人材不足とサービス整備に危機感 社保審部会

2022年 8月 27日

 社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)介護保険部会は8月25日、地域包括ケアシステムの更なる深化・推進について議論した。

 この部会は介護保険の制度改正に影響力をもつ。介護保険制度は創設から20年以上が過ぎ、いくつもの課題を抱え、岐路に立っている。今後の方向性を考えるために、この日の印象的な発言を紹介したい。

 ある委員は施設サービスの整備に関連して、「大都市部では施設が今後必要となる一方、地方では特養に空床が生じている。この地域差にどう対応すべきなのか。東京に住む人の多くは地方出身者だから、それを生かしてうまくマッチングできないか」といった趣旨を述べた。

 特養への入所は現在、要介護3以上に制限されている。だからこの発言は、東京の人は要介護3や4や5になったら故郷の特養に“里帰り”して最期まで過ごしなさい、という意味と理解できる。

 これは2015年6月、日本創成会議が発表した「東京圏高齢者を地方移住」との提言を思い起こさせる。当時、この提言に対しては地域包括ケアを推進する立場から批判が起こったが、介護保険部会では、特に反論はなかった。

 別の委員は在宅サービスの基盤整備に関連して、(地域密着型サービスである)看多機を居宅サービスに位置づけ、規模拡大を可能にし広域利用を解禁してはと提案した。もちろん、サービスの主旨に沿った上で、という。

 地域密着型サービスの利用は、その地域に暮らす人に限定される。利用者の生活を24時間、地域で支えるサービスであり、地域包括ケアシステムを実現するためのサービスといってもいい。

 それを、地域の縛りのない居宅サービスに転換――規制緩和――するという提案である。そうすれば、事業者の参入は確かに増えるだろう。

 地域包括ケアシステムとは、“住み慣れた地域で最期までその人らしく暮らす”ためのケアシステムである。2委員の発言を聞いていると、これが地域包括ケアシステムの更なる深化・推進なのか? と疑問が生じる。

 2委員が上記のように提案せざるを得ないほど、介護人材不足は深刻で、大都市での高齢化(というより長寿化)は加速し、看多機や定期巡回サービスの整備は追い付いていない、ということなのかもしれない。でも、それでいいのだろうか。

 日本の介護は今日、世界的にみても質が高い。コロナパンデミックの初期、欧米の高齢者施設では多くの死者を出した。しかし、日本はそうならなかった。それは、介護保険が根付き、尊厳ある高齢者ケアが追求されてきたことの大きな成果だ。

 地域包括ケアシステムは、一般市民にまで浸透しているとは、とても言えない。厳しい状況下でも、ほかにやるべきことがあると思えてならない。

 第96回介護保険部会の内容は①在宅サービスの基盤整備、②在宅医療・介護連携、③施設サービスの基盤整備、④施設入所者に対する医療提供、⑤ケアマネジメントの質の向上、⑥科学的介護の推進、⑦地域における高齢者リハビリテーションの推進、⑧住まいと生活の一体的な支援、の8項目。

 審議会の冒頭で事務局(厚労省老健局)は、①~⑧の現状と課題を以下の通り説明した(要約)。これらは、今の介護保険制度の課題といえる。

 ①…訪問系サービスで人材不足が深刻。2021年介護報酬改定の審議報告では「定期巡回・随時対応型訪問介護看護、(看護)小規模多機能型居宅介護の普及などに加え、人材確保・サービス確保に資する介護の経営の大規模化、サービス類型のあり方も含めて検討」と指摘。

 ②…医療計画と介護保険事業(支援)計画の整合性を確保することが重要。2014年に創設された在宅医療・介護連携推進事業は20年の介護保険法改正で、PDCAサイクルに沿った取り組みを継続的に行うよう、見直されている。

 ③…2040年に必要な施設サービス量は30%増と見込まれる。都市部を中心に基盤整備が必要。その一方、地方を中心に、高齢者人口の減少により特養待機者も減少し、定員が埋まらず空床が生じている。新築の特養の9割以上がユニット型だが、2020年の特養ユニット化率は47.1%にとどまる。既存の従来型多床室からのユニット型への転換が十分に進んでいない。

 ④…特養入所者は原則、要介護3以上となり、入所者の平均要介護度は上昇している。医療ニーズも高まっていると考えられる。配置医師以外の外部の医療機関との協力・連携体制について調査を行う予定。

 ⑤…地域共生社会への対応など状況の変化をふまえ、法定研修カリキュラムの見直しを検討。研修の受講負担を軽減するため、ICTを活用した環境整備を行っている。

 ⑥…介護保険総合データベースは2020年10月からNDBとの連結解析が可能。21年度からはLIFE(科学的介護情報システム)の運用を開始。

 ⑦…質と量の双方から、リハビリテーションサービス提供体制を構築する必要がある。

 ⑧…高齢者の住宅に関する不安は、賃貸住宅居住者ほど高い。その一方、賃貸人の7割が高齢者に対して拒否感をもっている。賃貸人が高齢者を入居制限する理由は「孤独死などの不安」「保証人がいない」が多い。

このカテゴリーの最新の記事

このカテゴリはメンバーだけが閲覧できます。このカテゴリを表示するには、年会費(年間購読料) もしくは 月会費(月間購読料)を購入してサインアップしてください。

医療と介護の報酬改定、方針が出揃う

 12月11日、令和6年度の診療報酬改定の基本方針と介護報酬改定の審議報告案が出揃った。診療報酬改定は社会保障審議会の医療保険部会と医療部会、介護報酬改定は介護給付費分科会がまとめた。それぞれの基本認識・視点は以下の通り。共通する(と考えられる)項目を同じ色で示した。 【診療報酬改定にあたっての基本認識】●物価高騰・賃金上昇、経営の状況、人材確保の必要性、患者負担・保険料負担の影響を踏まえた対応 ●全世代型社会保障の実現や、医療・介護・障害福祉サービスの連携強化、新興感染症等への対応など医療を取り巻く課題への対応...

診療報酬改定へ支払側・診療側が見解 中医協

 中央社会保険医療協議会(厚生労働相の諮問機関)は12月8日、来年度の診療報酬改定に関して支払側委員と診療側委員双方が基本的な見解を述べた。  支払側委員は医療保険制度の持続可能性への懸念や国民負担の状況などから、診療報酬の引き上げに反対した。  これに対し、診療側委員は政府の重要政策とされる医療従事者の賃上げ、物価高騰に対応するため、従来以上の大幅なプラス改定を求めた。...

存在意義を問う声も 第109回介護保険部会

 12月7日、第109回社会保障審議会介護保険部会が開かれ、「給付と負担」について議論し、「『介護予防・日常生活支援総合事業の充実に向けた検討会』の中間整理及び総合事業の充実に向けた工程表」「改正介護保険法の施行等」について報告された。
 
 給付と負担については、介護保険サービス利用時の利用者負担が2割となる「一定以上所得」の範囲をどう拡大するかについて議論された。昨年12月にこの部会がまとめた「意見書」では…

多床室の室料負担に反対意見 給付費分科会

 12月4日、第234回社会保障審議会介護給付費分科会が開催され、令和6年度(2024年度)介護報酬改定に向けて「運営基準に関する事項」「多床室の室料負担」「複合型サービス(訪問介護と通所介護の組合せ)」「その他(基準費用額、総合マネジメント体制強化加算、終末期の薬学管理、定期巡回・随時対応型訪問介護看護における訪問看護関連加算等の取扱い)」について議論した。  それぞれの主な論点は以下の通り。...

リハ・栄養・口腔管理の一体化を推進 中医協

 中央社会保険医療協議会(厚生労働相の諮問機関)は12月1日、リハビリテーション・栄養管理・口腔管理の一体化や医療DX、小児・周産期医療、長期収載品など、診療報酬改定に向け幅広いテーマで議論を行った。  このうちリハ・栄養・口腔管理の一体化は、介護報酬・障害福サービス等報酬との同時改定となる今回の改定は、推進のための方策を検討するのに絶好のタイミングであることから、委員からは一体化の推進を求める発言が相次いだ。ただ、具体策については診療側委員と支払側委員で意見が分かれる面もあった。...

1週間無料でお試し購読ができます  詳しくはここをクリック

新着記事は1カ月無料で公開

有料記事は990円(税込)で1カ月読み放題

*1年間は1万1000円(同)

〈新着情報〉〈政策・審議会・統計〉〈業界の動き〉は無料

【アーカイブ】テーマ特集/対談・インタビュー

コラム一覧

【アーカイブ】現場ルポ/医療介護ビジネス新時代

アクセスランキング(5月6日-12日)

  • 1位
  • 2位
  • 3位 90% 90%
メディカ出版 医療と介護Next バックナンバーのご案内

公式SNS