
在宅ケア&多世代共生拠点「けめともの家・西大井」(品川営業所)
訪問介護・居宅介護支援を中心に事業を行ってきたケアメイト(東京都品川区)は、小多機・看多機・保育の各事業を始めたことで、高齢者と子どもたちとの触れ合いや地域住民との密接な交流が図れるようになった。板井佑介代表に地域とのかかわりを中心に聞いた。
家政婦紹介所を基に地域で70年の歴史
――ケアメイトの創立は。
70年ほど前に祖母が家政婦紹介所を開設したのが始まりです。法改正で付添婦が廃止になって介護保険ができることになり、当時の家政婦紹介所はこぞって介護事業を始め、当社も父がケアメイトを立ち上げました。ちなみに、家政婦紹介所は「城南ケアサービス」と名称を変え、母が事業を継続しています。
私は大学を出て生命保険会社に入社し、11年ほど勤めた後、父が亡くなったため、2011年にケアメイトを継ぐことになりました。現場を知らないまま、いきなり経営者として入ったので大変でした。
――現在の体制は。
本部のほか、品川区を中心に8つの営業所があります。「在宅ケア&多世代共生拠点『けめともの家・西大井』」と称している品川営業所では、訪問看護・居宅介護支援・訪問看護・看多機・地域保育の各サービスを提供しています。
そのほか、大田営業所・目黒営業所・桜新町営業所で訪問介護と居宅介護、荏原営業所と港営業所では訪問介護、品川八潮営業所では小多機、品川二葉営業所では食支援・配食サービスを行っています。従業員数は常勤がパートも含めて70人ぐらい、登録のヘルパーが130~140人ぐらいいます。

板井佑介代表
――高齢者と障害者の訪問介護を行っているメリットは。例えば、両方やることでヘルパーの待機時間を減らすことができるとか。
おそらく介護保険制度ができる前から両方やっていますが、結局、オペレーションの問題なので、高齢者だけでも障害者だけでも、マネジメントさえきっちりできていればやっていけると思います。
むしろ、障害の状態はいろいろあり、移動支援などは長時間、付き添う必要がある場合もあります。それが毎週決まった曜日にあるわけではないので、時間だけでの相互補完的意味は、私の感覚ではあまりありません。
制度改定に振り回されない
――訪問介護の倒産件数が過去最多を記録する中で、事業がうまくいっているのは。
介護報酬減額の影響は大きく、この辺りでも最近、廃業したところがあります。それでも弊社が曲がりなりに続けていられるのは、簡単に言えば、訪問に行く人がいるからです。
介護保険制度が始まる時点で家政婦がたくさんいて、その人たちにヘルパーの資格を取ってもらったので、いきなり100人規模のヘルパーがいる状態でスタートできました。しかも当初、競争がない中で地盤が築けたのが大きいと思います。
また、介護の仕事は常に制度に揺り動かされますが、それにあまり右往左往しないこともそこそこやれている要因かもしれません。例えば今だと「介護保険だけでは厳しいから、保険外サービスを」みたいな動きがありますが、私はそうしたことに迎合しません。
介護保険に関しては性善説で、高い報酬が得られなくても、国は運営不可能な報酬設定はしないと勝手に信じています。報酬改定を見ているとわかりますが、みんなが群れると、はしごを外します。それなら、逆でいい。食べられないと言われるサービスを積極的にやる。そこは絶対にはしごを外しませんから。
地域福祉の観点から小多機に着手
――食べられないサービスとは。
小多機などはそうですね。やろうとした時に「すごく厳しいよ」と散々言われました。ただ、私としては、先ほど述べたように、国は継続できない設定をしないと考えていることと、介護の仕事をお金のためだけにやるのか、という疑問から小多機を始めました。
福祉事業者には「地域の福祉に対して何ができるか」という観点が重要です。実は、私には最初、それがありませんでした。しかし、社会福祉を勉強する中で地域福祉という考え方に出会い、本当に変わりました。
福祉と言っても高齢者・障害者・児童といろいろあり、サービスの提供はすべて縦割りです。けれども、地域社会では縦割りになっていません。そこに気づいた時に、それに対応できる仕組みは何かを考え、たどりついたのが小多機でした。
実際、やってみたら小多機はものすごく面白くて、可能性が非常にあると思いましたし、勉強にもなりました。それこそ訪問介護だけでは出会わなかったような、いろいろな人たちとの接点ができ、視野も広がりました。

けめともの家・西大井では高齢者と子どもが日常的に交流している
――小多機の可能性とは。
家での暮らしを支えるというのは、家の中の問題だけではなく、地域の問題でもあります。それが機能しなくなった地域社会こそ、在宅で過ごせなくなっている要因だと理解しました。
核家族化し、特に都市部では近所付き合いもなくなり、家族力がものすごく低下してきた中で、家で暮らせるサービスを提供できるのが小多機です。
サービスが多様なだけでなく、2カ月に1回行う運営推進会議では、町会長とか自治会長とか、いろいろな人たちと話し合います。その中で、いろいろな地域資源にアクセスできることを知りました。
一方、地域の人たちは、例えば認知症ひとつとっても正確に理解できていないところがありますので、会議を通じて介護の専門家である私たちが、正しい考え方を伝えることができます。こうした啓発的なことは専門職の大事な役割ですし、地域密着型サービスの責務のひとつだと思います。
施設を開放し高齢者と子どもたちが交流
――品川八潮で小多機をやってどのような変化がありましたか。
どうしたらご利用者さまがより良く暮らすことへの支援ができるかを考えた時に、私たちだけでなく、いろいろな人が来た方がいいと気づきました。例えば、子供がいれば高齢者は喜ぶ。それで、玄関を開けて誰でも来られるようにしたら、子供たちが来るようになりました。
日中や放課後に寄るようになって、ご利用者さまと話したり、夕食作りを手伝う子が出てきたり、「化学反応」が起こり始めました。あるいは、子どもがゴロゴロしていたら、認知症の高齢女性が「あんたそれじゃダメよ」と叱ったりする。
それを見て思ったのは、それ自体がケアだということ。孫みたいな子どもに注意してあげるのは高齢者にとって意欲の表れですし、子供は子供で、核家族化して怒られる機会が少なくなっている中で貴重な経験になります。
遊びに来ている子どもの親から感謝されたこともあります。両親が共働きで家にいない時に変な人に遭遇したら、誰もいない自分の家に逃げるのではなく、普段から知っている人がいるここに逃げられるからありがたいと言われました。ここが高齢者だけではなく、地域のためにもなっていることを実感しました。
――けめともの家・西大井では看多機に加え、地域保育もやっていますね。
品川八潮で高齢者と子どもたちの触れ合いの大切さを知った時に、ちょうど待機児童が問題となり、その解決のため、内閣府が企業主導型保育という制度を設けてくれたおかげで、当社のような保育の経験のない株式会社でも保育事業ができることになりました。
保育があれば毎日子どもたちが来ますし、親も来ますので、そこで高齢者との接点が生まれると思い、看多機と保育を一緒に行う場としました。(下に続く)