順天堂大学大学院医学研究科スポートロジーセンターの研究グループは、東京都文京区在住の高齢者を対象とした調査により、肥満で握力が弱い「サルコペニア肥満」の人は、軽度認知機能障害と認知症のリスクが高いことを明らかにした。
調査を行ったのは染谷由希特任助教(現スポーツ健康科学部助教)、代謝内分泌内科学・スポートロジーセンターの田村好史准教授、河盛隆造特任教授、綿田裕孝教授らのグループ。
コホート研究「Bunkyo Health Study」に参加した65~84歳の高齢者1615人(男性684人、女性931人)を対象に、身長・体重測定、握力測定、認知機能検査を実施した。
まず身長と体重から算出されるBMIが25kg/m²以上を「肥満」とした。一方、日本では高齢の肥満者で、骨格筋量と筋力の両方が低下しているサルコペニアを合併している人はほとんどいないため、研究では筋力低下のみを基準として使い、握力が男性で28㎏、女性は18.5kg未満を「サルコペニア」と定義した。
次に、肥満もサルコペニアも該当しない「正常」、肥満のみ該当する「肥満」、サルコペニアのみ該当する「サルコペニア」、両方とも該当する「サルコペニア肥満」の4群に分類し、各認知機能検査の点数や軽度認知機能障害、認知症の有病率を比較した。
その結果、正常・肥満・サルコペニア・サルコペニア肥満の順で、各認知機能検査の点数が低下し、軽度認知機能障害・認知症ともに有病率が増加していることが明らかになった。
また、年齢や教育歴、高血圧や糖尿病などの基礎疾患を調整した結果、サルコペニア肥満は、正常と比べて軽度認知機能障害のリスクが約2倍、認知症のリスクが約6倍になることが示された。認知症では、サルコペニアだけでも正常の約3倍のリスクになることが明らかになった。
今回の研究により、握力やBMI(身長・体重)といった簡便な方法によって、認知機能低下の早期発見に役立つことが示唆されたが、サルコペニア肥満と認知機能低下が関連するメカニズムや、認知機能低下の原因など不明な点が多く残されているため、今後さらなる研究を進めていく方針だ。