在宅医療の安全確保に関する調査結果を公表 在支協

2022年 5月 16日

 一般社団法人全国在宅療養支援医協会(在支協)は4月、「在宅医療の安全確保に関する調査報告書」を公表した。この調査は1月に埼玉県ふじみ野市で訪問診療医殺害事件が起こったことを契機に、2月に実施された。

 在支協の会員と在宅医療政治連盟の会員のうちメール連絡を許諾している会員を対象に、Webサイトのアンケートフォームに入力する方法で調査した。対象となる会員は在支協775人、政治連盟195人、計970人。回収数は在支協80件、政治連盟70件で計150件、回収率は15.4%であった。

 「理不尽な要求やクレーム」について、訪問医の57%が「毎年または数年に1回以上」経験していた。その内容で最多は「病気・状態に対する理解や治療方針」で43%であった。

 「身の危険を感じるような経験」は、「毎年または数年に1回以上ある」と「ごく稀にある」の合計で40%となった。恐怖を感じる「脅し・暴言」が30%、「ハサミや刃物による脅し・危険行為」が18%であった。

 具体的な行為として以下が挙げられた。(抜粋)

・医学的根拠のない診療行為を要求
・過剰な検査や処方日数制限以上の薬、不要な薬を要求
・夫を生き返らせてほしいと要求
・亡くなった患者を生き返らせないとお前も同じ目に遭わせると恫喝
・医者が診ているのに認知症が進むのはおかしいとクレーム
・治療の結果が思い通りにならないとクレーム
・看取り時、女性医師が壁に追い詰められた

現場での危険に備えた取り組みとして、以下が挙げられた。(抜粋)

・初回訪問前にできるだけ多くの情報を集める
・複数人で訪問
・努力しても信頼関係が築けない場合は診療を断る
・弁護士を介して断る
・患者と家族を「様」でなく「さん」で呼び、対等な関係を意識づける

 行政などへの要望としては以下が挙げられた。(抜粋)

・診療拒否や途中退室が応召義務違反とならないように見直し
・努力しても信頼関係が築けない患者には診療拒否できることを広報
・老いや死を受け入れる心構えの啓発
・医療保険制度や介護保険制度について市民が学ぶ機会
・暴力を受けた医療者への補償

 報告書は、「病気と状態に対する理解を深め、治療方針について患者・家族等と医療者のあいだで合意形成を進めることが重要」で、2022年度診療報酬改定で在宅療養支援診療所/病院の届出要件に追加された「意思決定支援に関する指針の策定」が役立つ、と考察する。

 また、「医療制度や健康保険について、事前にパンフレットなどで説明し同意を得ることで、信頼関係の証左とする対応が考えられる」と助言する。

 「身の危険を感じるようや経験」は60%が「なし」であった。地域性や診療科目など医療機関の特性によって、トラブルを起こしやすい患者・家族が生じやすくなる可能性も考慮する必要がある。「精神疾患の患者」による刃物の事案、認知症が背景にあるケースについては、抗議や法的責任を求めることが難しくなっている、と指摘している。

報告書の詳細:202204_houkoku.pdf (zaitakuiryo.or.jp)

 

このカテゴリーの最新の記事

このカテゴリはメンバーだけが閲覧できます。このカテゴリを表示するには、年会費(年間購読料) もしくは 月会費(月間購読料)を購入してサインアップしてください。

「アスヤク」に薬剤師会・薬局間の情報交換機能🆕

 ネクスウェイ(東京都江東区)は薬局・製薬企業間のドラッグインフォメーション(DI)の情報伝達に特化した「アスヤクDIポータル」をリニューアルし、薬剤師会・薬局コミュニケーション機能を実装した「アスヤク薬局ポータル」として提供を開始した。  新機能は日本薬剤師会と協力し、都道府県薬剤師会と薬局とのデジタルコミュニケーションを支援する。薬剤師の業務に必要な製薬企業のDI取得と都道府県薬剤師会からの通知を取得できる無料の薬局情報プラットフォームとして提供する。...

多可赤十字病院の経営改善業務を受託 ユカリア

 ユカリア(東京都千代田区)は、兵庫多可町の多可赤十字病院の「多可赤十字病院経営改善コンサルティング業務」に関する公募型プロポーザルの候補者として採択され契約した。  同社は低稼働・低単価・高コスト体質など病院が抱えるあらゆる課題を解決し、経営の高度化を実現するコンサルティング機能を、現場伴走型で提供している。...

簡単に装着できるアシストスーツ発売 ダイヤ工業

 医療用品メーカーのダイヤ工業(岡山市)は、衣服を着るように簡単に装着できる新アシストスーツ「DARWING UT-Rise(ダーウィン・ユーティー・ライズ)」を発売した。介護現場での移乗介助や重量物の運搬など、さまざまな場面で利用者の負担を軽減する。

 上下に分かれた形状で衣服を着るように簡単に装着できるため、従来のアシストスーツ着用時の課題とされていた装着の難しさや装着指導の困難が解決された…

顔認証による介護施設での誤薬防止システム開発

 理経(東京都新宿区)は顔認証を利用した開発技術を応用し、タカゾノ(大阪府門真市)製の分包機と連携した、介護施設などを対象とした誤薬防止システム「メディアシ」を開発した。  また、メディアシを使ったサービスの販売を促進するため、タカゾノと代理店契約を締結。理経はメディアシを構成するアプリケーションの開発・導入・保守など、タカゾノは介護施設などに対するサービスの提案・契約窓口業務などを担当する。...

精神障害者と働くことで上司らの7割が前向きに

 パーソル総合研究所(東京都港区)が実施した「精神障害者雇用の現場マネジメントについての定量調査」で、精神障害者と働くことに対して、事前の想定よりもポジティブだったと感じている上司・同僚の割合が約7割だったことが分かった。  同テーマで2回目となる今回の調査では、精神障害のある従業員と共に働く上司・同僚へのアンケート調査を実施した。調査対象となったのは精神障害者と働く上司220人、同僚509人、その他の障害者と働く上司348人、同僚1361人、障害以外の事情がある人と働く上司300人、同僚1000人。...

1週間無料でお試し購読ができます  詳しくはここをクリック

新着記事は1カ月無料で公開

有料記事は990円(税込)で1カ月読み放題

*1年間は1万1000円(同)

〈新着情報〉〈政策・審議会・統計〉〈業界の動き〉は無料

【アーカイブ】テーマ特集/対談・インタビュー

コラム一覧

【アーカイブ】現場ルポ/医療介護ビジネス新時代

アクセスランキング(7月15-21日)

  • 1位
  • 2位
  • 3位 90% 90%
メディカ出版 医療と介護Next バックナンバーのご案内

公式SNS