第47回 かかりつけ医と新しい地域医療構想🆕

2024年 6月 26日

かかりつけ医のイメージは「専門医を紹介する」
 『社会保険旬報』に、かかりつけ医のイメージに関する興味深い記事が出ていた(岩本伸一.「かかりつけ医」のイメージは医師と府民の理解に相違がある. 2024.No.2920)。

 大阪府医師会が実施した、かかりつけ医に関する調査に基づくレポートで、筆者は調査委員会委員長である。この調査は2023年3月にインターネットで実施され、医師会員1047人、府民1200人が回答した。

 かかりつけ医に関してはこの連載でも述べてきたように、1980年代から今日まで議論が続けられている。実に40年以上だ。

 2013年には一応、かかりつけ医とかかりつけ医機能が定義されたが、実効性をもって社会に根付いたとはいえない。新型コロナ禍では、かかりつけ医の力を十分に発揮できなかった。

 そんななかで実施された大阪府医師会の調査は、かかりつけ医に対する医師(大阪府医師会員)と一般市民(府民)の現在のイメージや理解度を知る機会となった。

 かかりつけ医のイメージとして、医師会員も府民も多いのは「必要な時には専門医・専門医療機関を紹介」「距離が近い」「長年通院している(距離は不問)」「何でも相談できる」であった。

 「介護認定審査会に必要な主治医意見書を記載している」「地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する」「往診や訪問診療をしている」「健康相談や保健指導を行っている」ついては、医師の回答は「かかりつけ医のイメージと一致・やや一致」が多かった。

 一般市民は「どちらともいえない・一致しない・やや一致しない」が多く、乖離していた。

 総じて、世の中に定着しているかかりつけ医のイメージや役割はそんなものだろう、と思う。大阪のような大都市には多くの医療機関があり、府民は症状や病気に応じて受診先を選ぶのだろう。診療所で対応できなければ、専門医を紹介する。

 つまり、かかりつけ医はゲートキーパーの役割しかない、ということになる。回答した府民は20代から70代と、比較的若い世代であることも影響しているだろう。

新たな地域医療構想に何が必要か
 5月31日、厚労省の「第5回 新たな地域医療構想等に関する検討会」に参考人として参加した。

 新たな地域医療構想は、2040年を見据えた医療提供体制の考察を抜きにして考えられない。そこではかかりつけ医のあり方が重要視されることは間違いない。私が参考人として呼ばれたのも、そのためだと思う。

 ただ、世の中に定着しているかかりつけ医のイメージは、上記の調査からも、「必要な時には専門医・専門医療機関を紹介」「距離が近い」といったものだ。そんな情勢をふまえて、検討会で何を話せばよいか、悩んだ。

 検討会の第1回で事務局が提示した資料には、医療需要の変化として「外来患者数は既に減少局面にある医療圏が多い」「在宅患者数は多くの地域で今後増加する」「医療と介護の複合ニーズが一層高まる」「死亡数が一層増加する」とある(p103~106)。

 これまでの地域医療構想は制度論が中心だった。しかし、2040年を見据えた新しい地域医療構想は、これら4点への対応として位置づけられるはずだ。病床数を中心とした、つまり病院中心の構想では、地域医療構想とは言えない。

 在宅医療の受け皿が十分に整備されない限り、かかりつけ医・在支診・病院の連携による地域完結型の医療提供体制を構築することは困難である。そういう問題意識に立った。

 2040年に向けた地域医療構想の根幹は何か。超高齢社会、長寿社会に求められる医療機能とは、まず、「治す」に特化した高次機能を担う病院だ。数は少なくてもよいが必要だろう。そして、地域医療、在宅医療を支える中小病院と診療所。

 これらが中心となって、外来から在宅医療へシフトし、生活、介護、医療の一体的取り組みを実現していく。在宅医療が地域医療構想の主要な課題となり、その上で、病院のあり方が追求されていくことが重要である。

 地域医療構想が完結するためには、病院完結型医療から地域完結型医療への転換が必要であり、そのためには、かかりつけ医機能の整備が不可欠である。

 新たな地域医療構想に期待することは、まず、医療機関の役割分担・連携と、医療・介護の複合ニーズへの対応だ。都道府県や2次医療圏は広域で、地域完結型医療は構築できないから、市町村の高齢者計画との整合性や、市町村独自の医療計画も必要となるだろう。

 そして、タスクシェアのために人材育成が必要。たとえば、特定行為のできる看護師の養成、その推進が求められる。

新田國夫氏

新田國夫(にった・くにお) 新田クリニック院長、日本在宅ケアアライアンス理事長

1990年に東京・国立に新田クリニックを開業以来、在宅医療と在宅看取りに携わる。

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第46回 能登半島の高齢者ケアをどう立て直せばいいのか

■避難先から帰ってこられない
 4月、能登半島を訪れた。震災後としては1月以来、2度目の訪問である。珠洲市、輪島市、能登町の3市町を回った。石川県は北から能登北部(奥能登)、能登中部、石川中央、加賀南部の4地域に区分されるが、これら3市町はすべて奥能登である。
 
 奥能登では、インフラの復旧は徐々に進んでいるものの、水道はまだ全面復旧に至っていない。道路も大部分で車が通行できるようになってはいるが、まだ崩れたままの箇所も多く、通行止めの区間もあった。
 
 高齢化率は珠洲市が50.3%、輪島市が47.6%、能登町が50.0%と、いずれも市民・町民のほぼ半数が高齢者である。後期高齢者の割合は珠洲市28.6%、輪島市28.1%、能登町29.4%。(以上は珠洲市が2020年、輪島市・能登町は2023年)
 
 高齢者が多いなら、在宅医療も普及していると思われるかもしれない。しかし、地域医療の中心は総合病院であった。奥能登には公立病院が4つあって…

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第45回 「日本在宅医療コングレス」で各地の実践を知る

■15の都道県から発表
 3月上旬、全国在宅療養支援医協会が主催する「第1回 日本在宅医療コングレス」が開かれた。
 
 コングレスは、2019年まで開催された「全国在宅医療医歯薬連合会全国大会」の後継イベントで、今回のテーマは「地域包括ケア時代の在宅医療~その質を問う~」である。会場とオンライン合わせて200人以上が参加した。
 
 第2部「2023年度ブロックフォーラム報告会」では、北海道から沖縄まで15カ所の医師が発表した。発表を聞いて、それぞれの地域課題について独自に活動するということが、都道府県レベルでできるようになってきたことを実感した。こういう場で各地の実践を直接聞くことは、とても意味があると改めて思う。
 
 これまでは全国を8ブロックに分けた単位でのブロック大会であった。ブロック単位だと、県単位の課題には焦点が当たらない。今回は、都道府県の課題がよく見えた。次は市町村単位と…

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第44回 沖縄と函館の在宅医療推進フォーラム

 2月3日に開催された「沖縄県在宅医療推進フォーラム2023」と10日の「第12回北海道在宅医療推進フォーラムIN函館」に参加した。両者を通じて、在宅医療はもうすっかり当たり前の存在になったとつくづく思う。
 
■波照間島の小多機に感動する
 
 沖縄のテーマは「未来へ紡ぐ物語~全てのひとが共存できる社会へ~」。波照間島の小多機の発表に感銘を受けた。波照間島はいわゆる沖縄の離島である。日本最南端の有人島で、天体観測や白い砂浜が有名だ。
 
 この波照間島に小多機「すむづれの家」がある。石垣島を中心とする八重山諸島は石垣市・竹富町・与那国町で構成され、竹富町には西表島や武富島、波照間島など10の有人島が属する。「すむづれの家」は、竹富町唯一の小多機だそうだ。
 
 石垣市や那覇市の病院を退院し、波照間に戻って「すむづれの家」を利用する場合は、病院と連携し…

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第43回 多職種の災害支援チーム、LSATをつくりたい

■地域を守りながら復興を
 能登半島地震からもう1カ月半、高齢化が進む地域の人びとを思う。在宅ケアアライアンスの参加団体も、それぞれが動いている。アライアンスとしても災害対策委員会が発災翌日から動き、連絡網をつくり、活動している。
 
 能登半島という地形の特性が被害を大きくし、東日本大震災や熊本地震とは異なる被害の様相である。まだ水道が復旧しない地域もある。ようやく仮設住宅ができ始めたが、もとの暮らしを取り戻すには時間がかかるだろう。ご苦労はいかばかりか。
 
 2011年の東日本大震災では、仮設住宅に入居する際、もともと暮らしていた地域が考慮されなかったので、隣人もお向かいも知らない人ばかり、という状況になった。地域はバラバラになってしまった。2016年の熊本地震では…

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第42回 愚直かかりつけ医保存会も必要だ

■かかりつけ医機能報告制度が始まる
 前回の「愚直在宅医療保存会」に加えて「愚直かかりつけ医保存会」も必要なんだろうなと思うようになっている。
 
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〈かかりつけ医機能(「身近な地域における日常的な診療、疾病の予防のための措置その他の医療の提供を行う機能」と定義)を十分に理解した上で、自ら適切に医療機関を選択できるよう、医療機能情報提供制度による国民・患者への情報提供の充実・強化を図る。〉
 
こととなる。
 
 2025年4月には「かかりつけ医機能報告」が施行され…

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