在宅医療が普及した理由はいくつもあるが、第1には高齢患者が増えたことである。第2の理由――本質的な理由ともいえる――は、臓器の治療を中心とする医療からQOLを重視する医療へと、医療のあり方が大きく変化したことである。
すなわち医療モデルから生活モデルへの変化であり、こうした変化に伴って、ごく自然に在宅医療が普及した。
一方、介護保険制度が始まったばかりの20年ほど前、在宅医療は川下の医療と称された。川上は急性期病院で……
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■家庭医との信頼関係のもとで
10月にオランダを訪問した。オランダは安楽死の“先進国”で、2002年に世界で初めて安楽死を合法化し、さらに昨年、1~11歳の子どもも条件付きで安楽死の対象となった。そんなオランダの現状を聞いてきた。以下は、私が現地で直接聞いた話に基づく。
2019年の安楽死は6361件で、これは総死亡の4.3%というから、今は5%近くになっているだろう。安楽死を選択した理由は、「意味のない苦しみを避ける」が65%である。安楽死の方法は、医師の注射によるものが90%に達する。
オランダには家庭医制度がある。人生の終末をどのように迎えたいか、迎えたくないか、健康な時から安楽死も選択に含めて家庭医と話し合っている人もいる。それを、「安楽死の一般要請」と表現するそうだ。「安楽死トーク」という過程もある(後述)。
家庭医との話し合いの内容は記録され、話し合うたびに変わっていくことも珍しくないし、前回の話し合いで決めたことを撤回してもいい。オランダ在住の日本人にも浸透していて…
■素早く地域に戻すことも重要
85歳以上の高齢者(以降は超高齢者と表記する)は、医療と介護を切り離せない。超高齢者が急性疾患で入院を余儀なくされたとき、その治療だけでなく、いかに素早く地域に戻すかも重要となる。医療だけでなく、生活を支える視点が必要になってくる。
生活の視点を欠いて医療に偏れば偏るほど、超高齢者は地域に戻れなくなる。入院が長引けば虚弱はどんどん進み、行き場所はなくなってしまう。
地域に戻すために、回復期病棟や地域包括病棟ができた。先端医療等を提供する急性期からできるだけ速やかに、地域に戻るための病院に移る。そしてしっかりリハビリを受けてもらう。しかしながら現実は、回復期リハビリテーション病院でリハビリができなくなっている。
高齢者(超高齢者も含む)の生活の質を維持するうえで、近年、三位一体の支援が重要視されている。三位一体とはリハビリ、栄養、口腔の取り組みで…
■多くを学んだ研修医時代
2024年4月から、医師の働き方改革の新制度が始まっている。医療法が改正され、医師に対する時間外労働の上限規制が設けられた。労働基準法に設けられている労働時間の上限規制が原則的に医師にも適用される。ただし、救急や研修といった医療機関の類型により、一般労働者とは異なる水準が設定されている。
ワーク・ライフ・バランスを重視する時代、医師もその流れには逆らえない、ということなのだろう。それは理解できるのだが、「愚直在宅医療保存会」「愚直かかりつけ医保存会」(連載42・43回参照)の私としては、あえて疑問を呈したくなる。
私はいわゆる旧研修制度を経験した。2004年に始まった現行の研修制度の前の制度である。旧研修制度の問題点はいろいろ指摘されたが、なかでも批判が集中したのは…
■かかりつけ医のイメージ
かかりつけ医の役割をめぐる議論で、「かかりつけ医とはゲートキーパーである」という意見をしばしば耳にする。かかりつけ医の役割はプライマリな医療を提供し、必要に応じて専門医や専門医療機関を紹介すること、というものだ。
この意見からは、「かかりつけ医は初歩的・基礎的な医療を提供すればよく、手に余るなら専門医に渡せばよい」といった考えが透けて見える。これは、かかりつけ医がいつもどんな仕事をしているか全く知らない人が、勝手に抱く “かかりつけ医のイメージ”に基づいて考えているに過ぎない。かかりつけ医のそういうイメージは、間違いだ。
どうして日本では「かかりつけ医は初歩的・基礎的な医療を提供すればよいゲートキーパー」のイメージなのか。先日、カナダ・ケベック州を訪れ、家庭医の位置づけや養成システムについて聞く機会を得た。多くの点で日本とは異なり…
■状態が悪化して帰れなくなった
70代前半の独居男性が希少なタイプの胃がんと診断された。病院ではできることがないと言われ、新田クリニックの外来で経過を診ていた。次第に動けなくなってきて、看多機を利用することになった。娘さんは父親を心配しながら、最期はどうするか、家に帰らせていいものかどうかと思い悩んでいる。
ある金曜、私が看多機に立ち寄ると、彼から話があると言われた。娘さんと一緒に翌日行くと、家に帰りたい、と言う。つねづね、いつでも帰っていいですよ、自由に決めてください、と言っていたくらいだから、もちろん異論はない。
これまで本人は、帰ったあと一人で暮らせるか心配で、踏み切れなかった。最期を意識するようになって、やっぱり帰りたい、という気持ちになったようだ。
その週末で訪問看護などのめどがついて、週明けの月曜に娘さんと一緒に帰宅するはずだった。ところが、その月曜、状態像が急激に落ち…
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