高齢者の住まいの過去・現在・これから 中🆕

2025年 1月 17日

■供給先行で普及したサ高住
髙橋 サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)が登場したのは2011(平成23)年ですね。当時の厚労省老健局長は、サ高住のコンセプトを“厚生年金受給者が入居できる質の高い高齢者住宅”と説明していました。
 
 ところが、今やサ高住は住宅でなく施設のように扱われ、囲い込みの問題も出てきています。サ高住をどう評価されますか。
 
田村 サ高住が登場したのは「介護保険安定期」です。サ高住の前身は高専賃で、さらにその前は高優賃でした。これらをベースに2011年、「高齢者の居住の安定確保に関する法律」(高齢者住まい法)を改正し、サ高住が誕生しました。
 
 そもそも高専賃のニーズはそれほど高くなくて、供給量も年間1万戸程度だったんです。ところがサ高住については、1室当たり100万程度という破格の補助金を出しました。この補助金は、土地持ちや、工務店、設計事務所、ハウスメーカーといった人には魅力的で、みんなそこに飛びついて、年間4万~5万戸と、一気に供給が進みました。
 
 つまりサ高住に住みたいというニーズがあったから供給が進んだわけじゃなくて、先に供給サイドに火がついた。造れば目的が達成されるわけですから、造ったあと、入居者の生活支援をどうするか、その発想がないまま…
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高齢者の住まいの過去・現在・これから 下🆕

■肝は介護保険事業計画が達成されないこと
 
田村 介護保険制度では、保険者(市区町村)は3年ごとに介護保険事業計画を策定します。事業計画には、各サービスをどれだけ整備するか、という計画値(整備目標値)が盛り込まれます。計画値は、ニーズ調査に基づく見込み量から算出されます。
 
 当社では施設・居住系サービスについて、第3期(2006~08年度)事業計画から現在の第9期(2024~26年度)まで、計画値と、実際の整備量(都道府県がまとめる)を追いかけています。計画値と実績値をウォッチしているのです。
 
髙橋 とても貴重なリサーチです。
 
田村 なんと、第3期以降ずっと、計画値のほぼ7掛けぐらいしか整備できていないんです。達成率が最も高かったのは第7期(2018~20年度)の87.9%で、最低は第8期(2021~23年度)の66.3%でした。計画値そのものも、期を重ねるごとに縮んでいます。
 
髙橋 高齢者が増え介護保険サービス利用者の数も増えているのに。
 
田村 ここが一番の肝だと私は思っています。介護保険事業計画は介護保険事業の屋台骨といえます。ところが、ニーズに基づいて計画したにもかかわらず、その7割程度しか整備できない。それはすなわち…

高齢者の住まいの過去・現在・これから 上🆕

■高齢者住宅の誕生から現在
髙橋 本日は田村明孝さんと、有料老人ホームなど高齢者の住まいについて語り合います。田村さんといえば、高齢者住宅の業界ウォッチャーの第一人者として知られます。まず、高齢者住宅の歴史を振り返りましょう。
 
田村 私と業界との付き合いは50年ほどになりました。高齢者住宅・施設の変遷を追うと、以下のように、いくつかの時期に分かれます。
 
 最初は「高齢者住宅黎明期」。1970(昭和45)年、有料老人ホームの先駆けとなるものが出始めました。有料老人ホームはその少し前、1963(昭和38)年に制定された老人福祉法の29条に「届け出制」と規定されたことをきっかけに登場しました。
 
髙橋 老人福祉法では、行政が関与する措置施設の「養護老人ホーム」、今で言う要介護老人を入居させる「特別養護老人ホーム」、健康老人向けの「軽費老人ホーム」が施設体系として規定されました。
 
 養護老人ホームは生活保護法に規定された「養老院」を継承した、低所得階層向けのいわゆる救貧施設でした。特別養護老人ホームの入居には所得制限があり…

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