2月3日に開催された「沖縄県在宅医療推進フォーラム2023」と10日の「第12回北海道在宅医療推進フォーラムIN函館」に参加した。両者を通じて、在宅医療はもうすっかり当たり前の存在になったとつくづく思う。
波照間島の小多機に感動する
沖縄のテーマは「未来へ紡ぐ物語~全てのひとが共存できる社会へ~」。波照間島の小多機の発表に感銘を受けた。波照間島はいわゆる沖縄の離島である。日本最南端の有人島で、天体観測や白い砂浜が有名だ。
この波照間島に小多機「すむづれの家」がある。石垣島を中心とする八重山諸島は石垣市・竹富町・与那国町で構成され、竹富町には西表島や武富島、波照間島など10の有人島が属する。「すむづれの家」は、竹富町唯一の小多機だそうだ。
石垣市や那覇市の病院を退院し、波照間に戻って「すむづれの家」を利用する場合は、病院と連携し、スタッフが退院時から付き添う。たんの吸引などを行いながら船に乗り、波照間島に帰ってくる。
ドクター・ゴン(泰川恵吾医師)によれば、宮古島ー波照間の距離は、ほぼ東京ー大阪に匹敵するそうだ。
石垣や那覇といった都会から、船で波照間に帰ってきて、美しい海や空や星に囲まれてのんびり過ごし、最期を迎える。素敵な話だ。スタッフの皆さんもいきいきと仕事をしていることが、発表からよく伝わってきた。
函館のテーマは「自分らしく暮らしていくために必要なこととは?」。これが在宅医療の大会のテーマとなることが、まずうれしい。登壇者はこのテーマを丁寧に掘り下げ、聴きごたえがあった。
基調講演に登壇した「あおいけあ」(神奈川・藤沢)の加藤忠相さんは、介護業界ではよく知られる事業者で、認知症ケアの第一人者だ。「あおいけあ」の小多機やグループホームでは、認知症の人がいきいきと生活している。
在宅医療・ケアがしっかり根付いている
沖縄と函館の大会に参加して、在宅医療・ケアがしっかり根付いていると実感した。
表面的な、表現は悪いが診療報酬目当てとか流行に乗っただけとか、そういうものでは全くない。地域の高齢者や療養者が生きがいをもてる生活を提供し、支える。そんな医療・ケアが実現し、自然な形で息づいている。
函館のテーマ「自分らしく暮らしていく」に関して、本人がだんだん弱っていくなかで「その人らしく」ということに誰が気づくのか、という問題提起があった。
本人が表明できなくなったら、周囲のだれかが気づいてほしい。その「だれか」とは、生活を支えている介護職だ。
医療者はパッと来て診るだけで、その人が今、何を考えているか、どうしたいのか、ほとんどわからない。介護職が中心となって「本人の思い」を推しはかり、周囲に共有し、実現する。
どう実現するかは、介護職が中心となって、みんなで考えたい。それが正解だと思う。沖縄の大会も含めて、このことを改めて再確認できた。
新田國夫(にった・くにお) 新田クリニック院長、日本在宅ケアアライアンス理事長
1990年に東京・国立に新田クリニックを開業以来、在宅医療と在宅看取りに携わる。