訪問主体も小多機・看多機拠点に地域と交流 自社になければ他施設活用する工夫を 板井佑介・ケアメイト代表取締役 上🆕

2025年 3月 5日

けめともの家・西大井

在宅ケア&多世代共生拠点「けめともの家・西大井」(品川営業所)

 訪問介護・居宅介護支援を中心に事業を行ってきたケアメイト(東京都品川区)は、小多機・看多機・保育の各事業を始めたことで、高齢者と子どもたちとの触れ合いや地域住民との密接な交流が図れるようになった。板井佑介代表に地域とのかかわりを中心に聞いた。

家政婦紹介所を基に地域で70年の歴史
――ケアメイトの創立は。

 70年ほど前に祖母が家政婦紹介所を開設したのが始まりです。法改正で付添婦が廃止になって介護保険ができることになり、当時の家政婦紹介所はこぞって介護事業を始め、当社も父がケアメイトを立ち上げました。ちなみに、家政婦紹介所は「城南ケアサービス」と名称を変え、母が事業を継続しています。

 私は大学を出て生命保険会社に入社し、11年ほど勤めた後、父が亡くなったため、2011年にケアメイトを継ぐことになりました。現場を知らないまま、いきなり経営者として入ったので大変でした。

――現在の体制は。

 本部のほか、品川区を中心に8つの営業所があります。「在宅ケア&多世代共生拠点『けめともの家・西大井』」と称している品川営業所では、訪問看護・居宅介護支援・訪問看護・看多機・地域保育の各サービスを提供しています。

 そのほか、大田営業所・目黒営業所・桜新町営業所で訪問介護と居宅介護、荏原営業所と港営業所では訪問介護、品川八潮営業所では小多機、品川二葉営業所では食支援・配食サービスを行っています。従業員数は常勤がパートも含めて70人ぐらい、登録のヘルパーが130~140人ぐらいいます。

板井代表本文3

板井佑介代表

――高齢者と障害者の訪問介護を行っているメリットは。例えば、両方やることでヘルパーの待機時間を減らすことができるとか。

 おそらく介護保険制度ができる前から両方やっていますが、結局、オペレーションの問題なので、高齢者だけでも障害者だけでも、マネジメントさえきっちりできていればやっていけると思います。

 むしろ、障害の状態はいろいろあり、移動支援などは長時間、付き添う必要がある場合もあります。それが毎週決まった曜日にあるわけではないので、時間だけでの相互補完的意味は、私の感覚ではあまりありません。

制度改定に振り回されない
――訪問介護の倒産件数が過去最多を記録する中で、事業がうまくいっているのは。

 介護報酬減額の影響は大きく、この辺りでも最近、廃業したところがあります。それでも弊社が曲がりなりに続けていられるのは、簡単に言えば、訪問に行く人がいるからです。

 介護保険制度が始まる時点で家政婦がたくさんいて、その人たちにヘルパーの資格を取ってもらったので、いきなり100人規模のヘルパーがいる状態でスタートできました。しかも当初、競争がない中で地盤が築けたのが大きいと思います。

 また、介護の仕事は常に制度に揺り動かされますが、それにあまり右往左往しないこともそこそこやれている要因かもしれません。例えば今だと「介護保険だけでは厳しいから、保険外サービスを」みたいな動きがありますが、私はそうしたことに迎合しません。

 介護保険に関しては性善説で、高い報酬が得られなくても、国は運営不可能な報酬設定はしないと勝手に信じています。報酬改定を見ているとわかりますが、みんなが群れると、はしごを外します。それなら、逆でいい。食べられないと言われるサービスを積極的にやる。そこは絶対にはしごを外しませんから。

地域福祉の観点から小多機に着手
――食べられないサービスとは。

 小多機などはそうですね。やろうとした時に「すごく厳しいよ」と散々言われました。ただ、私としては、先ほど述べたように、国は継続できない設定をしないと考えていることと、介護の仕事をお金のためだけにやるのか、という疑問から小多機を始めました。

 福祉事業者には「地域の福祉に対して何ができるか」という観点が重要です。実は、私には最初、それがありませんでした。しかし、社会福祉を勉強する中で地域福祉という考え方に出会い、本当に変わりました。

 福祉と言っても高齢者・障害者・児童といろいろあり、サービスの提供はすべて縦割りです。けれども、地域社会では縦割りになっていません。そこに気づいた時に、それに対応できる仕組みは何かを考え、たどりついたのが小多機でした。

 実際、やってみたら小多機はものすごく面白くて、可能性が非常にあると思いましたし、勉強にもなりました。それこそ訪問介護だけでは出会わなかったような、いろいろな人たちとの接点ができ、視野も広がりました。

多世代交流01

けめともの家・西大井では高齢者と子どもが日常的に交流している

――小多機の可能性とは。

 家での暮らしを支えるというのは、家の中の問題だけではなく、地域の問題でもあります。それが機能しなくなった地域社会こそ、在宅で過ごせなくなっている要因だと理解しました。

 核家族化し、特に都市部では近所付き合いもなくなり、家族力がものすごく低下してきた中で、家で暮らせるサービスを提供できるのが小多機です。

 サービスが多様なだけでなく、2カ月に1回行う運営推進会議では、町会長とか自治会長とか、いろいろな人たちと話し合います。その中で、いろいろな地域資源にアクセスできることを知りました。

 一方、地域の人たちは、例えば認知症ひとつとっても正確に理解できていないところがありますので、会議を通じて介護の専門家である私たちが、正しい考え方を伝えることができます。こうした啓発的なことは専門職の大事な役割ですし、地域密着型サービスの責務のひとつだと思います。

施設を開放し高齢者と子どもたちが交流
――品川八潮で小多機をやってどのような変化がありましたか。

 どうしたらご利用者さまがより良く暮らすことへの支援ができるかを考えた時に、私たちだけでなく、いろいろな人が来た方がいいと気づきました。例えば、子供がいれば高齢者は喜ぶ。それで、玄関を開けて誰でも来られるようにしたら、子供たちが来るようになりました。

 日中や放課後に寄るようになって、ご利用者さまと話したり、夕食作りを手伝う子が出てきたり、「化学反応」が起こり始めました。あるいは、子どもがゴロゴロしていたら、認知症の高齢女性が「あんたそれじゃダメよ」と叱ったりする。

 それを見て思ったのは、それ自体がケアだということ。孫みたいな子どもに注意してあげるのは高齢者にとって意欲の表れですし、子供は子供で、核家族化して怒られる機会が少なくなっている中で貴重な経験になります。

 遊びに来ている子どもの親から感謝されたこともあります。両親が共働きで家にいない時に変な人に遭遇したら、誰もいない自分の家に逃げるのではなく、普段から知っている人がいるここに逃げられるからありがたいと言われました。ここが高齢者だけではなく、地域のためにもなっていることを実感しました。

――けめともの家・西大井では看多機に加え、地域保育もやっていますね。

 品川八潮で高齢者と子どもたちの触れ合いの大切さを知った時に、ちょうど待機児童が問題となり、その解決のため、内閣府が企業主導型保育という制度を設けてくれたおかげで、当社のような保育の経験のない株式会社でも保育事業ができることになりました。

 保育があれば毎日子どもたちが来ますし、親も来ますので、そこで高齢者との接点が生まれると思い、看多機と保育を一緒に行う場としました。(下に続く)

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中小事業者の生き残りへ サービスを多角化し他事業者と連携〔カラーズ〕 下🆕

■多様なサービス提供は効率的な働き方にも寄与
 一方、処遇面では、いろいろなサービスを組み合わせることにより、ホームヘルパーの待機時間を極力減らすことで効率的な働き方を実現した。大田区内に事業を限定していることで、移動時間が少なくて済むことも大きい。
 
 もっとも、サービスを組み合わせるために職員のスケジュールを調整するのは大変な作業だ。担当者の1人である訪問介護看護事業部長の吉田理枝さんによると「確かに大変だが、比較的時間の融通が利く定期巡回などをうまく組み込むことで対応している」のだという。
 
 なお、田尻さんがIT業界出身ということで、ヘルパーの記録ソフトや連絡用のチャットシステム、事務では会計・人事労務ソフトなど、ICTを活用することへの抵抗がなく、積極的に取り入れていることも業務の効率化に貢献している。
 
 教育・研修事業でユニークなのがマンツーマン講座だ。資格を持っているけれどブランクがあってやり方を忘れてしまった人、これから家族の介護を始めようとしている人…

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中小事業者の生き残りへ サービスを多角化し他事業者と連携〔カラーズ〕 上🆕

 訪問介護事業者の倒産件数が過去最多のペースで推移する中、東京都大田区で訪問介護を中心に事業を展開するカラーズは、高齢者だけでなく障害者や子育て中の母親への支援などサービスの多角化や他事業者との連携などにより、中小規模ながら着実に成長を続けている。
 
■大田区内に4つの拠点
 カラーズは代表取締役の田尻久美子さんが2011年に設立した。大学卒業後、IT企業で働いていたが、母親が病気で亡くなった時に「看護の手伝いはしていたけれど、疾患を抱えていることの精神的な辛さが理解できなかったことが心残りになり」、母親にできなかった分を支援が必要な人のために行えればと介護業界に転じた。
 
 大手の事業者などで経験を経て独立。当初は「高齢者の介護保険サービス事業者」として訪問介護事業を始めた。
 
 しかし、事業を行っていると、利用者の中に障害を持つ高齢者がいたり、田尻さん自身が3人の幼い子どもを抱えながら、肺がんの父親の介護をしたりする中で「高齢者だけじゃなく、ライフステージに応じて支援が必要な人がたくさんいる」ことに気付いた。
 
 そこで「制度が先にあるのではなく、生活ニーズや地域のニーズを基にやっていこう」と考え、高齢者の介護に加え、障害サービスや子ども・子育て支援などにも着手し、「介護事業者」から「地域を支える事業者」へと事業領域を拡大していった。
 
 「制度とか、障害の有無とか、年代とかで区切ってサービスを提供するのでは、生活全体を支えられないのではないかということで、制度で区切らない、できるだけ面で支援できるように、いろいろなことに対応できるようにしていこうとやってきたら、サービスのラインナップがすごい数に増えてしまった」と田尻さんは笑う。
 
 現在、大田区の大森西地区を中心に本社・大森町ホーム・研修センター・放課後等デイの4拠点を設け、60人の従業員で事業を展開している。他の経営者からは60人で数多くのサービスを提供していることに驚かれるという。
 
 本社には本部のほか福祉用具事業部、居宅介護支援事業部、一般社団法人「大田区支援ネットワーク」の本部がある。全国的にケアマネジャーが不足していると言われているが、カラーズの居宅介護支援事業部は8人のケアマネを抱えている。
 
 大森町ホームは訪問事業の中心で、訪問介護・訪問看護・定期巡回などのスタッフが詰めている。面白いのは本来、駐車場スペースだった場所を畑にしていること。放課後等デイサービスを利用している子どもたちと若いボランティアの人たちで大豆やジャガイモなどを育て…

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介護報酬改定で経営が逼迫なら支援策を 小規模事業者の継続は協働化がカギ 石田路子・名古屋学芸大学客員教授🆕

 今回の介護報酬改定では、訪問介護の基本報酬がすべて引き下げられた。これにより、今後、訪問介護はどうなっていくと考えられるか。また、打撃を受けるとみられる小規模事業者はどうしたらいいのか。介護報酬改定を議論してきた厚生労働相社会保障審議会介護給付費分科会の委員を務め、議論に参加してきた石田路子・名古屋学芸大学客員教授に聞いた。
 
■処遇改善の方向性は評価

――今回の介護報酬改定の内容を全体としてはどう評価していますか。
 
 介護人材不足がいよいよ深刻化する中、処遇改善をとにかくやろうという、その方向性そのものについては間違いないし、今回は処遇改善に向けての施策がかなり講じられたのは確かだと思います。
 
――訪問介護の基本報酬だけが引き下げられたことについては。
 
 収支差率に基づいて厚労省が判断をしたということになると思います。昨年度の実績では、特養が前年度に比べマイナス1. 0%、老健がマイナス1. 1%だったのに対し、訪問介護は7. 8%とかなり大きなプラスになりました。
 
 さらに、定期巡回・随時対応型訪問介護が11. 0%、夜間対応型訪問介護については9. 9%というように、高い数字になっているものですから、訪問に関しては…

ホームヘルパーに聞く②「宝ケアサービス赤羽」の渡部利恵さん、「荒川サポートセンターかどころ」の長浦美加さん🆕

 東京都内の事業所で働くホームヘルパー4人に、この職種を選んだ理由や仕事内容などを聞く第2弾で紹介するのは、宝ケア株式会社「宝ケアサービス赤羽」(北区)の渡部利恵さんと、NPO法人東京ケアネットワーク「荒川サポートセンターかどころ」の長浦美加さん。2人はともにサービス提供責任者(サ責)を務めており、サ責ならではの大変さについても語ってもらった。
 
■渡部利恵さん―多忙なサ責の職務、達成感が原動力に
 渡部利恵さんが勤務する宝ケアは、北区で訪問介護事業を54年間展開しており、宝ケアサービス赤羽は同社が運営している3つの事業所の1つある。
 
 渡部さんがホームヘルパーになったのは、10年ほど前。介護福祉士の資格を取得後、最初はデイサービスで働いたが、子どもが小さかったため、朝が早かったり、夜遅かったりすることもあるデイサービスの仕事は厳しいと感じていたところ…

ホームヘルパーに聞く①「みずべの苑」(東京都北区)の大図理紗さんと福島珠美さん🆕

 ホームヘルパーとして働いている人たちは、なぜこの仕事を選び、どのような働き方をしているのか。東京都内の事業所で働く4人に聞いた。1回目は北区の社会福祉法人うららの訪問介護事業所「みずべの苑」で正社員として働く大図理紗さんと、登録ヘルパーで働く福島珠美さんを紹介する。
 
■大図理紗さん―利用者や家族からの感謝の言葉にやりがい
 大図さんは4年前、新卒でみずべの苑に入社した。卒業した東洋大学では、1年生の時から特養やデイサービスなどで実習を行うが、4年生の時に同事業所で訪問介護の実習を受けたことを機に、ホームヘルパーになろうと決めた。
 
 ヘルパーの働いている姿や利用者とのかかわりを見て「かっこいいな」と思ったからだ。1学年上の先輩が勤務していることもあり、同事業所を選んだ。
 
 訪問介護事業所を就職先として選んだ同級生はほとんどおらず…

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