かかりつけ医のイメージは「専門医を紹介する」
『社会保険旬報』に、かかりつけ医のイメージに関する興味深い記事が出ていた(岩本伸一.「かかりつけ医」のイメージは医師と府民の理解に相違がある. 2024.No.2920)。
大阪府医師会が実施した、かかりつけ医に関する調査に基づくレポートで、筆者は調査委員会委員長である。この調査は2023年3月にインターネットで実施され、医師会員1047人、府民1200人が回答した。
かかりつけ医に関してはこの連載でも述べてきたように、1980年代から今日まで議論が続けられている。実に40年以上だ。
2013年には一応、かかりつけ医とかかりつけ医機能が定義されたが、実効性をもって社会に根付いたとはいえない。新型コロナ禍では、かかりつけ医の力を十分に発揮できなかった。
そんななかで実施された大阪府医師会の調査は、かかりつけ医に対する医師(大阪府医師会員)と一般市民(府民)の現在のイメージや理解度を知る機会となった。
かかりつけ医のイメージとして、医師会員も府民も多いのは「必要な時には専門医・専門医療機関を紹介」「距離が近い」「長年通院している(距離は不問)」「何でも相談できる」であった。
「介護認定審査会に必要な主治医意見書を記載している」「地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する」「往診や訪問診療をしている」「健康相談や保健指導を行っている」ついては、医師の回答は「かかりつけ医のイメージと一致・やや一致」が多かった。
一般市民は「どちらともいえない・一致しない・やや一致しない」が多く、乖離していた。
総じて、世の中に定着しているかかりつけ医のイメージや役割はそんなものだろう、と思う。大阪のような大都市には多くの医療機関があり、府民は症状や病気に応じて受診先を選ぶのだろう。診療所で対応できなければ、専門医を紹介する。
つまり、かかりつけ医はゲートキーパーの役割しかない、ということになる。回答した府民は20代から70代と、比較的若い世代であることも影響しているだろう。
新たな地域医療構想に何が必要か
5月31日、厚労省の「第5回 新たな地域医療構想等に関する検討会」に参考人として参加した。
新たな地域医療構想は、2040年を見据えた医療提供体制の考察を抜きにして考えられない。そこではかかりつけ医のあり方が重要視されることは間違いない。私が参考人として呼ばれたのも、そのためだと思う。
ただ、世の中に定着しているかかりつけ医のイメージは、上記の調査からも、「必要な時には専門医・専門医療機関を紹介」「距離が近い」といったものだ。そんな情勢をふまえて、検討会で何を話せばよいか、悩んだ。
検討会の第1回で事務局が提示した資料には、医療需要の変化として「外来患者数は既に減少局面にある医療圏が多い」「在宅患者数は多くの地域で今後増加する」「医療と介護の複合ニーズが一層高まる」「死亡数が一層増加する」とある(p103~106)。
これまでの地域医療構想は制度論が中心だった。しかし、2040年を見据えた新しい地域医療構想は、これら4点への対応として位置づけられるはずだ。病床数を中心とした、つまり病院中心の構想では、地域医療構想とは言えない。
在宅医療の受け皿が十分に整備されない限り、かかりつけ医・在支診・病院の連携による地域完結型の医療提供体制を構築することは困難である。そういう問題意識に立った。
2040年に向けた地域医療構想の根幹は何か。超高齢社会、長寿社会に求められる医療機能とは、まず、「治す」に特化した高次機能を担う病院だ。数は少なくてもよいが必要だろう。そして、地域医療、在宅医療を支える中小病院と診療所。
これらが中心となって、外来から在宅医療へシフトし、生活、介護、医療の一体的取り組みを実現していく。在宅医療が地域医療構想の主要な課題となり、その上で、病院のあり方が追求されていくことが重要である。
地域医療構想が完結するためには、病院完結型医療から地域完結型医療への転換が必要であり、そのためには、かかりつけ医機能の整備が不可欠である。
新たな地域医療構想に期待することは、まず、医療機関の役割分担・連携と、医療・介護の複合ニーズへの対応だ。都道府県や2次医療圏は広域で、地域完結型医療は構築できないから、市町村の高齢者計画との整合性や、市町村独自の医療計画も必要となるだろう。
そして、タスクシェアのために人材育成が必要。たとえば、特定行為のできる看護師の養成、その推進が求められる。
![新田國夫氏 新田國夫氏](https://cksk.org/wp/wp-content/uploads/2020/07/新田先生掲載用新.jpg)
新田國夫(にった・くにお) 新田クリニック院長、日本在宅ケアアライアンス理事長
1990年に東京・国立に新田クリニックを開業以来、在宅医療と在宅看取りに携わる。