■リモートが普及して思わぬメリットも
2018同時改定で、いい方向に歯車が動き出したと思っていました。しかし2020年春…。新型コロナが流行すると感染症法の「2類相当」となり、最初のころはすべて入院隔離だったから、病院は完全な鎖国状態になってしまいました。
【ケース3】ある病院では、プライバシー保護のため、看護師は患者を名前でなく番号で呼ぶことになっていた。2020年、コロナが流行して面会禁止に。あるナースは夜勤のとき、高齢の患者に対して「私の声がこの人の、人生の最後の声になるかもしれない」と思った。そう思ったら番号でなんか呼べなくなって、本人の耳元で、ほんとは近づいてはいけないのだろうけど、「Cさん」と呼びかけたという。「辛くないですか、そばにいるから、大丈夫だからね」と。長い時間ではないけど、そう声をかけて、部屋を後にした。
この3年間、とりわけ病院ではコロナの感染対策が至上命題になって、いろいろなことが制限されました。病棟ナースたちは大事なことは何か、気づいたのではと思います。入院という環境がもたらす弊害とか、人として生きることを奪ってしまうとか。
2021年になると、リハビリスタッフがリハの様子を撮影し、その動画を在宅スタッフに送って見てもらう、といったリモートでの連携が整ってきました。カンファレンスも…
(中)その人らしさを知る極意を教えましょう
■入院時情報提供書は有益情報の宝庫
2018改定の前も、ケアマネジャーから病院への情報提供はされていました。当時、病院側では連携室のMSWがケアマネからの情報を受け取り、保管するわけです。スキャンして電子カルテに落とし込むとか。
MSWがそうやって保存しても、医師や看護師がそれをわざわざ開いて見るのは、退院が近づいてから。入院治療中にこの情報が見られることはほとんどなかったんです。
2018改定後は病院も入退院支援となったので、ケアマネからの情報を早くから重視するようになっているはずです。
ケアマネが作成する入院時情報提供書の書式も、2018年度に改訂されました。これはよくできてて、「3.本人/家族の意向について」には本人の趣味とか生活歴などを入力します。
“教師をしていて定年時は校長だった、やがて認知症が出て、家の中に閉じこもり、自分が自分でなくなる怒りや焦りを奥さんにぶつけることもある。地域の人たちは立派な校長先生という意識で見守っている。デイサービスも初めは拒否傾向があったが、デイのケアスタッフから先生と呼ばれ、最近は穏やかに過ごされている”という具合です。
そんなことが書かれていると、誤嚥性肺炎で救急搬送されてきて、病室では大声出して暴れ、点滴も抜いてしまうような目の前の患者が、実はこういう人生を生きてきた人だとわかります。
ケアマネはこういう思いに寄り添っている、ということも読み取れるわけですね。そしてこれは、やがてACPに繋がっていくと思います。
ただ、ケアマネジャーも記入することを躊躇する部分があります。とりわけ、何を願っているか…
(上)医療と介護は2018同時改定で重なった
宇都宮宏子さんの連載「おうちへ帰ろう」は、前回配信で終了し、今回から、宇都宮さんが地域包括ケアを縦横に語る不定期連載となります。「これからは地域のプレイヤーを見つめたい」は、上・中・下の3回、お届けします。
これまで私は、ひとりでも多くの高齢者が住み慣れたわが家で人生をまっとうできるように、病院からの在宅移行支援に軸足を置いて、医療や介護の専門職と一緒に考え、その手助けをしてきました。
「医療と介護2040」の連載でも触れたように、独立する前は大学病院で在宅医療移行支援に携わっていて、「宇都宮宏子オフィス」を立ち上げたのは2012年。昨年、10周年を迎えました。
2020年春、新型コロナの流行が始まって緊急事態宣言が出され、病院や在宅や介護の現場や療養する本人・家族、そして私の仕事も、さまざまに影響を受けました。
あれから3年。一時期は嘘のように人通りが途絶えた京都の街も、少しずつ、日本人観光客が戻り、外国人観光客が増え始め、賑わいを取り戻してきています。私も以前のように、研修や講演で全国各地を訪れるようになりました。
地域包括ケアシステムは「住み慣れたわが家で人生をまっとうする」ことを実現するためにあると思っています。
「わが家」が「地域」に置き換わってもいいんですけど、要はエイジング・イン・プレイス。その実現のためには、在宅ケアサービスの充実だけじゃなく、地域性や家族や、さまざまな課題をクリアしないといけません。
その課題の中でも、私は病院のあり方が難題と思っていました。病院という空間があまりにも“治す医療”から転換できずにいる、と感じていたのです。在宅移行支援に軸足を置いたのは、そのためです。
■ケアマネから病院への情報提供加算、要件変更の意味
在宅移行支援という仕事をずっとやってきて、1つの節目になったと思うのは、2018年度の診療報酬・介護報酬同時改定です。この同時改定は、病院が変わる転機となりました。
まず介護報酬改定では、居宅介護支援事業所(ケアマネ事業所)に対して、利用者の入院後3日以内に、どんな方法であれ病院に情報提供することに加算をつけました。
ケアマネジャーが病院に情報提供するとつく加算の要件は、従来は「7日以内に、医療機関を訪問して持っていく」でしたが、期限を短縮し提供方法の縛りをなくしたのです。
改定前、「ケアマネジャーは入院時情報提供書を1週間以内でいいから、病院に直接持っていきましょう」だったのが、「faxでもいいから3日以内に送ってよ」となった。
その3日っていうのは、受療した後の生活がその前と変わりそうな人や…
第9回 かかりつけ医機能は多職種のチーム
新田國夫医師の連載「治し、支える」の中で、「本来のかかりつけ医」について書かれています(第23回)。共感しながら、医師一人ではなく、「かかりつけ医機能」を提供できる多職種チームで実践していくことだろうなと、感じています。
治す医療と支える医療は、人生を生きる人にとって、連続したものであるはずなのに…
第8回 外来患者に対しても在宅療養を見据えて
久しぶりに多くの観光客でにぎわう京都です。春になると、当たり前のように花が咲き、まぶしい新緑でいっぱいになる木々を見ていると、不思議と背筋を伸ばして、前を進もうと元気をもらえますね。
2025年の地域包括ケアシステム構築に向けて、次回2024年は、介護報酬とのダブル改定を迎えます。そして、2022年度の診療報酬改定は…
第7回 実践事例を時間軸で振り返るケーススタディ
2022年、新しい年が明けました。雪が多い冬ですね。恒例の伏見稲荷への初詣も雪景色でした 。当たり前の風景が、決して当たり前ではないということ。感謝の気持ちでお詣りしました。
昨年秋、大切な人を、事故で亡くしました。
ターミナル期のないお別れ、喪失が、残された人間の生きようとする力…
第6回 あなたの思いを探る――人生を遮断しない入院医療
退院支援が必要な患者へ伝えられる医師からのIC(インフォームドコンセント)内容は、つらいニュースです。コロナ禍で、家族面会の制限があり、このようなつらい説明さえ……
【筆者紹介】宇都宮宏子(うつのみや・ひろこ) 在宅ケア移行支援研究所宇都宮宏子オフィス代表
訪問看護師や大学病院の退院調整看護師として研鑽を積み、2012年に在宅ケア移行支援研究所を設立。「退院支援の伝道師」として活躍する。
第5回 「退院支援の3段階」の第1ステップ
■地域包括ケア時代、病院の機能も変わった
「あの看護師さんが紹介されたら、もうアカンらしいでぇ」。
私のことが、そんなふうに患者さんの間で噂されている。病棟看護師が申し訳なさそうに教えてくれた時は、さすがの私もショックだったなぁ。積極的な治療が困難になった肺がん患者の退院支援が多く依頼される病棟だったので……
【筆者紹介】宇都宮宏子(うつのみや・ひろこ) 在宅ケア移行支援研究所宇都宮宏子オフィス代表
訪問看護師や大学病院の退院調整看護師として研鑽を積み、2012年に在宅ケア移行支援研究所を設立。「退院支援の伝道師」として活躍する。
第4回 思いをかなえるための情報共有と共同意思決定
■当事者不在の中で決めようとしていいの?
2002年7月、大学病院の地域ネットワーク医療部看護師として、病棟からの「退院調整依頼箋」をもって、MSWと共にコーディネータ―として活動を始めました。
依頼箋には医師と看護師が記載する欄があり、医師の欄には「○○癌、ターミナル期にある、疼痛コントロール中、家族は高齢な妻、転院調整」などが書かれています。看護師が記載する欄には、「寝たきり状態、全介助」といった……
【筆者紹介】宇都宮宏子(うつのみや・ひろこ) 在宅ケア移行支援研究所宇都宮宏子オフィス代表
訪問看護師や大学病院の退院調整看護師として研鑽を積み、2012年に在宅ケア移行支援研究所を設立。「退院支援の伝道師」として活躍する。
第3回 時間軸で振り返る事例検討――見えてくる匠の技、退院支援の3段階
「病院という空間では、見えないです」。
がん患者さんの在宅療養移行支援過程を、病院・在宅で働く看護職と一緒に振り返り事例検討会をしたあと、1人の看護部長がつぶやきました。「対話の時間が持てないというのは言い訳になるけど、『病気を治して欲しい』という治癒を諦められない患者・家族の姿しか、見えないんです」。
病院医療者にとっては、在宅医療者からのフィードバックがなければ、退院後の様子が見えないんですよね。■「最期まで母はおかあちゃん」
1人暮らしでも「家がええなぁ」と、在宅療養を選択した患者さんは、夫や子供たちと過ごした思い出が詰まった我が家で、コロ(犬)が見守る中、息を引き取りました。
なんと、娘さんが、お母さんの在宅療養の様子を地元の新聞に投稿されていたのです。娘さんは……
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