第29回 かかりつけ「医」よりかかりつけ「医療機関」

2023年 1月 4日

 新田クリニックを初めて受診した外来患者さんに、「私のかかりつけ医になっていただけますか」と言われ、喜んで、と答えた。これまで都心の企業に勤め、会社近くのクリニックにかかっていたんだけど、定年退職したから、という。大都市のサラリーマンには…
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第54回 国立市長選で現職候補が敗北した🆕

■地域包括ケアは高齢者偏重ではない
 昨年12月、国立市長選挙が行われ、現職の候補が新人に敗れた。わずか582票差であった。私は現職候補を応援し、街頭にも立った。
 
 2011年に市長に就任した佐藤一夫氏と、いわば二人三脚で、私は地域包括ケアを実践してきた。地域包括ケアって一体なんだろう。介護が必要になったら施設に入るのがベストじゃないのか。2011年は、まだそんな時代だった。
 
 その佐藤市長が在任中の2016年11月に逝去された後も、後任の市長と協力関係を築いて、在宅ケアや地域医療の普及・向上に努めてきた。その市長が敗れた。
 
 今回の選挙でも、市民の皆様が最後まで地域に暮らし続けることができる社会を目指す、と公約に掲げ、訴えた。しかし、国立市民はそれよりも、新人候補の「子育て支援を重視し現役世代に選ばれるまちづくり」という公約を選んだことになる。
 
 さらに新人候補は当時の市政を「子育て支援が後回しにされている」と批判し、暗に「現職は高齢者施策しかやっていない」と腐した。
 
 地域包括ケアは決して高齢者だけを重視する政策ではない。しかし、現職は高齢者を偏重し子育て世代には冷淡というイメージが先行し、世代間対立があおられてしまった。これから85歳以上の高齢者が増え続け、現役世代は減少する、ということは、厳然たる事実なのに、である。
 
■国立市民は大丈夫なのか
 
 昨年行われた東京都知事選や兵庫県知事選では、SNSが投票行動を大きく動かしたと言われる。虚実がないまぜの投稿に市民は翻弄されている。
 
 国立の市長選でも、同じようなことがあったのだろうか。私が街頭で応援演説していたら、すぐ近くで男がマイクを使って大音量で話し始め…

第53回 患者に「悪い話はしないで」と言われたら🆕

■毎月の事例検討会で
 毎月1回、「チーム国立」という事例検討会を開いている。国立市で在宅ケアに携わる在宅医や訪問看護師、行政などが参加している。
 
 毎回、1事例を発表し、テーマを導いて討論する。先日は「悪い話は聞きたくない、という患者」がテーマとなった。報告された事例は大腸がん末期の66歳女性。数年前に夫を亡くし、息子と2人暮らし。息子は昼間は仕事に出るので、日中独居となる。
 
 この方は4年前に大腸がんと診断され、手術と抗がん剤治療を受けた。抗がん剤の副作用がとてもつらく、1年で中止した後は病院から足が遠のいている。病院から紹介されて、今回の発表者である医師のクリニックで診るようになった。
 
 クリニックに来たとき、この方のがんはすでに肝転移と肺転移があった。小康状態が続いていたが、今年の夏、急に状態が悪化。腰痛が激しくなって動けなくなり…

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第52回 オランダで安楽死の現状を垣間見た🆕

■家庭医との信頼関係のもとで
 10月にオランダを訪問した。オランダは安楽死の“先進国”で、2002年に世界で初めて安楽死を合法化し、さらに昨年、1~11歳の子どもも条件付きで安楽死の対象となった。そんなオランダの現状を聞いてきた。以下は、私が現地で直接聞いた話に基づく。
 
 2019年の安楽死は6361件で、これは総死亡の4.3%というから、今は5%近くになっているだろう。安楽死を選択した理由は、「意味のない苦しみを避ける」が65%である。安楽死の方法は、医師の注射によるものが90%に達する。
 
 オランダには家庭医制度がある。人生の終末をどのように迎えたいか、迎えたくないか、健康な時から安楽死も選択に含めて家庭医と話し合っている人もいる。それを、「安楽死の一般要請」と表現するそうだ。「安楽死トーク」という過程もある(後述)。
 
 家庭医との話し合いの内容は記録され、話し合うたびに変わっていくことも珍しくないし、前回の話し合いで決めたことを撤回してもいい。オランダ在住の日本人にも浸透していて…

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第51回 医師の働き方改革は超高齢者を救えるのか

■素早く地域に戻すことも重要
 85歳以上の高齢者(以降は超高齢者と表記する)は、医療と介護を切り離せない。超高齢者が急性疾患で入院を余儀なくされたとき、その治療だけでなく、いかに素早く地域に戻すかも重要となる。医療だけでなく、生活を支える視点が必要になってくる。
 
 生活の視点を欠いて医療に偏れば偏るほど、超高齢者は地域に戻れなくなる。入院が長引けば虚弱はどんどん進み、行き場所はなくなってしまう。
 
 地域に戻すために、回復期病棟や地域包括病棟ができた。先端医療等を提供する急性期からできるだけ速やかに、地域に戻るための病院に移る。そしてしっかりリハビリを受けてもらう。しかしながら現実は、回復期リハビリテーション病院でリハビリができなくなっている。
 
 高齢者(超高齢者も含む)の生活の質を維持するうえで、近年、三位一体の支援が重要視されている。三位一体とはリハビリ、栄養、口腔の取り組みで…

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第50回 医師の働き方改革にあえて言いたい

■多くを学んだ研修医時代
 2024年4月から、医師の働き方改革の新制度が始まっている。医療法が改正され、医師に対する時間外労働の上限規制が設けられた。労働基準法に設けられている労働時間の上限規制が原則的に医師にも適用される。ただし、救急や研修といった医療機関の類型により、一般労働者とは異なる水準が設定されている。
 
 ワーク・ライフ・バランスを重視する時代、医師もその流れには逆らえない、ということなのだろう。それは理解できるのだが、「愚直在宅医療保存会」「愚直かかりつけ医保存会」(連載42・43回参照)の私としては、あえて疑問を呈したくなる。
 
 私はいわゆる旧研修制度を経験した。2004年に始まった現行の研修制度の前の制度である。旧研修制度の問題点はいろいろ指摘されたが、なかでも批判が集中したのは…

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