人が外出支援を提案することが大切です。
主要なサービスではないけれど、その人の暮らしを少しでも豊かにするにはどうしたらいいのかという視点があれば、別に訪問介護だろうが、居宅介護支援だろうが、面白くできるはずです。
――看多機と小多機でイベントをやっていますね。
他の事業所ともやりますし、最近、増えているのは児童センターとのイベントで、新春のカルタ大会に参加してきました。逆に、児童センターが主催しているママさんサークルの活動をここで一緒にやることもあります。
さらに、今進めているのは、不登校の子たちがけめともの家で過ごせるようにすること。手伝うことはいくらでもありますし、子どもたちの相手をすることもできます。宿題をやりたければやっていていい。フリースクールに行くだけよりも、社会的にいろいろな体験ができるでしょう。
イベントではありませんが、品川区内で複合的な施設を建設する計画も進めています。メインは一人親と独居高齢者のシェアハウスで、国土交通省のモデル事業に選ばれました。昔の大家族の疑似体験という感じです。部屋は10戸で、そのうち6戸ぐらいが高齢者のイメージ、2、3戸がシングル、残りに福祉を学んでいる若者が入ってもいいと考えています。

けめともの家・西大井でママさんサークルを実施
低栄養への対策はケアマネジャーの意識改革が必要
――配食事業を始めたのは。
衣食住のうち、着るものはあるし、住むところはあるけれど、食はどうか。隣にコンビニやスーパーがあっても認知症の人はうまくそれを使いこなせません。高齢者は便利さを享受できない上に、食べることが当たり前に確保できないと感じた。そこで、まず配食事業をフランチャイズとして始めました。
弁当を届けるところから始めたけれど、やっているうちにそれは手段でしかなく、その人を気にかけることの方が大事だと気づきました。それがUberEatsのようなデリバリーサービスとの差だと、社内で言っています。
さらに、そこからより食というものを考えるようになり、低栄養の問題に行きつきました。潜在的にそういう人がかなりいるけれど、管理栄養士が在宅領域にほとんどいないことも知り、いかに在宅で管理栄養士が働けるようにするかも、現在の私の命題のひとつになっています。
弊社には「栄養ケアスタッフ」と呼ばれる、管理栄養士の資格を持っているヘルパーが4人いて、そうした人たちが栄養面も見ています。栄養から入るというよりは、関係構築をした上で、栄養を見ていくという感じです。
普通、「タンパク質が足りませんよ」とか言われても「うるせえな」で終わる。医療サイドのアプローチがそうです。日常生活支援も含めて出入りし、ご利用者さまにとって信頼できる人になると、「お前が言う通りでいいよ」と言っていただけるようになります。
ただ、今は栄養ケアスタッフが意図して低栄養の人のところに行けるようにはなっていません。なぜならケアマネジャーにその意識がまだまだ低いからです。プランを作る時の優先度に栄養が入っていない。今はそれを啓発している段階です。
地域が必要とすれば簡単にはつぶれない
――訪問をしている中でいろいろなことが見えてきて、それに対応して事業を拡大しているということですね。
手広くやればいいということでもないと思います。先ほども言いましたけれど、訪問介護だけであっても、ご利用者さまの地域の暮らしのために何が必要か、と発想していくことが大事なのかなと思います。
地域とのかかわりということでは、目黒営業所は商店街の中に事務所があるので、商店会に入っています。商店会費は結構な額になりますが、それでも例えばハロウィンの時は一緒にイベントをやり、スタンプラリーでスタンプをもらう場所のひとつになっていて、子どもたちがやってきます。
その日は仕事にならないけれど、渡すお菓子の中にちょっとした当社のPRを入れたりしています。もしかしたら、それを機に福祉に興味を持ち、仕事をしたいという人が出てくるかもしれません。そうなれば、採用コストゼロで働く人を確保できるので、商店会費のもとは取れます。

目黒営業所でのハロウィンイベント
――そういうふうな形で、地域とのかかわりを作ることが大切だと。
それが必須だと思います。逆にそれがあれば、そんなに簡単につぶれない。周りがつぶさせないと思います。
――4社による企業連携「東京城南BASE.」について。
地域のことを自分ごとにできる事業者がどれだけいるかが、地域の福祉レベルを上げていくことになると思います。大規模化すれば経営基盤は安泰かもしれないけれど、大企業ではどうしても地域に対する意識が高まらない。
保険会社にいた時の自分がそうですけれど、全国に千何百営業所がある中で、今自分がいる営業所の街のことを思うかといえば、全く思いませんでした。転勤族ですし。
ただ、最近の法改正で報酬が下がっているのにやらなければならないことが増えていますから、全部を地域の事業者である自分たちだけでやるのは正直厳しい。だったら、M&Aでもなく合併でもなく、助け合えるところは協働する取り組みが重要だということで、東京城南BASE.を始めました。
大切なのは、どれだけ率直な関係でいられるかということ。気になることがあった時に、遠慮なく言い合えることを大事にしています。
――厚労省が企業連携を支援することになりました。どう評価しますか。
ここ最近の大規模化・協働化の推進策の一環として小規模事業所を含んだ協働化の具体的施策が出てきたことは有意義なことだと思います。
ただ、私たちが協働化を進める上で一番大切にしていることは目的、すなわち「あり方・価値観」の一致です。施策として示されている具体例はすべて「手段=やり方」です。よくあることですが、手段が目的となるような協働化は恐らく長続きしないでしょう。
長続きしなければ税金投入する意義はないに等しいと思います。活用に際しては、自治体・法人ともに、経営者の真摯な姿勢、胆力、一定の時間を要することを認識すべきと考えます。
また、もう一点、取得要件が細かいと、結局、事務手続コストがかかるため、小規模事業所は対応できない、結果として施策が活用されないのではないかと危惧します。
処遇改善加算はじめ、非常に複雑な仕組みにすることで小規模事業者を支えるどころか小規模・大規模の二極化を招くことを理解すべきではないかと思います。
各種の事務手続コストの低減も協働化の重要な観点になると考えられ、東京城南BASE.としても今後取り組んでいく予定です。