新型コロナウイルス感染症の第5波は、9月に入って新規陽性者は減少傾向にあるものの、重症者は高止まりし自宅療養者が激増している。そして、自宅療養者の健康観察がなされず急激な悪化が見逃され、亡くなるという、あってはならない事態が相次いでいる。これは一体…
第57回 生命倫理の先人から改めて学んだ🆕
■木村利人さんを再読する
生命倫理(バイオエシックス)の研究者で、日本生命倫理学会の会長を長く務められた木村利人さんの『自分のいのちは自分で決める』(2000年、集英社)を再読した。とても面白い。第1章から第4章まで、順に「生」「病」「老」「死」について述べている。各章から、印象に残る節見出しを拾ってみよう。
自分のいのちを自分の手に取り戻す」(第1章)
病気は患者自身が治すもの」(第2章)
「高齢者の生きがいと健康づくり」(第3章)
「死なせないのが医療ではない」(第4章)
これらすべて、この本が出て25年後の今日、私たちが在宅医療で心していることばかりだ。
この本より10年以上前の1987年に刊行された『いのちを考える:バイオエシックスのすすめ』(日本評論社)には「自然な生の終り」という節があって、経鼻栄養を外すことを認めてほしいと、本人と後見人である甥が裁判を起こす実話が紹介されている。そして終末期の病床に臥す人に何が必要かを、丁寧に丁寧に記述する。
87年といえば、昭和62年だ。それから年号が2つ進んだ現代もなお、胃ろうや経管栄養をめぐって議論がなされていることを思うと、木村さんの先見性に感服するしかない。今日の医療現場に生命倫理は生かされているか、考え込んだ。
■臨床倫理の4分割法
前回触れた医療倫理の4原則(自律性の尊重、善行、無危害、公正)とは別に、臨床倫理の4分割法という考え方もある。それはJonsenらが1992年に示した考え方で…