ダイハツ工業は2018年から提供している送迎支援システム「らくぴた送迎」により、デイサービスの業務負担の約3割を占める送迎の効率化を進めている。さらに22年から提供を開始した福祉介護・共同送迎サービス「ゴイッショ」によって、地域全体での効率的な送迎システムの構築を目指している。
利用者カードを車両の枠に移動して作成
らくぴた送迎を開発することになったのは、15年4月に社内で福祉の専門チームを立ち上げ、同社の社員がダイハツディーラーと一緒に全国の介護施設へ福祉車両の訪問営業をする中で、デイサービスでは送迎計画の作成に苦労しているという声を数多く聞いたことがきっかけだ。

ダイハツの福祉軽車両「タントスローパー」
そこで聞いた現場の苦労の声を基にして、らくぴた送迎の開発を進め、システムと専用スマートフォン(スマホ)により「送迎前」「送迎中」「送迎後」の各シーンで課題を解決するソリューションとして提供を開始した。
クラウドサービスなので、パソコンとインターネットが使える環境なら、ソフトをインストールする必要がなく送迎計画を作ることができる。申し込み後に1事業所あたり1ライセンスを発行する。利用料は1万5000円/月(税込み1万6500円/月)。
送迎中・送迎後のサービスを利用するには専用モバイル端末(スマホ)が必要で、3000円/台(同3300円/台)とモバイル端末保証料273円/台(同300円/台)でレンタルする。
送迎計画の作成では、まず準備として「利用者マスタ」「車両マスタ」「職員マスタ」「事業所マスタ」の各項目に必要情報を入力する。
利用者マスタには利用者の情報を入力するが、らくぴた送迎が連携している「ワイズマン」だけでなく、他の介護記録ソフトからもCSVデータを読み込むことで、すべての利用者の名前や住所、生年月日、電話番号、利用日などの基本データを一括して入力できる。
あとは車いすや歩行器のあるなし、家の道が狭い場合などの軽自動車専用、相性が合わない利用者、希望する移動時間、薬などの持ち物といった詳細情報を入力することで利用者マスタは完成する。家と利用者の写真なども入れられるので、初めて行く職員もスマホを使えば家や利用者を間違えることはない。

送迎表には詳細情報が入力されるので、初めて行く職員も間違えることはない
車両マスタには車の種類や乗れる人数、車いす搭載の可不可など、職員マスタには担当業務や運転可能な車両サイズなど、事業所マスタには事業所の情報を入力する。
計画策定画面にはカレンダー機能があり、日を選ぶとその日の車両と利用者のデータが画像の形で出てくる。作成者は、利用者の名前が表示されたホワイトボードのマグネットのような四角い枠をドラッグし、各車両に移動させるだけで送迎表が作れる。利用者の座席位置の設定が行えるオプションもある。
開発担当者である福祉介護MaaS分野介護ソリューショングループの日野昌浩グループリーダーによると、このカード状の枠を動かすだけで計画が作れるのが特長で「利用している施設の職員たちから特に好評を得ている」という。

日野昌浩グループリーダー
ゼロから計画を作らなくても、自動作成機能で作成した計画を参考にしたり、前週の同じ曜日の計画やベースプランをコピーしたりすることも可能だ。
送迎希望時間や車両、相性などに関して間違いがあった場合はエラーが表示されるので、そうした誤りが避けられる。また、ルートと送迎順を地図上に表示させられるため、新規利用や臨時利用の利用者があった場合、地図を見ながらそうした人を送迎ルートに組み込むことにより容易に対応できる。
ルートが地図上へ表示されることは、初めてそのルートを走行するドライバーの不安を解消することにもつながる。この地図も含め、画面のデザインと表示が見やすいことも特長だ。なお、職員は作成した計画を、プリントアウトかスマホの画面で確認する。
蓄積した送迎記録で計画を改善
送迎中は施設のパソコンと車両のスマホが連携しているので、施設からは車両の位置がリアルタイムに把握できる。これにより、利用者からの到着時間の問い合わせに回答したり、施設で出迎えの準備ができて混雑を回避したりする。
利用者の送迎が完了し、スマホで次の利用者への送迎を開始する“出発”ボタンをドライバーが押すと、施設側のパソコンの送迎状況確認画面の利用者カードには送迎完了を意味する「✓(チェックマーク)」や、その人の送迎終了時刻が記録される。
次の利用者に、1つ前の利用者宅を出発したことを自動電話で通知する機能もある。スマホで利用者に関する申し送り事項が確認できるため、ドライバーが変わっても引継ぎが不要だ。
利用者の急なキャンセルがあった場合、ドライバーのスマホにメッセージと音声で連絡が入ることから、電話に出るために停車する必要がなくなり、スムーズな運行につながる。
利用者に電話連絡が必要な時は、名前の横に電話番号が表示されているので、いちいち調べなくてもそれをタップするだけで電話がかけられる。

管理画面のデザインと表示が見やすいことも特長だ
送迎後はスマホに入力された実績が運行記録として蓄積され、月々の満席率や乗車時間などの記録がグラフで表示でき、計画の分析・改善に役立つ。このような乗車時間の分析により、他の人に比べて乗車時間が長い人がいることが分かれば、その人の負担を軽減させるため、計画が見直せる。
あるいは、遅れたり早く着いたりすることが多いドライバーがいた場合、技量の問題なのか、ルートに無理があるのか、計画を詰め込みすぎているのか、といったことの要因分析が行える。
「なんとなく遅れているのではないか」という感覚の問題ではなく、数字を見てドライバーとともに原因を突き止めることができる。
その他、各利用者の移動時間・乗降時間の実績を学習し、その時間が計画に反映されることで、使えば使うほど、一層精度の高いものになる。
また、日野氏が「開発した自分たちにとって、思いもよらない使い方をしていた」と話す実例がある。
利用者が乗り降りに要する時間も記録できるが、ある施設では利用者の1人の乗降時間が延びているように感じていた。「要介護度が上がっているのではないか」と考え、記録を見たところ、半年前に比べて乗降時間が延びていることが明確に数字で示された。
それをケアマネに伝えて調べてもらった結果、実際に要介護度が上がっていることが判明した。これにより、施設とらくぴた送迎の信頼が得られ、ケアマネから施設への新規利用者の紹介が増えたという予想外の成果もあった。
送迎記録は3年間蓄積されるので、監査の際に活用できる。ただ、自治体によっては5年分の記録を求めるところがあり、施設からは年数の延長を求める声があるため、検討中だ。
地域全体で共同送迎へ
このように、らくぴた送迎は各施設の送迎計画の作成や送迎自体の効率化に貢献するが、それを一歩進め、各施設が単独で行っている送迎業務を共同で行うことで、地域全体で送迎の効率を向上させるのが共同送迎サービスである。
地域の中で送迎の運営や運行を管理する外部の団体を募って送迎の管理業務を集約し、複数施設の利用者が乗り合って各施設に通う仕組みである。

共同送迎のイメージ
システム自体は基本的にらくぴた送迎と同じだが、地域全体のサービスになるため、利用者数が多く、しかも施設ごとの利用者数や利用者の条件などが異なり、データ処理が非常に煩雑になる。
また、地域ごとの課題や目的が異なるので、それぞれの地域に合うように独自の仕組みを作っていく必要があることから、ダイハツはシステムを提供するだけでなく、仕組みの構築に対し、コンサルタントの形で支援することになる。
具体的な進め方としては、自治体や地域の団体と連携協定や業務委託契約を締結するなどして、初年度は地域の介護サービスに関する課題を調査して共同送迎サービスの成立性を検証する。
なお、ゴイッショは自治体が主体的に進める必要はなく、社会福祉法人など民間の事業者が主体的に推進することも可能だ。
初年度以降は、運営主体とともに運営やマニュアルの構築など運営に必要な土台作り、介護施設との送迎に関する諸条件の調整・交渉などをサポートして社会実装に向けた準備を行うほか、共同送迎サービス導入後も参加施設や運行区域の拡大に向けた取り組みなどを支援する。
すでに香川県三豊市と滋賀県野洲市が本格導入しており、三豊市では「一般社団法人みとよ交通システム事業団MiLAIS」(25年3月までは社会福祉協議会)が運営主体となって市内の介護施設などの送迎業務を集約しており、運行を地域のタクシー会社に委託した体制で22年6月から共同送迎を実施している。

三豊市で本格導入前に実施した実証事業から
一方、野洲市では一般社団法人が運営・運行主体として市内の介護施設などの送迎業務を集約しており、昨年10月からは日中の空き車両を活用して、市内の総合事業の利用者に対し、ショッピングセンターなどへの送迎による買い物支援を行っている。
そのほか、島根県出雲市と岡山県高梁市で昨年から実証実験を行い、高梁市とは共同送迎サービス事業の実装に向けて25年3月28日に同市の社会福祉協議会を含めた三社連携協定を締結した。
日野氏によると、共同送迎について「複数の施設持っている法人が送迎を束ねたいとか、10施設のうち7施設は共同送迎を行い、3施設は単独で送迎したいといったさまざまな要望や問い合わせが寄せられている」ことから、同社では今後、そうしたさまざまな送迎に関する共同化を検討していく考えだ。