タカノの車いす用クッションや移乗用ボードなどの医療・介護関連製品は、発売から20年以上ロングセラーを続けている。事業全体の中では大きなボリュームとは言えないものの、同社では今後もこうしたニッチながら医療・介護分野で不可欠な製品の開発に取り組んでいく方針だ。

ロングセラーの「タカノクッションR」
ばねメーカーとしてスタートし、今年で創業81年を迎えるタカノは、金属加工の技術を生かして1968年から折畳ばねいすと回転いすのOEM供給を始め、これが現在の主力製品となっている。
その後、83年から自販事業に乗り出し、産学官連携により、まず液晶ディスプレイや半導体の検査装置といったエレクトロニクス製品を、94年からは車いす用クッションを始めとする医療・介護関連製品を事業化している。
車いす用クッションは、いすを製造する技術を生かして車いすや歩行車を開発する中で誕生した。さまざまなタイプをそろえているが、その中で主力となっているのは「タカノクッションR」である。
「車いす用クッションという概念がない時代から販売しているロングセラー商品で、人気の秘密は体圧分散性と座位保持性を両立させているにも関わらず、リーズナブルな価格を実現していること」(ヘルスケア部門営業部の早川修平部長)。

「タカノクッションR」(右)と、カバー材が完全防水タイプとなっている「タカノクッションwipeR」
車いす用クッションに求められる機能として、特に重要なのが体圧分散性である。体圧を適切に分散させないと、痛いだけでなく、褥瘡にまで発展してしまうからだ。
タカノクッションRは座骨が当たる部分に低反発ウレタンを使用することで尻を沈みこませて姿勢を安定させるとともに、体圧を分散する。一方、周囲と大腿部が当たる部分にはしっかりしたウレタンを使用し、姿勢を保持するようになっている。
また、最上部には柔らかいウレタンを使って座った時に優しい感触となるようにし、底面部は固めのウレタンを採用することで底付きを防いでいる。
7~10種類のウレタンを手作業で張り合わせ
タカノクッションRには、使う人の状態によって6タイプがある。例えば、座る時間が長かったり、姿勢を保持できなかったりする人には、大腿部と尻の位置を保持するコンター形状の「タイプ1」、横に傾いてしまったり、前ずれが特に気になる人には前部を高くした「タイプ3」がある、という具合だ。
こうした機能を実現するため、製品によって7~10パーツのウレタンを手作業で貼り合わせている。
なお、同製品のカバーも人気で、カバーだけを購入して他社製クッションに付ける人もいるほどだ。
「表面は通気が良くサラっとしている上に、ラミレート加工も施している。ダイヤ柄になっていることで前に滑りにくく、横には移乗しやすいように若干滑りやすくというように、微妙な設計を施している」と、ヘルスケア部門福祉営業係の赤羽加奈子係長はカバーの人気の理由を説明している。
ちなみに、カバー材が完全防水タイプとなっている「タカノクッションwipeR」も取りそろえている。
一方、特徴的なクッションとしては腰椎・座骨・骨盤をサポートする座位保持クッション「LAPS」がある。福祉工学が専門の繁成剛・前東洋大学(現長野大学)教授と共同開発した製品で、サポート性能の高いハイエンド製品となっている。

座位保持クッション「LAPS」
骨盤周りをしっかりサポートすることと、車いすと背の間の隙間を埋めることで姿勢を保つような立体形状になっているため、円背であったり、痩せていたり、前にずれたりする人に適している。
「のせかえくん」もロングセラー商品
移乗用ボード「のせかえくん」もロングセラー商品である。同社の医療関係製品として、ストレッチャーが椅子になる内視鏡検査用ストレッチャー「コンバーシリーズ」があるが、それを発売した際、移乗が課題だということで開発した。
移乗ツールにはいろいろなものがあるが、のせかえくんは表面が柔らかくてクッション性があり、裏面は滑りやすくなっている。のせかえくんを使えば2人で職員さんの負担を最小限に移乗させることができる。
最初はコンバーシリーズの付属品として販売していたものの、医療介護現場からの要望があったことから単独で販売することにした。コンバーシリーズのほか、ベッドからストレッチャーに、あるいはベッドからリクライニングできる車いすに移乗させる際などに使用する。
赤羽係長によると「抱きかかえなどをしないという動きが介護業界で出てきており、それを実践するためのツールとしても、全国の病院や高齢者施設で使われるようになっている」そうだ。
また、「20年間右肩上がりで成長しているということは、現場でそうした意識が高まってきているのではないか」と早川部長は見ている。
のせかえくんの息の長い人気を背景に、今夏、「のせかえくんスライド」を発売することにした。こちらはしっかりしたボードタイプになっており、2枚重ねの上部の布が回転することで、差し込み・抜き取り・移乗をより簡単・スムーズに行うことができるようになっている。


「のせかえくん」(左)と「のせかえくんスライド」
利用者の声で復活した速度制御機能付き歩行車
一度は廃版になったものの、利用者の声で復活したのが速度制御機能付き歩行車「U WalkerⅡ(ユーウォーカー2)」である。普通の歩行車では先に歩行車がいってしまい安心して歩けない人、パーキンソン病などの歩行訓練、歩行支援に使われている。
前身の「U Walker(ユーウォーカー)」は2012年に発売したものの、製造コスト高騰のため18年に廃版にした。
しかし、他社の速度制御機能付き歩行車が工具を使って速度を調整するのに対し、ユーウォーカーは手もとのスイッチで制御の強さを調整できるため、復活を求める声が多数寄せられたことから、2021年4月にユーウォーカー2として復活させた。
速度制御にはモーターが使われているものの、充電は不要だ。発売後の売れ行きは順調である。
こうした製品以外にも、コンバーシリーズは内視鏡検査用ストレッチャーという分野の定番商品があり、障害を持つ子ども用のいすやクッションをそろえた「バンビーナチェアシリーズ」は、そうした子どものいる施設で、それぞれ圧倒的なシェアを誇るなど、同社の医療・介護製品はニッチの分野で確固たる地位を占めている。
同社の医療・介護関連製品は会社全体の中で、売上的にはそれほど大きいとは言えない。
しかし、矢島祐太・部門統括執行役員ヘルスケア部門長は「医療や介護、福祉分野は景気に左右されにくい上に、社会貢献という意味でも大切な事業分野なので、継続して伸ばしていきたい」と話している。

(左から)早川部長、赤羽係長、矢島執行役員