一般社団法人全国在宅療養支援医協会(在支協)は4月、「在宅医療の安全確保に関する調査報告書」を公表した。この調査は1月に埼玉県ふじみ野市で訪問診療医殺害事件が起こったことを契機に、2月に実施された。
在支協の会員と在宅医療政治連盟の会員のうちメール連絡を許諾している会員を対象に、Webサイトのアンケートフォームに入力する方法で調査した。対象となる会員は在支協775人、政治連盟195人、計970人。回収数は在支協80件、政治連盟70件で計150件、回収率は15.4%であった。
「理不尽な要求やクレーム」について、訪問医の57%が「毎年または数年に1回以上」経験していた。その内容で最多は「病気・状態に対する理解や治療方針」で43%であった。
「身の危険を感じるような経験」は、「毎年または数年に1回以上ある」と「ごく稀にある」の合計で40%となった。恐怖を感じる「脅し・暴言」が30%、「ハサミや刃物による脅し・危険行為」が18%であった。
具体的な行為として以下が挙げられた。(抜粋)
・医学的根拠のない診療行為を要求
・過剰な検査や処方日数制限以上の薬、不要な薬を要求
・夫を生き返らせてほしいと要求
・亡くなった患者を生き返らせないとお前も同じ目に遭わせると恫喝
・医者が診ているのに認知症が進むのはおかしいとクレーム
・治療の結果が思い通りにならないとクレーム
・看取り時、女性医師が壁に追い詰められた
現場での危険に備えた取り組みとして、以下が挙げられた。(抜粋)
・初回訪問前にできるだけ多くの情報を集める
・複数人で訪問
・努力しても信頼関係が築けない場合は診療を断る
・弁護士を介して断る
・患者と家族を「様」でなく「さん」で呼び、対等な関係を意識づける
行政などへの要望としては以下が挙げられた。(抜粋)
・診療拒否や途中退室が応召義務違反とならないように見直し
・努力しても信頼関係が築けない患者には診療拒否できることを広報
・老いや死を受け入れる心構えの啓発
・医療保険制度や介護保険制度について市民が学ぶ機会
・暴力を受けた医療者への補償
報告書は、「病気と状態に対する理解を深め、治療方針について患者・家族等と医療者のあいだで合意形成を進めることが重要」で、2022年度診療報酬改定で在宅療養支援診療所/病院の届出要件に追加された「意思決定支援に関する指針の策定」が役立つ、と考察する。
また、「医療制度や健康保険について、事前にパンフレットなどで説明し同意を得ることで、信頼関係の証左とする対応が考えられる」と助言する。
「身の危険を感じるようや経験」は60%が「なし」であった。地域性や診療科目など医療機関の特性によって、トラブルを起こしやすい患者・家族が生じやすくなる可能性も考慮する必要がある。「精神疾患の患者」による刃物の事案、認知症が背景にあるケースについては、抗議や法的責任を求めることが難しくなっている、と指摘している。
報告書の詳細:202204_houkoku.pdf (zaitakuiryo.or.jp)