人材不足の実態把握と処遇改善へ 要望受け県は調査を実施 諏訪部弘之・神奈川県介護支援専門員協会理事長

2023年 8月 23日

 介護支援専門員(ケアマネジャー)が不足していることは間違いない。ただ、実際にどの程度不足しているのか、分かっていないのが現状だ。そこで神奈川県介護支援専門員協会は昨年末、県に実態調査と人材不足の要因と言われる処遇改善を要望した。経緯や経過などを同協会の諏訪部弘之理事長に聞いた。

県に要望書を提出
――昨年12月、県に「介護支援専門員の人材不足に関する実態把握と今後の対応について」というタイトルの要望書を提出しました。その経緯は。

諏訪部 昨年、神奈川県協会の理事の間で「ケアマネジャーが不足して大変なことになっているという声を聞くようになった」という話が出ました。

 それが一部地域の話なのか、それとも神奈川県全体のことなのか分からないということなので、昨年10月、市町村単位のケアマネジャーの連絡会の代表者と協会の理事、それぞれ20人ほどが集まって、話し合う場を設けました。

諏訪部理事長02

諏訪部弘之理事長

 その結果、神奈川県全域で人材不足が深刻化していることが分かりました。東部の横浜・川崎のような都心部から西部の箱根・小田原まで、事情は同じでした。

 介護保険が開始された当初から、ケアマネジャーが足りないという話はあったけれど、深刻な状況になっていることを知ったわけです。

 ある理事からは「そもそも県はこの事態を把握しているのだろうか」という声もありました。そこで、全県で把握する必要があるという結論になり、昨年12月、県に実態把握と、人材不足の要因と考えらえる処遇改善を求める要望書を提出したわけです。

 処遇改善も必要ですが、そもそも不足していることが正確に把握できているのか、そこを整理しないとまずいのではないか、というのが当協会の問題意識であり、要望書でまず実態把握を求めました。

就労移行調査などを実施
――要望書では「要望1」としてケアマネジャーの人材不足に関する実態把握調査を行い、課題について継続的に協議の場を持つこと、「要望2」で人材確保と就労時の雇用支援、安定的な就労が継続できる環境整備と処遇改善に向けた検討を求めていますね。

諏訪部 実態把握と言っても、それでは具体的に何ができるのか、何からできるかという話になり、県・協会のそれぞれで検討することになりました。

 早々に県から回答を得たのは、ケアマネジャーになるには実務研修を受ける必要があるため、まず研修を受けた人がケアマネジャーになるのかならないのかを調べる就労移行調査なら、比較的早期に始められるということでした。

 実務研修は、神奈川県では1月から約半年間行われます。この研修が終了する時点で就労移行調査を行うことになりました。資格を取得してもケアマネになってくれないのでは話になりませんので、これがまず1点。

 次に、特定事業所加算を取得している事業所は、ケアマネジャーの実習生を受け入れることが要件になっていますので、毎年行われる加算要件を確認するタイミングでアンケートを行い、ケアマネジャーの不足感や実態を調査することになりました。

 これら就労移行調査と特定事業所に対するアンケート調査からケアマネジャー不足の実態が一部見えてくるだろうということで、今年度中に結果が出る予定です。

 一方、当協会としても現場感を知るため、統計学を使ったアンケート調査を実施する計画で、県から提供されるデータと連動してアンケートを作成していく方針です。これらのデータを基に、対策を講じていくことを考えています。

更新研修などの負担軽減へ
――処遇改善については、介護報酬の見直しが必要になるので、県ではなく国の議論になるのでは。

諏訪部 確かに処遇改善は介護報酬と紐づいてしまうため難しい面があるのですが、介護職員の人材確保は県の役割ですので、そこは県が対応する問題だろうと思います。

 要望を県に提出した際、県から、実態調査と処遇改善それぞれに対応する地域福祉課と高齢福祉課の担当者が出てきてくれました。

 処遇改善について、高齢福祉課の担当者から金銭面は難しいという話はありましたが、例えば、ケアマネジャーは更新研修を受ける必要があり、そこの負担感が大きいので、どうにかならないかと要望しました。

 他県では地域医療介護総合確保基金(*1)を使って法定研修の費用面をバックアップしているところがありますが、神奈川県では感染症対策などにしか活用していません。

 また、教育訓練給付制度(*2)というものもあり、令和に入ってから、ケアマネジャーの更新研修、主任ケアマネジャーの研修と更新研修にも使えるようになりました。こちらも神奈川県の一部の団体でしか使っていませんでした。

 教育訓練給付制度は受講生でなく、研修を主催している団体がまず登録する必要があります。そこで、研修を主催している団体に向け、教育訓練給付を活用することを周知するよう県にお願いしました。

 介護報酬の見直しが必要なのは言うまでもありませんが、これについては国の審議会でしっかり議論をしていただくとして、できるところから取り組んでいく必要があります。

 なお、実態把握や処遇改善などに対して県は前向きで、要望書を提出した際、「こういう話を持ってきてくれてありがたい」「実態把握は要望を聞いて必要だと思った」「今後もこうした場を設けて話し合う必要がある」と言っていました。

要望書01

神奈川県介護支援専門員協会が県に提出した要望書

ICT活用で地域会員を支援
――要望2で「環境整備」という文言が入っています。これは。

諏訪部 例えば、オンライン化あるいはICT化を進めるに当たって、市町村によって申請書類が異なったり、やり方が異なったりするのは手間になるので、県として共通基盤みたいなことを整備ができないか、ということです。

 また、来年から法定研修のカリキュラムが大きく変わり、法定外研修ともしっかり連動することになっています。法定研修は市町村単位で実施しますので、市町村間で差が出ないように、県から市町村へ働きかけてもらう。

 このように、県が主導して書類などの標準化を図る。あるいは市町村に対し、今求められていることをきちんと発信する。「環境整備」というのは、そうしたことを意味しています。

――ケアマネジャーの負担軽減も課題ですが、県協会として取り組んでいることは。

諏訪部 コロナ禍で国はリモートを活用するよう勧めましたが、そもそもオンラインやリモートってどうやったらいいのか、という声が地域の会員からありました。これに対し、ノウハウの提供、例えばzoomはこうした使い方ができるといった、オンラインマニュアルのようなものを提供しました。

 医療との連携だったり、BCP(事業継続計画)の作成だったりといったことについても、やり方を示して地域の声に応えるようにしています。

 ICTやAIを苦手とする人もいますが、進めないわけにはいかないと思っていますので、コロナ禍の最初の段階で、当協会はオンラインでの研修体系を構築しました。そういったICTの活用を進めていくことで、最終的に業務負担の軽減につながると思っています。

ケアマネジャーになるには経験が必要
――ケアマネジャーになるには、国家資格を取得してから5年以上の実務研修などが必要です。ケアマネ不足にはこうしたことがあるのでは。

諏訪部 大学などで学んだ後に、そのままケアマネジャーになれる道があるべきではないか、という意見があります。

 一方で、若い人が多岐に渡る生活の課題を把握できるか、という問題もあります。5年間の国家資格を持った人がケアマネジャーになるということの背景には、そうした事情もあります。

 私は28歳でケアマネジャーになりましたが、40歳を超えたケアマネジャーと比べられることが多々ありました。28歳でも厳しいなと思っていましたから、大学を卒業したばかりの22、23歳の若者が、居宅介護支援事業所のケアマネジャーになるのは難しいかもしれません。

 社会経験の浅い若者が、いきなりごみ屋敷に行ったり、虐待の現場に行ったりして適切に対応できるのか、ということを考えると、ある程度、社会との接点や経験が必要だと思います。

 以前は、ホームヘルパーの資格を持っている人、介護を10年経験した人など、国家資格を持っていなくても受験できるコースがありました。それが、数年前に国家資格を持っていることが要件になりました。

 質を向上させるという意味では間違っていないと思いますが、これで明らかに受験者数が減りました

 ただ、ケアマネジャー不足については、全国で働き手が減っていること、ケアマネジャーが高齢化していること、介護職の処遇改善があったこと、受験の要件が変わったこと、こうしたことが積み重なって、このタイミングで噴き出し、顕在化したと感じています。個人的な分析ですが。

――若い人たちにケアマネジャーを目指してもらうのに必要なことは。

諏訪部 リモートワーク、ICT、AIと言いながらも、ケアマネジャーの仕事は対人援助です。そこがケアマネジャーの魅力だと思いますので、対人援助の魅力を若い人に訴えていかなければいけないと思います。

 

*1 国から交付される交付金と都道府県の一般財源を原資として基金を設け、都道府県が策定する「地域の医療及び介護の総合的な確保のための事業の実施に関する計画」に掲載された事業に活用するもの。

*2 一定の受給要件を満たす人が、厚生労働大臣の指定を受けた教育訓練を受講・修了した場合に、その費用の一部が教育訓練給付金として支給される。専門実践教育訓練、特定一般教育訓練、一般教育訓練の3種類があり、ケアマネジャーの資格取得と更新研修は、特定一般教育訓練と一般教育訓練が対象になる。

 

すわべ・ひろゆき
在宅介護支援センター・地域包括支援センターを経て、医療法人社団湘風会フィオーレ久里浜居宅介護支援室室長。神奈川県立保健福祉大学大学院修士課程を修了し、法人内の居宅介護支援事業所を統括。2021年より神奈川県介護支援専門員協会理事長。

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■サービスの種類増などで業務負荷が大きく
――介護支援専門員や居宅介護支援事業所などをめぐる現在の課題は。
 
濵田 介護職員や他の産業など他の職種と対比して処遇改善の問題がまずあり、次に業務負荷が大きいことです。業務負荷については、突然そうなったわけではなく、徐々にそうなってきたと考えています。
 
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 また、平成18(2006)年以降、質向上が叫ばれ、いろいろな研修が行われるようになりました。それが積み重なって、負荷が高まってきたという面もあります。
 
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■世田谷でもケアマネ不足は深刻
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 また、区内のある地域では、ケアマネ不足により、地域包括支援センターからケアプランの作成を依頼されても、受けられる居宅介護支援事業所がない状況にある。
 
 この地域は1人、あるいは少人数で運営している事業所が多く、「燃え尽きてやめる、あるいは採算が合わないことを理由に廃業しているため」(相川会長)だという。
 
 「燃え尽きてしまう」という点について、相川会長は…

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 ケアマネジャーや居宅介護支援事業所をめぐりさまざまな課題や方向性が示されているが、現役のケアマネはどう見ているのか。東京都内の事業所に勤める3人に聞いた。
 
■「ケアプランこきん」の高見澄子さん、有薗智保さん
 主任ケアマネジャーの高見澄子さんとケアマネジャーの有薗智保さんは、小金井市の「ケアプランこきん」に勤務している。同事業所の特徴は訪問看護ステーション「国立メディカルケア」に併設された居宅介護支援事業所であること。
 
 このため、医療依存度が高かったり、末期だったりといった利用者を紹介されるケースが多く、看取りを行う場合にも「医療職が身近にいるので対応しやすい」(高見さん)そうだ。
 
 医療・介護連携という点では、さらに入院時情報連携加算に関して「早急に書類を作成し、プランを添付して送る」(有薗さん)ようにしている。ケアマネは加算を付ける機会が少ないことに加え、3日以内に情報を提供すれば、より点数が高いⅠを算定できるからだ。
 
 退院後はプランを病院に送ることしているが、提供した情報がうまく活用されているかは疑問である。
 
 2人はどのような経緯でケアマネジャーになったのだろうか。高見さんはヘルパーとしてデイサービスや障害者の訪問介護などさまざまな施設で働いた後、正社員として大手の訪問介護のサービス提供責任者となった。
 
 介護保険制度の創設に伴い、ケアマネジャーとともに計画の立案などを行っているうちに興味を持ち、2005年にケアマネの資格を取得した。
 
 管理職として東京全体の居宅介護支援事業所を取りまとめていた間に主任ケアマネの資格を取った。そのころ医療との連携の重要性を知りいろいろな勉強会に出る中で、より医療と近いところで働きたいと考え、現在の職場に転職した。
 
 一方、有薗さんは介護福祉士として大手のデイサービス部門で働いていた際、相談員になることを希望し、ケアマネジャーの資格を取ればなれるかと考え、2018年に資格を取得した。
 
 結局、相談員にはなれず、ケアマネが足りないということでグループの居宅介護支援事業所でケアマネの業務に就いたものの、多い時には46~47件も担当させられるなど大変な職場だったため、こきんに移った。現在は34~35件程度を担当しているため、無理なく業務をこなせるとのこと。
 
■虐待のケースの依頼が増加
 ケアマネジャーのなり手が少ないことについては、仕事が大変な一方で、収入が介護現場の職員に比べ少ないことが指摘されている。
 
 職務の大変さについて、ケアマネに関して20年弱の経験を持つ高見さんは、書類作成の多さに加え、絶えず加算が変更されるので、それについていくことが一苦労だと指摘する。
 
 有薗さんはそれに加え、独居で認知症だったり、経済的な問題を抱えていたり、家族関係に課題があったりといった、どこの事業所でもある難しいケースに加え、家庭内で虐待が増えていることを挙げている。
 
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■給料が上がらないのに責任が重く
――ケアマネジャー不足をどう見ますか。
 
高野 私がケアマネジャーをやっていた2000年代前半ぐらいは、夜勤がない上に給料は高く、責任を持った仕事ができるということで、介護職員のキャリアアップの1つのルートとしてケアマネがありました。
 
 今は、給料は上がらないのに責任がすごく重くなってきた。一方で介護職員の給料が改善され、ケアマネと介護職員の収入が肩を並べるようになっています。こうしたことから、ケアマネのなり手が少なくなってきたということではないでしょうか。
 
 2018年に受験資格が変更されたことで、受験者数も合格者数も急減しました。その後、合格者数は増えたり減ったりしているものの、2017年に比べると、現在は4分の1ぐらいに減っています。
 
 それなのに、国はケアマネジャーの激減に対し、あまり危機感を持っていないようです。しかし、福祉分野の職業紹介やマッチングを行っている中央福祉人材センターのデータによると、去年10月のデータでは、有効求人倍率は介護職が4.85倍、ホームヘルパーは6.25倍です。

 
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――なぜなのでしょう。
 
高野 もともと給料がちょっと良かった、というイメージに引きずられているのかもしれません。ヘルパーの高齢化が言われて久しいのですが、ケアマネジャーも平均年齢はヘルパーと同じくらいの水準となっています。
 
 今から10年後ぐらいのケアマネジメントを考えた時に、若い人がもっと入ってくるような仕組みを作っていかないとまずいことになるでしょう。
 
――主任ケアマネジャーの不足も問題です。
 
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