ケアマネジャー不足とともに深刻なのが、主任ケアマネが足りないこと。居宅介護支援事業所の管理者は、2018年度の介護報酬改定で、主任ケアマネでなければならなくなったため、その確保が大きな課題となっている。こうした中、東京都世田谷区では、独自の方法により主任ケアマネ養成に結び付く取り組みを行っている。
世田谷でもケアマネ不足は深刻
ケアマネジャー不足については、世田谷区も例外ではない。区のケアマネの職能団体である世田谷ケアマネジャー連絡会の相川しのぶ会長(やさしい手世田谷東支社副支社長)によると、自分が担当する自社の5つの事業所でもケアマネが足りていないとのこと。
また、区内のある地域では、ケアマネ不足により、地域包括支援センターからケアプランの作成を依頼されても、受けられる居宅介護支援事業所がない状況にある。
この地域は1人、あるいは少人数で運営している事業所が多く、「燃え尽きてやめる、あるいは採算が合わないことを理由に廃業しているため」(相川会長)だという。

相川しのぶ会長
また、昨今の事情として、家族からのクレームや要望が増えていることがケアマネの精神的疲労に追い打ちをかけている。インターネットで調べ、ケアマネとはこんなことをしてくれるものだとか、訪問介護はこうすべきだ、などと言ってくるそうだ。
あるいは、週3回デイサービスに通うことを利用者が希望しているのに、経済的に問題がないにも関わらず、家族が出費を嫌って週1回しか行かせてもらえないケースもある。
この家族がいなかったら、もっといいサービスを受けられる、いい生活ができる、という高齢者が何人もいるとのことで、かえって独居の人の方がやりやすいとのこと。
ケアマネに対する研修を実施
ただ、独居でも身寄りのない人の場合は、入院が大変だ。病院側が身寄りを確認できないと、ケアマネに入院のサインや手術の同意書を書くことを求めてくる。「こうしたことをケアマネはできないことを、医療側に理解してほしい」と相川会長は述べている。
さらに、相川会長はケアマネを守るため、多職種連携と行政のバックアップ、地域包括ケア会議の開催の必要性を指摘する。「その人に焦点があてられ、ケアマネは1人じゃないということを確認できるから」だ。
ケアマネジャーをめぐるこうした課題に対し、区が手をこまねいているわけではない。福祉・介護などの分野でさまざまな講演・研修を行っている世田谷区福祉人材育成・研修センターでは、面接・メールにより職場での人間関係やストレス、介護技術などに関する相談を受けている。
また、同センターでは独自の高齢者アセスメントツール「8領域21ニーズ」を使ってケアマネの研修を行っている。
これは「健康管理」「ADL」「介護負担」など8つの分野について、「慢性疾患の管理」「看護処置」「普段の体調」など、アセスメントシートを作成するための21の質問項目を整理したものだ。
例えば、慢性疾患の管理では、病名や症状、主治医情報など把握すべき項目を具体的に例示し、それぞれについてニーズの有無、優先順位、ニーズの有無の根拠、ケアマネの方針を書くことで、アセスメントシートを完成させられるようになっている。
主任ケアマネは増加
一方で、主任ケアマネジャーについては、独自のリーダー養成制度を設けていることもあり、希望するケアマネが多く、不足しているというより、むしろ増えている。
この養成制度の研修を行っているのも同センターで、この研修を受けることが、都の主任ケアマネ研修受講に必要な、区からの推薦を受ける要件となっている。それゆえ、対象となるのは5年以上の経験があるケアマネだ。
研修は、昨年度を例に挙げると、8月から今年2月にかけて計6回行われ、「世田谷区ケアマネジメントの基礎知識」「グループリーダー・ファシリテーターの役割」などの動画視聴、グループごとの事例演習、事例演習でのスーパービジョンに向けての学習、スーパービジョン演習を実施した。
ただ、この研修が区からの推薦を受ける要件になっていると言っても、それ自体が目的ではなく、8領域21ニーズを使っての研修同様、あくまでも区内のケアマネの質の向上を図ることを主眼としており、その先に主任ケアマネの養成があると言える。
なお、主任ケアマネの受講資格を得る上で、希望するだけで推薦してくれる自治体もある。それにも関わらず、世田谷で働くケアマネが、敢えて区内でこの研修を受けて主任ケアマネになろうとするのは、世田谷で主任ケアマネとして働くことを希望しているからだ。
5つの地域で主任ケアマネが活動
世田谷区は23区の中で2番目に面積が大きく、人口は最も多くて90万人を超えている。そうした事情もあって「世田谷・北沢・玉川・砧・烏山の5地域それぞれで、主任ケアマネジャーたちが積極的に活動を行っている」(相川しのぶ会長)。
その背景にあるのは、各地区で主任ケアマネが地域に根付き、協力体制が出来上がっていること。主任ケアマネが主体となってケアマネジメントの質の向上を図る研修会を開催したり、交流会を催したり、活発に活動している。
それを見て、新たに主任ケアマネになろうと考えているケアマネは、区内で働くことを望むのだという。
連絡会では、こうした各地区で活動している主任の交流の場を設けている。同会には研修・交流推進委員会、主任ケアマネ部会、広報・情報共有委員会、施設ケアマネ部会があり、主任ケアマネ部会では多職種連携や地域包括ケアなどをテーマに研修を行っている。
ただ、相川会長によると、連絡会の現状は職能団体としての機能が十分でなく、例えば、連絡会としてケアマネの相談に乗れる体制づくりや、区にもう少しケアマネの支援をしてもらえるように働きかけるなど、今後の活動を模索しているところだ。
また、連絡会の役員はほぼボランティアで、次期の役員のなり手がないのが現状であることから、こうしたことも改革していく必要性を相川会長は感じている。