中小事業者の生き残りへ サービスを多角化し他事業者と連携〔カラーズ〕 上🆕

2024年 12月 4日

本社写真本文用

 訪問介護事業者の倒産件数が過去最多のペースで推移する中、東京都大田区で訪問介護を中心に事業を展開するカラーズは、高齢者だけでなく障害者や子育て中の母親への支援などサービスの多角化や他事業者との連携などにより、中小規模ながら着実に成長を続けている。

大田区内に4つの拠点
 カラーズは代表取締役の田尻久美子さんが2011年に設立した。大学卒業後、IT企業で働いていたが、母親が病気で亡くなった時に「看護の手伝いはしていたけれど、疾患を抱えていることの精神的な辛さが理解できなかったことが心残りになり」、母親にできなかった分を支援が必要な人のために行えればと介護業界に転じた。

 大手の事業者などで経験を経て独立。当初は「高齢者の介護保険サービス事業者」として訪問介護事業を始めた。

大森町ホーム

4拠点のうち訪問事業の中心である大森町ホーム

 しかし、事業を行っていると、利用者の中に障害を持つ高齢者がいたり、田尻さん自身が3人の幼い子どもを抱えながら、肺がんの父親の介護をしたりする中で「高齢者だけじゃなく、ライフステージに応じて支援が必要な人がたくさんいる」ことに気付いた。

 そこで「制度が先にあるのではなく、生活ニーズや地域のニーズを基にやっていこう」と考え、高齢者の介護に加え、障害サービスや子ども・子育て支援などにも着手し、「介護事業者」から「地域を支える事業者」へと事業領域を拡大していった。

 「制度とか、障害の有無とか、年代とかで区切ってサービスを提供するのでは、生活全体を支えられないのではないかということで、制度で区切らない、できるだけ面で支援できるように、いろいろなことに対応できるようにしていこうとやってきたら、サービスのラインナップがすごい数に増えてしまった」と田尻さんは笑う。

 現在、大田区の大森西地区を中心に本社・大森町ホーム・研修センター・放課後等デイの4拠点を設け、60人の従業員で事業を展開している。他の経営者からは60人で数多くのサービスを提供していることに驚かれるという。

 本社には本部のほか福祉用具事業部、居宅介護支援事業部、一般社団法人「大田区支援ネットワーク」の本部がある。全国的にケアマネジャーが不足していると言われているが、カラーズの居宅介護支援事業部は8人のケアマネを抱えている。

 大森町ホームは訪問事業の中心で、訪問介護・訪問看護・定期巡回などのスタッフが詰めている。面白いのは本来、駐車場スペースだった場所を畑にしていること。放課後等デイサービスを利用している子どもたちと若いボランティアの人たちで大豆やジャガイモなどを育て、収穫した野菜は自分たちで調理して食べている。

大森町ホーム2階
大森町ホーム1階

大森町ホームは2階(上)が事務所、1階はイベントを行ったり、地域の人と交流したりするスペースとなっている

 研修センターでは初任者研修や「マンツーマン講座」に加え、学研教室など教育・研修の場として使うほか、国内外40カ所以上で子どもたちへの食料支援を行っているNPOグッドネーバーズの活動場所としてスペースの貸し出しも行っている。

ホームヘルパーの半数が常勤雇用
 これらの事業のうち、訪問サービスについては、高齢者向けに訪問介護や訪問看護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護など、子ども・子育て支援では産前産後ケアや家事代行など、障害サービスに関しては居宅介護や同行援護など、合わせて12種類のサービスを提供している。

 これらのサービスを行っているのは30人のホームヘルパーと看護師で、それぞれ高齢者だけでなく、障害者や子育て支援など複数の業務をこなしている。

 それが可能なのは、半数が常勤雇用で8割が介護福祉士の資格を持ち、さらに保育士や同行援護の資格など、介護福祉士以外の資格を持っている人も多いためだ。中には美容師の資格を持つ人もおり、高齢者や子育て中の母親、障害者などへの訪問美容も行っている。

 職員の有資格率が高いのには理由がある。それは、自ら資格者の養成を行っているからである。事業を立ち上げて間もなく、田尻さんは短大の介護の教員と出会い、東京都の認可を受けて初任者研修を行う講座を立ち上げた。

研修センター本文用

研修センター

 そこで研修を受けた人たちがそのままカラーズに入社するケースが多く、すでに他の資格を持っていたり、働きながら介護福祉士など他の資格を取得したりしていることが、多様なサービス提供の下地になっている。

 ちなみに、大田区には視覚障害者の外出を支援する人を養成する同行援護従業者養成研修の講座がなかったので、その講座も自ら立ち上げている。

 このように、経営を多角化したことは、経営面でも職員の処遇面でも、大きなプラスとなった。

 経営面では「コロナ禍でも介護報酬が厳しくても何とかなっているのは、いろいろな柱があったから。事業が1つだと、その事業がうまくいかなくなった時に会社が立ち行かなくなってしまうのではないか、という思いはあった」と田尻さんは言う。

 事業を進める中で、結果として多角化になったといえ、当初から頭の片隅にそうした考えがあったことで、地域のニーズに応じてサービスを拡大していくことに躊躇することはなかった。(下に続く)

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中小事業者の生き残りへ サービスを多角化し他事業者と連携〔カラーズ〕 下🆕

■多様なサービス提供は効率的な働き方にも寄与
 一方、処遇面では、いろいろなサービスを組み合わせることにより、ホームヘルパーの待機時間を極力減らすことで効率的な働き方を実現した。大田区内に事業を限定していることで、移動時間が少なくて済むことも大きい。
 
 もっとも、サービスを組み合わせるために職員のスケジュールを調整するのは大変な作業だ。担当者の1人である訪問介護看護事業部長の吉田理枝さんによると「確かに大変だが、比較的時間の融通が利く定期巡回などをうまく組み込むことで対応している」のだという。
 
 なお、田尻さんがIT業界出身ということで、ヘルパーの記録ソフトや連絡用のチャットシステム、事務では会計・人事労務ソフトなど、ICTを活用することへの抵抗がなく、積極的に取り入れていることも業務の効率化に貢献している。
 
 教育・研修事業でユニークなのがマンツーマン講座だ。資格を持っているけれどブランクがあってやり方を忘れてしまった人、これから家族の介護を始めようとしている人…

介護報酬改定で経営が逼迫なら支援策を 小規模事業者の継続は協働化がカギ 石田路子・名古屋学芸大学客員教授🆕

 今回の介護報酬改定では、訪問介護の基本報酬がすべて引き下げられた。これにより、今後、訪問介護はどうなっていくと考えられるか。また、打撃を受けるとみられる小規模事業者はどうしたらいいのか。介護報酬改定を議論してきた厚生労働相社会保障審議会介護給付費分科会の委員を務め、議論に参加してきた石田路子・名古屋学芸大学客員教授に聞いた。
 
■処遇改善の方向性は評価

――今回の介護報酬改定の内容を全体としてはどう評価していますか。
 
 介護人材不足がいよいよ深刻化する中、処遇改善をとにかくやろうという、その方向性そのものについては間違いないし、今回は処遇改善に向けての施策がかなり講じられたのは確かだと思います。
 
――訪問介護の基本報酬だけが引き下げられたことについては。
 
 収支差率に基づいて厚労省が判断をしたということになると思います。昨年度の実績では、特養が前年度に比べマイナス1. 0%、老健がマイナス1. 1%だったのに対し、訪問介護は7. 8%とかなり大きなプラスになりました。
 
 さらに、定期巡回・随時対応型訪問介護が11. 0%、夜間対応型訪問介護については9. 9%というように、高い数字になっているものですから、訪問に関しては…

ホームヘルパーに聞く②「宝ケアサービス赤羽」の渡部利恵さん、「荒川サポートセンターかどころ」の長浦美加さん🆕

 東京都内の事業所で働くホームヘルパー4人に、この職種を選んだ理由や仕事内容などを聞く第2弾で紹介するのは、宝ケア株式会社「宝ケアサービス赤羽」(北区)の渡部利恵さんと、NPO法人東京ケアネットワーク「荒川サポートセンターかどころ」の長浦美加さん。2人はともにサービス提供責任者(サ責)を務めており、サ責ならではの大変さについても語ってもらった。
 
■渡部利恵さん―多忙なサ責の職務、達成感が原動力に
 渡部利恵さんが勤務する宝ケアは、北区で訪問介護事業を54年間展開しており、宝ケアサービス赤羽は同社が運営している3つの事業所の1つある。
 
 渡部さんがホームヘルパーになったのは、10年ほど前。介護福祉士の資格を取得後、最初はデイサービスで働いたが、子どもが小さかったため、朝が早かったり、夜遅かったりすることもあるデイサービスの仕事は厳しいと感じていたところ…

ホームヘルパーに聞く①「みずべの苑」(東京都北区)の大図理紗さんと福島珠美さん🆕

 ホームヘルパーとして働いている人たちは、なぜこの仕事を選び、どのような働き方をしているのか。東京都内の事業所で働く4人に聞いた。1回目は北区の社会福祉法人うららの訪問介護事業所「みずべの苑」で正社員として働く大図理紗さんと、登録ヘルパーで働く福島珠美さんを紹介する。
 
■大図理紗さん―利用者や家族からの感謝の言葉にやりがい
 大図さんは4年前、新卒でみずべの苑に入社した。卒業した東洋大学では、1年生の時から特養やデイサービスなどで実習を行うが、4年生の時に同事業所で訪問介護の実習を受けたことを機に、ホームヘルパーになろうと決めた。
 
 ヘルパーの働いている姿や利用者とのかかわりを見て「かっこいいな」と思ったからだ。1学年上の先輩が勤務していることもあり、同事業所を選んだ。
 
 訪問介護事業所を就職先として選んだ同級生はほとんどおらず…

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行政と一体でホームヘルパーを養成 練馬区介護サービス事業者連絡協議会🆕

 東京都練馬区の人口は74万人で、23区では世田谷区に次いで人口が多い。区内には約200カ所も訪問介護事業所があるが、ホームヘルパーが足りなくて回せないという声はあまり聞かない。それは、事業者と行政が一体となって養成しているからだ。
 
■独自の「介護スタッフ研修」を実施
 練馬区の介護事業者の団体である練馬区介護サービス事業者連絡協議会(事連協)の副会長で、事連協訪問介護部会の部会長を務める加藤均氏(みんなのかいご代表取締役)によると、そのきっかけとなったのは、2017年に総合事業が始まったこと。
 
 その担い手をどうするかが問題となった時に、同部会から区に総合事業の担い手を養成する「介護スタッフ研修」を提案し、ホームヘルパーを創出する仕組みを作ることになった。
 
 この取り組みがユニークなのは、いきなり初任者研修を行うのではなく…

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