介護タクシーで高齢者が気軽に外出できる社会へ 予約アプリ「よぶぞー」を提供〔IT FORCE〕🆕

2024年 12月 25日

 企業向けのシステム開発を行うIT FORCEが2023年3月から提供している、介護タクシー予約アプリ「よぶぞー」の登録者数が5000人を突破した。同社ではこのアプリの利用が広がることで、高齢者が気軽に外出できるようになることを目指している。

開発のポイントは社会貢献とビジネスの両立
 同社は06年に創業し、14年から米セールスフォースのコンサルティングパートナーとして、営業支援や顧客管理など、業務を効率化するシステム「セールスフォース」を国内企業に導入する支援を行っている。

 業務の拡大を図るため、20年ごろから陰山光孝社長をはじめ経営陣が今後の方向性を検討したところ、蓄積したデジタルやITの技術を活用して社会に貢献していくことが、結果的に企業の発展につながるのではないかとの結論に達し、社会課題に挑戦していくことになった。

 介護タクシーに着目したのは「そのころドライバー不足と、団塊の世代が後期高齢者になるという課題がメディアを賑わせており、その両方が関係する介護タクシー事業を効率的に利用していくことが、高齢社会では非常に重要になってくるのではないかと考えた」(よぶぞー事業部の坂本亮事業部長)ためだ。

坂本氏本文

よぶぞー事業部の坂本亮事業部長

 当時、介護タクシーの予約は電話のみ、しかも利用者が必要とする介助の内容によって事業者の対応が変わることから複雑で、同社の調べによると配車までの通話時間に7〜15 分、電話回数も2.5 回要していた。そこで同社では介護タクシーをスマートフォンで簡単に予約できるアプリを開発することにした。

 システム開発を行っている同社にとって、アプリの開発自体は難しくなかった。しかし、どのような情報を入力するかという点については、介護分野の事業を行うのは初めてだったことから不明なことが多く、介護タクシーのドライバーやケアマネジャーなどにヒアリングを行って試行錯誤を重ねた。

 ドライバー側からすれば、体重や介護度など利用者の情報は多ければ多いほどいいが、利用する側にとっては入力事項が多すぎると使い勝手が悪くなる。それを調整するのが大変で、坂本さんによると「毎月バージョンアップをしているぐらいの改善を今もしている」そうだ。

利用者向けと事業者用の2つのアプリ
 よぶぞーは利用者向けアプリと事業者対象のアプリ「よぶぞーPLUS」の2種類がある。事業者用と言っても、介護タクシーはドライバーである個人事業主が運営していることがほとんどなので、ドライバー向けアプリと言っても過言ではない。

 利用者用のアプリを使うには、まず名前とメールアドレスと電話番号を登録する。一般のタクシーアプリは配車、つまりアプリの使用料がかかるが、よぶぞーの場合、利用者が払うのはタクシーの利用料だけで、アプリの使用は無料だ。

 よぶぞーで介護タクシーを予約する場合、利用者は乗車する人の名前や体重、日時、待ち合わせ場所、目的地、階段のあるなし、車いすやストレッチャーを利用するか否かなどの情報を入力する。

 ドライバーを指定したい場合には指定し、そのドライバーが予約を受けられない場合には他の人でもいいかどうかを選び、最後に予約を申し込む。

 初めて利用する時は、アプリに表示される事業者情報を見て、他の利用者の評価やドライバーの顔写真、料金の目安などを参考にして選ぶことになる。

 なお、登録する際に名前を入力しているにもかかわらず、改めて乗車する人の名前を入力するのは、登録する人と乗車する人が異なることが多いからだ。よくあるのは、登録者が乗車する高齢者の家族というケースである。

利用者予約アプリ_利用者詳細
予約利用者アプリ_目安料金01
利用者予約アプリ_予約確認画面

よぶぞーの利用者向けアプリの画面。左からホーム、料金目安、予約内容確認

 一方、事業者が対象のアプリでは、まずアプリを介したメールのやり取りで同社と利用契約を結ぶことになる。契約には「スタンダード」「デラックス」の2つのプランがある。どれも利用1回につき550円かかり、スタンダードプランはシステム利用料として月額1100円、デラックスプランでは2200円必要だ。

 プランの違いは、日本最大の「介護タクシー案内所」というサイトに事業者の紹介ページがあり、現状はそこから予約をする場合、電話での連絡になるが、デラックスプランではそこによぶぞーのボタンがつけられ、すぐによぶぞーのサイトに移行できるようになっていることだ。

 介護タクシーの場合、国土交通省に届け出ている運賃に、介助料やストレッチャー利用料などの料金が加わってくるため、通常のタクシーに比べ料金はかなり高額になる。そうした料金の目安が表示されるのは利用者に安心感を与えている。

 事業者向けアプリでは、予約が入るとその通知が来る。ドライバーは待ち合わせ場所や目的地、利用者などの情報を確認した上で、受け入れるか受け入れないかを選んで通知する。受け入れると、利用者にその連絡が行き、予約が確定する。

高齢者の外出機会を増やしQOL向上へ
 アプリが一般的になっているとはいえ、慣れないとドライバーが使いこなせないおそれがある。そこで、事業者用アプリのトップページに「よくある質問」があり、状況に応じてどうしたらいいか、一読すればわかるようになっている。

 それでもわからない場合は、問い合わせフォームから質問を送ってもらい返答する。その際、いつ、誰から、どのような内容が来たかが記録されるので、後日、同じドライバーから問い合わせがあり、対応する担当者が異なっても、話をスムーズに進めることができる。

 セールスフォースのコンサルティング事業の知見を、よぶぞーの顧客管理に活用した形だ。

 問い合わせには、平日だけでなく土日祝日も対応している。これは「アプリを作っておしまいではなく、利用する上でのサポートまで行うことが重要」(坂本さん)と考えているからだ。

よぶぞーPLUS_ホーム
よぶぞーPLUS_予約受付
よぶぞーPLUS_予約受付

事業者向けアプリ「よぶぞーPLUS」のホーム(左)、設定(中)、予約受付(右)画面

 現時点で課題があるとすれば、アプリの認知度を向上させることだが、検索サイトで「介護タクシー予約」と検索すると上位に出てくるため、利用者にはそれを見て知ってもらったり、上述の介護タクシー案内所などに広告を掲載したりして認知を広めている。

 ドライバーの場合はインターネットで調べて知る以外に、仲間のドライバーから聞いて知ることも多いとのこと。

 なお、介護タクシーの利用には介護タクシー券と福祉タクシー券が使える場合があり、それを発行するのは自治体なので、その窓口と連携してよぶぞーを知ってもらうことも考えている。

 現在、利用登録者数は5000人、契約している事業者数は100社を超え、サービス提供地域は東京・神奈川・千葉・埼玉・大阪・兵庫の6都府県に広がった。今後、事業を拡大していくが、無理して広げていくとサポートが追い付かなくなるため、慎重に進めていくというのが同社の方針だ。

 利用者の用途を調べると、7割ほどが病院や施設への往復で使っている。ただ、中には映画に行くなど楽しみのために利用する人がいて、そうした予約を見ると坂本さんはうれしくなるという。

 この事業を始めて実感したのは、介護タクシーが社会に浸透していないこと。「これまで外出を躊躇していた人がよぶぞーで気軽に出かけられるようになり、QOLの向上に役立つようになるところまで成長させたい」というのが坂本さんの願いだ。

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■筋肉スーツからアシストスーツへ
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 特徴は「二層構造で膝を持ち上げるパーツがあるので歩くのを補助したり、腰のサポートパーツが腰を支える機能を設けたこと」(藤原氏)。
 
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■自社開発の顔認証技術を活用
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 NECプラットフォームズの「NECサニタリー利用記録システム」は、これらを自動化することで、その負担を大幅に削減するとともに利用者の自立支援を可能にした。
 
■コンパクトな設計で職員自ら容易に設置
 このシステムは「排泄検知ユニット」「制御ボックス」と、共用トイレで使う「個人識別センサ」で構成されている。
 
 「排泄検知ユニット」の光学センサで着座と排泄内容を検知し、制御ボックスで利用状況や排泄物の状態を分析する。そのデータは職員のタブレット端末やスマホに送られる。
 
 介護記録ソフトと連携している場合は、データがソフトに自動で記録される。共用トイレでは「個人識別センサ」により誰が使用しているかを識別し

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■自らの体験を基にアプリを開発
 プラスメディは2016年、代表取締役社長兼CEOの永田幹広氏が仲間3人と立ち上げた。そのきっかけは永田氏が指定難病の潰瘍性大腸炎にかかったこと。病院に朝行っても、薬をもらって外に出ると夕方になっており、「おかしいのではないか」と考えたのが始まりだ。
 
 永田氏がもともと新規事業を立ち上げるビジネスをやっていたため、仲間とこの問題を解消しようとプラスメディを創立した。
 
 当初からアプリの活用を考えていたところ、永田氏の高校の同級生である慈恵医大病院の医師からアルム社を紹介された。
 
 同社はいろいろな医療系アプリを開発しており、その中にMyHospitalにつながる技術があった。しかし、それを事業化していなかったため、プラスメディが17年に技術を譲り受け、自分たちが使いたい形に作り替えていった。
 
 実証実験を慈恵医大病院で行い、医師や看護師、患者などから意見を聞いた上で実用化にこぎつけ、19年7月1日、東京都済生会中央病院(東京都港区)で稼働を開始した。
 
 同病院がMyHospitalを採用することになったのは、「カルテは誰のものか」という議論があった中で、当時の高木誠院長が…

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