最初のゲストは元厚生労働省の中村秀一さんです。
【髙橋】 このウェブマガジンの名称に入っている2040は西暦2040年を意味します。2039年に高齢者の死亡数がピークの167万人に達し、2040年は団塊ジュニアが高齢者にさしかかり、2042年には高齢者数が最多の3387万人と予測される…という、多死社会・超高齢社会が天井に到達する時代です。団塊世代は95歳ぐらいになっています。
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一方では、社会保障というのは市場経済にとって足手まといであり、成長の足かせである、という見方が流布しています。テクノロジーが進歩することや市場が潤うことだけを是とするような風潮もあるし、未来を直視しないで物事が捉えられているようです。医療・介護では、介護予防を推進して健康寿命を延ばせば医療費が安くなるという説が唱えられていますが、専門家はこのような見方に批判的です。
■介護保険の前史としての社会保障
【高橋】 将来と過去のはざまで、立ち止まって考えてみたいと思います。中村さんは現役官僚だった時代に、介護保険の創設や改正を始めとする社会保障の重要政策に節目節目で関わってこられました。また、近年は社会保障の将来像を検討した「社会保障と税の一体改革」に事務局の責任者として関わってこられました。医療と介護の来歴について、改めて伺いたいと思います。
【中村】 将来と過去のはざまということでは、医療・介護のジャンルでは介護保険を軸に考えると、ちょうど今が2040年に向けての折り返し点です。介護保険がスタートしたのが2000年で、今は2020年ですから。
来歴を語る上では、前史としての社会保障、すなわち介護保険創設前の社会保障も語らなくちゃいけないと思うんです。過去にさかのぼると、新しい社会保障制度は第2次世界大戦後にスタートしました。国民皆保険・皆年金が1961年(昭和36年)で、老人福祉法が1963年。1970年代にこれらの運用が本格化して、今の制度と直接つながっていきます。
1990年(平成2年)は、いわば分水嶺でした。戦後ずっと右肩上がりだった日本経済は、このころのバブル景気を最後に下降に転じます。バブルが弾けて30年ほどたちますが、経済はあまり回復していません。
平成に入って少子化が問題となりまして、20世紀終わりごろの社会保障は……